或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -17ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

仁と雪枝の経営する会社はバブル崩壊とともに売上が激減し

従業員も全盛期の半分にまで削減せざるを得ない状況で

仁の趣味で始めたビデオ店も相次いで閉店していった。

その会社はもう誰の目から見てもとても魅力的な会社とは言えなかった。

ただ借金を返し、従業員の給料や手形が落ちる日までに間に合うよう金策に走り回る日々。

後継者として名の挙がった人物さえ、それをやんわりと断るようにまでなっていた。

仁は、そんな経営状況の上、後継者が見つからないこともあって



    「会社、もうやめる。

    自己破産した方が楽だし、もう雪枝と顔を合わせなくてすむし。

    お前もいくらか財産があるだろう?それで暮らしていこう。」



そんな冗談とも本気ともつかぬ子供じみたことを千代に言っては

会社にあまり顔も出さなくなり、昼から酒を飲んでいるような日もしばしばあった。

実際、仁は自己破産も視野に入れその下準備にまず

自分が持つ山林や、マンションなどあらゆる仁名義の不動産を息子や娘名義に変更した。

多額の贈与税がかかったとしたって

会社が倒産して全てを失うことに比べれば、どちらが得かは明白だ。

それに対し一緒に住む愛人

もしかしたらこれから一生を供にするかもしれない千代には

今一緒に暮らす家、ビデオ店も閉店し何にも使えないがらんと空いたテナントと

借金だけが残ってしまったその愛の巣を譲渡した。

毎月数十万の借金を払わなければならないそのやっかいな物件を

会社から千代に売り渡したことにしたのだ。

残債は購入価格の半分、5千万ほど残っていた。

千代はその当時でサンヒルズ南ほか2軒の貸家を所有していたが

そこから得られる2軒分の家賃収入を

その物件を手に入れるためにした借金の返済に充てていた。

仁からは毎月20万円の愛人報酬を得ていたが

仁と同居をしてからというもの彼は愛人報酬以外を千代に渡すことはなく

家族3人分の生活費は千代の口座から引き落とされていたし

グルメな仁の食費だってバカにならなかった。

そんな経済状況を考えると

さらに月何十万もの新たな借金など千代の返済能力をはるかに超えている。

千代は仁の一方的なやり方に最後まで反対していたが

雪枝と別れるには彼女が連帯保証人となっている借金を無くしていくほかはないと

千代を説得した。


    

「毎月の返済は僕がしっかり責任を持つから。」




千代は

仁の口にする≪責任≫という言葉がどれだけ軽く現実味のないことはわかっていたはずだ。

けれども最終的に千代はその売買契約書にはんこを押した。

それはやはり仁を愛していたから。

離婚のために自分が出来ること

借金を背負ってでも愛する人との未来を夢見たかったのだ。






ALIが泣いて家を出ようと言った時もそれを断るしかなかったのは、

仁が千代に押し付けたこの借金が理由だった。

名義こそ千代の物件だが、仁の経済力がなければ返せないのだ。

仁と別れることを選択するということは必然的に

この物件の借金が返せないという事でもあり

今まで自分が子供たちのためをと思ってせっせと蓄えてきた資産は全て担保として無くなってしまう。

それだけは何としてでも避けなければ・・・

この借金は千代にとっては仁への愛の証だったが

同時に仁にとっては、千代を身動きの取れない状態にするための頑丈な鎖だった。


あじさい