或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -3ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

出産―――それは女が、命がけで愛の結晶をこの世に生み出す行為。

マサが気持ち悪いと言って触れなかったおなかの中でも着実にその結晶は

成長し続け、自分の存在を知らしめるかのように大きな産声をあげ誕生した。

その誕生に付き添ったのは、千代とマサの母親で

父親であるマサはいなかった。

そんな怖い現場には立ち会いたくないというのが、その理由だ。

10数時間にも及ぶ陣痛の間、手を握り、励ましてくれたのは母の千代だった。

陣痛の波間にふと痛みが遮られる瞬間



       「ALIがそんなに苦しんでいるのを見ると

        ママまでおなか痛くなってきちゃった。」



千代は苦笑まじりにそう言ってALIの頭をなでていた。

マサの父親には跡継ぎとして、男子を強く希望されていたが

生まれたのは女の子、月の明るい静かな夜だった。



向日葵―――ひまり、青い空に向かって高く伸びる、そして大きく花開くひまわり。

あなたにまぶしいほどの太陽がどうか絶えることなくさんさんと降り注ぎますように。

この子に会うためにALIは今まできっと生きてきた。

ひまりの果てしなく輝く未来が

彼女のぎゅっと固く握り締めた小さな手の中に、ある気がした。







産後、仁の元では里帰りも気が休まらないだろうということで

ALIは実家に寄る事もなく、産院から直接マサ一家の待つ家へと戻った。

マサの両親は初孫の誕生に頬が緩みっぱなしで

片時もひまりのそばを離れようとはしなかった。



       「家事もなにもしなくていいから、ゆっくり休んでね。」



特にマサの母親は

産後のALIの体を気遣い、ALIとひまりを異国の姫のように大切に扱った。

おかげで、初めての新生児との生活は不安もなく育児ノイローゼとは無縁に過ごせていた。

授乳のたびに切れて出血する痛みも、ひまりのごくごくと母乳を欲する力強さが嬉しかったぐらいだ。

こんなに自分を必要としてくれる人間がいただろうか

母親がいなければ生きていくことさえ出来ないひまりのか弱さ、

しかし周囲にこれだけの笑顔と安らぎを与える強さ

彼女の存在はこの世の何よりも大きいとALIは思った。

一方マサは

生まれたばかりの赤ちゃんは異星人のようで怖いと言って抱くこともしなかったが

それでも目元が自分に似ていると言っては、ベビーベッドの周りをうろうろしたりして

父親である自覚が少しづつだが芽生えていたようだった。

どうかこのまま・・・

過去を全て葬り去って、ただ穏やかに時間が流れればいい・・・

手に入れたかった幸せは、ALIの目の前にあった。

マサとひまりのささやかな寝息を聞くたび、ただそれだけを願っていた。



ひまわり