第73章    親の金 | 或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

ALIの友達、愛。

彼女の家はあとから聞くと、父親のギャンブルのせいで夫婦仲は冷え切っており

さらに同居している姑との諍いが絶えなかったこともあって

彼女の母親はあまり笑顔がなかったそうだ。

愛は、結婚することが幸せとは思わない。そう口にしたことがあった。

逆にALIは

結婚していない(愛人である)せいで母親が苦労していて

離婚したせいでサリーは自殺未遂をしたのだと思っていたから

結婚という枠にはまるだけでも幸せだと信じて疑っていなかったので

愛の言葉は衝撃的だった。


   「ALIは幸せだよ。おとうさんとおかあさん、仲がいいんでしょ?」


人それぞれ幸せだと思う価値観は違う。

ALIにとっては、ケンカしていても

本当の両親やおばあちゃんと暮らせる愛の方が羨ましかった。






愛は、当時有名進学塾に通っていたが

ALIは彼女に誘われるまま高校受験対策コースに申し込みをした。

千代は

「本当に勉強をしたいと思えば、塾に通わなくても勉強できるはずだ」と反対していたが

ALIには週に数回でも彼らと夕食を供にしなくていいという事がなんとも魅力的で

その反対を押し切って、どうにか塾に通わせてもらえることになった。

その塾は入塾テストがあり

生徒たちは各々の学力レベルに応じて曜日の違う教室に振り分けられるのだが

ALIも愛と似たような学力で、私たちは同じクラスになった。

週に3回、学校が終わってからバスに乗って繁華街にある塾へ向かう。

愛の財布にはいつも大金が入っていて

そのお金で私たちは食べ物を買ったりゲームセンターに行ったり

暇な時間は、飽きもせずテレクラに電話をして塾までの時間を潰していた。

実際に待ち合わせをして、その場所までこっそりどんな人が来るのか見に行ったこともあり

今さらながら犯罪に巻き込まれなかったことを幸運に思わなければならないだろう。




愛の持つお金・・・

それは後から本人に聞けば

親の財布からかすめ盗っていたものだと言う。


   「気にしなくていいよ、どうせ気付かないんだから。」




愛はいつもそのお金で、罪悪感もなさそうにあちこちで散財していた。

いつも愛ばかりにお金を出させるのは申し訳なく

ALIも愛と同じように、千円、2千円、千代の財布からこっそり盗んだり

大金が欲しい時は塾の教材代だの、定期代だのと言って

万単位のお金を堂々と貰ったりもしていた。




愛との時間は自由で楽しく

千代と仁なんかお金が必要な時だけ娘らしく振舞う、ただの同居人だった。






いつものように、塾へ行く前日。

仁と千代が寝静まった頃を見計らい

ALIはリビングに置いてある千代の財布へと手を伸ばした。

明日は、愛とゲームセンターに行かなきゃいけないんだから・・・

もともと金銭感覚が人並み外れて発達していた千代が

自分の財布の中身に疎いわけはなかった。

ここ何週間も財布からお金が消える現象について、千代は仁に相談をしていたのだ。

そうして息をひそめて隠れていた彼らは、ALIの犯行現場を押さえることに成功した。



    「やっぱり・・・あんただったのね。」



千代はそう言うと、ALIの頬を思い切りぶった。



    「ALIは昔から自分の欲望を抑えられない子だものね。

     あの万引きといい、今といい。

     こんな子になるんだったら、あんたなんて産まなければ良かったわ!!」



ウマナケレバヨカッタ・・・

さらに追い討ちをかけるように仁も言った。



     「こんな泥棒とは一緒に暮らせないな。」





一緒に暮らしたいなんて、一度も望んだことはない。

産んで欲しいなんて、こんな家に産んで欲しいなんて、私頼んでない!!!

のどまで出かかった言葉を呑み込み、ALIはその後、仁の制裁を大人しく受けた。

ALIは欲望を抑えられない悪い子供。

そうかな・・・

今まで、色んな事いっぱい我慢してきたよ。


    「ごめんなさい!もうしません!許してください!!」



ALIの泣き声がこだまする。

仁に殴られ蹴られ、背中を丸めて動けずにいたALIを千代はただ見下ろすことしか出来なかった。


あじさい