或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -37ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

その日。

会社を終えた仁は、足取りもうきうきと愛人の家へ向かった。

そして、湯気の上がる夕飯を前に

仁の帰宅を待っていたALIと千代にこう言った。



   「君たちをどうしても連れて行きたい場所があるんだ!」


ALIのお腹がぺこぺこだった事をわかっていた千代は、仁に向かって言った。


   「あなた、とにかくご飯を先に済ませましょう。

    私もALIもあなただって、お腹がすいているでしょう?」



すると仁は、満面の笑みで言った。


   「ご飯のあとじゃダメなんだ。

   メシを食いに行くんだからな。」


正直、ALIは気が重かった。

外食と言っても、どうせまた懐石や寿司だろう・・・

お行儀にいつも以上に気を使わなくてはいけないし

何よりテレビのない外食の場は

会話に混ぜてもらえないALIには苦痛でもある時間だった。

今、目の前にご飯があるのに・・・

しかし仁の思いつきは、いつだって最優先に実行されなければいけない。

それは、この家の掟。

春は間近だったが、夜の風はまだまだ冷たく

ALIと千代は小ぎれいな服に着替えるとその上にジャケットを羽織り

仁の車へと乗ったのだ。







しばらくして到着したのは、とある住宅街。

ひときわ目立つ立派な塀に囲まれた純和風の閑静なたたずまい

そしてゆっくりと上がる電動シャッターのガレージへと、仁は慎重に車を進ませた。

誰に聞かなくとも、わかっていた。

これは、仁の家だ・・・・・・・・

ALIは子供ながらに思う。

ここは許可なく踏み込んではならない場所・・・他人の家・・・

なかなか車から降りようとしないALIと千代に仁は、弾んだ声で呼びかけた。



   「今日は誰も帰らない。

    君たちにはいつか僕の住まいを案内したいと思っていたんだよ。」



仁と千代はガレージで少しもめていたようだが

しばらくたって千代は抑揚のない声でALIに告げた。


   「ALI。車から降りなさい。

   パパの家を見学しましょう。ALIの好きな動物もいるそうよ。」



千代はため息をつきながら、ガレージの階段をALIの手を引き、上って行った。

足取りも重い、暗くて薄暗い階段・・・罪悪感に押しつぶされそうな死刑囚の気分だ。

その階段の先は、花や観葉植物が飾られた広々としたダイニングキッチンだった。

仁は大きなダイニングテーブルに客人を座らせると

冷蔵庫を開けて、中から取り出した大小様々な大きさのタッパーを次々に並べ始めた。

あじさい