第22章    反感 | 或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

仁の会社で事務員として働くことになった千代。

それは名目の上だけであって

要は家庭のある仁にとって

ALIの保育園に行っている昼間に、いかにして千代との二人の時間を作るかを考えてのことだった。

仁は

千代をまるで所有物かのように

自分の都合に合わせて遅刻させたり早退させたりしては千代のマンションに入り浸った。

出張と言っては、千代にも会社を休ませ同行させる。

そんな待遇がまかり通るはずはなく

次第に千代は女子社員たちの好奇なまなざしに晒されていくことになる。



中途採用のどこの誰ともわからない女。

社長は遠縁に頼まれてと言っていたけど、訳アリに違いないのだ。

母子家庭だというのに、新築のマンション。

そしてそのマンションの駐車場にはいつも社長の車が止まっているのだから・・・

噂はいつしか、ねたみやひがみを帯びながら、またたく間に社員に知れ渡り

千代は社内でだんだんと孤立していった。




      「私、ちゃんと働きたいわ。

       あなたに合わせて、休んだり早退したり・・・

       もう、みんなわかっているのよ。私たちの事。」



千代は仁に打ち明けた。


     
      「仕事をするなら、きちんと責任のある仕事の仕方をしたいの。

       ちゃんと学んで資格だって取りたいし

       今のままじゃ、私も社員の人たちにとっても良くないわ。」



仁は千代から社内の雰囲気を聞くたびに、ごまかすように千代をなだめた。



      「君に冷たくあたっているのは、総務の川田だろう。

       あいつは君が来る前からお局で通っててやっかいな女なんだ。

       そんな妬みなんて気にしなければいい。

       君は、いずれ社長夫人になるんだからな。」





確かに。

千代を孤立させ、誇張して噂を流していたのは川田に間違いなかった。

ロッカールームでも千代の悪口をわざと聞こえるように言ったり

仕事帰りの千代の後を付けたり

「どうせ、あんたみたいな女に仕事なんかできるわけがない。」と千代の机の書類に熱いお茶をぶちまけたり

それはもう女子社員全員を巻き込んでのイジメへとエスカレートしていく。

千代はいつしか「ドロボウ猫」と呼ばれるまでに、皆に軽蔑される存在になっていた。

何十年も真面目に働き、会社に貢献してきた川田にとって

突然現れて仕事もロクにこなせない千代の方が給料がいいなんて、怒りを買って当然だ。

もっとも千代の給料なんていうのは会社の節税対策みたいなもので

それがすべて千代の手元に渡っていたわけではないのだが・・・。






仁と千代の人目もはばからぬ甘い関係に業を煮やした川田は

ある日、副社長のところへ直訴しに行く事にした。



水崎工業、副社長―――水崎雪枝。



副社長といえども、実質の権力者で水崎工業を長年支えてきた人物。

川田は、社長夫人でもある雪枝に

なんとしてでも暴露してやりたかった。

社内の悪い雰囲気よりも何よりも、仁が愛人に熱を上げているという事実・・・

そしてその愛人が育てている保育園に通う3、4歳の女の子は、仁の隠し子ではないかという疑惑も・・・


あじさい