或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -34ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

ALIを置いて、本妻のいない仁の自宅で夜を過ごした千代。

ふらふらになりながら、おぼつく足でALIの待つ家に帰ってきたのは

やはり人目につかぬ朝方のことだった。

ALIの食べた本妻の意地が詰まったとも言えるタッパーを仁に手渡し、二人は別れる。

千代が着てきたジャケットを仁の家に脱ぎ忘れてそのまま帰ってきてしまったことなど

睡眠不足だった二人の目には留まらなかった。




その女物の、安っぽいジャケットの存在に最初に気が付いたのは

仁でも千代でもなく

昼前に娘との旅行から帰宅したばかりの妻の雪枝だった。

雪枝は帰宅して即座にキッチンへ向かい、冷蔵庫とシンクを確認する。

良かった・・・

夫はきちんと家で食事を取ってくれたんだ。

無造作に積み上げられたタッパーを見て、彼女はひと安心した。

その一瞬の後

ふと目をやったダイニングテーブルの椅子の背もたれに

自分の物ではない見たこともない服がかけられているのを発見してしまう。

彼女はそれをわなわなと震えた手でつかむと

無防備に深い眠りに落ちていた夫の目の前へと突き出した。





   「どういうことなの!!!」



仁は、何が何だかわからないまま、そのジャケットと妻の顔を見比べて言った。

およそ仁にはそのジャケットが誰の物なのかさえわからなかっただろう。



   「おかえり・・・旅行は楽しかったかい?」




その寝ぼけた仁の言葉に雪枝の怒りは、頂点を極めた。



    「そんなに、あの女といたいなら、この家に連れこまないで

     あの女と暮らしたらどうなの!!!

     この家は、子供たちの家でもあるのよ!!!!」





雪枝は、仁にそのジャケットを投げつけて、泣き叫んだ。

許せない。留守の間に、あの女がこの家に来ていただなんて。

そこまで夫の頭は狂ってしまったんだ、この人はもう私の知っている夫ではない。

そのたった一枚のジャケットは、長年我慢を貫いてきた雪枝にとって地雷であったのだ。

しばらくの間を置いて、どうその答えにたどりついたのかわからないが


    

       「そうだな・・・じゃあ、遠慮なくそうするか。」



仁はそう言うと、ジャケットを拾い上げ自宅を出た。

それはそれは冷静に。

その辺にあった数日分の下着やYシャツなどを適当にバッグに詰め

妻になんの言葉もかけず、まっすぐ仁は千代の家へと車を走らせた。






それは雪枝が旅行から帰ってからほんのわずかな、十数分間に起きた出来事だった。


あじさい