第86章    妻の企み | 或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

雪枝は、仁の準備書面に真っ向から対立。

自分がここまでの地位を築き上げるためにどれほどの苦労をしたか。

どのように会社事業を拡大してきたか。

会社、また仁個人の資産も自分の協力なしでは形成されなかったと

自分が自宅をもらうことについての正当性を主張した。

また不倫関係についても

18年前にさかのぼり、千代がサンヒルズ南に住んでいた頃から

従業員を介して愛人の存在を把握していたこと。

多少の息抜きも必要なことかもしれないと、知らない振りをしてきたこと。

花火大会を断られ不審に思って千代の自宅を訪ねたところ

二人が裸のまま抱き合っており、それが理由で家庭内別居になったもので

婚姻生活が破綻したことについて自分には明らかに非がないということ。

別居にしても、自分が旅行から帰ってその日に仁から出て行くと言い、連日執拗に

責めたというのは全くの虚言。

その後も、1週間に2度ほど着替えを取りに来たり、子どもの帰省の際には自宅に戻って

通常の生活を送るなど、互いに離婚をほのめかした事すらない。

会社は自分にまかせっきりにし、愛人に金を渡すことに必死になり

あげく愛人を住まわせる不動産のために、自分を連帯保証人にしたこと。

その物件はなぜか、今は千代名義になっていること。

仁の行動は夫婦共同でつくりあげた会社ならびに個人財産を

全て愛人と仁のものに独占しようと画策するもので、到底許されないと糾弾した。

石坂千代は幾度も離婚する意思があるかなどと自分に電話をかけるなど

非常識な行動を取っており、この訴訟も千代に踊らされて仁が起こしているに過ぎず

夫の意思によるものではない。

もし仮に夫の離婚に対する希望が真意だとしても、少なくとも自分に償いを尽くしてから

離婚を求めるべきであって、財産分与を要求して離婚を求めるとは

自己の責任を忘れ、本末転倒も甚だしいと夫と愛人両方を責めた。

調停中から一貫して自分の希望は

老後安心して暮らせるように、自宅を自分の名義にし、会社の保証契約、また個人資産の

担保の抹消など、最低限のものであるのに

仁は男としてのけじめすらつけないとその怒りを雪枝はぶちまけた。






さらに

雪枝は仁に対し、ある要求をつきつけた。

1、仁の婚姻後の収入を支給先、受領年月日を明示した上すべて明らかにせよ

2、石坂千代に対して過去18年、仁ならびに水崎工業、また関連会社より支給された

  金員、不動産、ほか家賃、給与の名目を問わずその内容を明らかにせよ

3、現在の仁、石坂千代ならびに石坂千代の子ALIの資産内容を明らかにせよ




雪枝と、彼女の弁護士がこの情報を何に使おうとしているのか

怒りの矛先が自分にだけ向いているのではないと、仁は恐怖に怯えることになる。

あじさい