或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -12ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

仁と雪枝の調停~離婚訴訟と泥沼化している背景とは別に

千代の幸福は母親として頂点を極めていた。

無事に結婚生活を送るサリーは念願の子を身ごもり

エリーの夫トムの金遣いは相変わらず荒かったが住む場所には不自由しておらず

彼女にとって3番目の子を妊娠していた。

渡米したナオは不法滞在や、一時期行方知れずになるなど不安要素だらけであったが

米国でレストランチェーンを営む資産家のひとり娘と恋に落ち

その女性の両親が手を尽くしてくれたおかげで彼は捕まることもなく

その日系女性と無事に結婚する運びとなった。

ひとり娘ということもあって、ナオはその家の婿養子、日本的に言えば逆玉という事だろう。

知り合ったきっかけは

自衛隊で貯めたお金も底をつきカメラマンになるには程遠い生活を送っていたナオが

たまたまバイトでウエイターとして雇ってもらったその店が

彼女の親の経営するレストランであったのだ。

店によく出入りしていた娘が一方的にナオを見初め、また彼の店での勤勉さも評価されたことで

彼は人並み以上の幸せを手に入れることができた。

ナオの不幸な生い立ちを差別したり、自分たちの地位をひけらかすような事は一切なく

礼儀正しく、人間的にも素晴らしい人たちだと

千代は安心してナオの結婚を祝福した。





その千代の幸せをじっとねたむ人間がいた。

それは一緒に暮らす仁だった。

自分は千代と出会ったおかげで

家庭を失い、息子や孫にも会えない生活を強いられている。

「裁判で心身ともに疲労しているのにお前の子供の話など聞きたくない」と言って

せっかくナオからかかってきた国際電話も仁の怒りに触れ

受話器を奪い勝手に切られることもしばしばあった。

初めて迎える出産に立ち会ってその後しばらくうちに来てほしい

というサリーからの申し出も、千代は仁の顔色をうかがい断らなければならなかった。

またエリーはトムの事では分かり合えなかったものの、千代を心配して月に数回必ず電話を入れていたが

それさえも二言三言で切らなければならない。

千代は仁が会社に行っている間に、こっそり隠れるようにして

子供たちと連絡を取ることしかできなかった。

また千代が孫のためにと買った洋服や

時々宅配便で送る食べ物や産地の名物品なども

仁に見つかればそのままゴミとして捨てなければならず

仁のストレスの矛先は全て千代の愛する子供たちへと向けられていた。

仁の愛し方はまさしく狂人的だった。

千代の愛する者たちへの嫉妬という形でしかそれを表現できなかったのだから。





ALIは全くと言っていいほど、家を出て以来仁と千代に関わることはしなかった。

家に顔を出す事も、平気で数ケ月電話しない事もあった。

バイトで疲れ果て、荒れた食生活を送っていた中

時々ママが昔作ってくれた鶏やごぼうがいっぱいのまぜごはんや

甘い玉子焼きの味をなつかしく思うことはあっても

仁の顔を見る

というよりあの擬似家族の一員になることが嫌で、実家を避けていた。

千代はそんなALIの気持ちを知ってか知らずか

「連絡がないのは元気な証拠よね」とエリーやサリーに明るく話していた。

仁の裁判がうまく行こうが行くまいが

また千代がそんな悲しい目にあっていると他のきょうだいから聞いたところで

ALIは関わらない方ことが互いのため、いない方が仁も千代も仲良くできる

ALIはかたくなまでにそう思っていた。








ALIはその頃、マサと暮らしていた。

あの事故からすぐの事だった。


あじさい