或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -38ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

初めての娘との、旅行。

それも娘が計画し、資金まで貯めたことに雪枝は涙が止まらなかった。

それなのに・・・あの人は・・・

しかし、機嫌の悪い仁を無理に連れ出したところで

逆にカオリに窮屈な思いをさせてしまうのは悪い気がした。

雪枝は、せっかく計画してくれたカオリの気持ちを優先し

憂鬱な気分を吹き飛ばすようにわざとうきうきと喜ぶ姿を娘に見せた。





いよいよ、旅行に出かける朝。

愛人のいる夫をみすみす自由にしてしまう、不安だらけの朝。

2泊3日分の食事をタッパーに詰め

ひとつひとつに朝用、夜用とシールまで張り、着替えに至るまで

夫が何不自由ないよう雪枝は完璧に用意してから家を出た。

それは、愛とは違う、本妻の意地だったのかもしれない。

仁が愛人にうつつを抜かし、家庭内別居が始まって以来

その重い空気と、どこにもぶつけられない寂しさを紛らわすため

雪枝はありとあらゆる動物をペットとして自分のそばに置いていた。

犬、オウム、それに猫。


     


      「食事は用意してあります。

      それから、動物たちの世話もお願いします。」





     「わかったよ。君のペットのことは心配しないで

       日頃の疲れを癒しておいで。

       カオリには仕事で行けなくてすまないと伝えておいてくれ。」



仁は、雪枝とは違う意味でその旅行を心待ちにしていたのだろう。

妻を送り出す声も、普段よりずっと優しく穏やかで

一体どれが本当の夫の姿なのか・・・

とにかく後ろ髪を引かれる思いで、雪枝は娘との待ち合わせ場所へと向かった。

夫婦の間で交わされた、留守の約束。

動物の世話をしなければならないのだし

2泊3日まるまる愛人の家で過ごすことは出来ないはず・・・




その期待が、まるで違う形で裏切られることになるとは

その時の雪枝は想像さえしていなかった。

あじさい