第3章  母の生い立ち | 或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

ALIのママ、千代は、戦争で混沌としていた時代に双子の妹としてこの世に生を受けた。

姉の名は和津、妹は千代。

白黒のその写真には、どちらがどちらとも区別のつかないそっくりな赤ちゃんが笑っている。



父は特攻隊として、愛しい双子の娘たちの顔も見ぬままハワイ沖にて戦死。

もともと病弱だった双子の母親は、

出産でさらに弱り、限界の体で片方の娘にしか母乳を与えられないことを悟った。

長女の和津だけを連れて、実家で療養することとなり

その後まもなく二人とも同じ病で亡くなっている。

妹の千代は、姉よりもほんの少し泣き声が小さかったために

「そう長くは生きられないだろう」という医者の判断のもと

母乳のあたたかさを味わうことすらなく、父の実家に置いていかれたのだった。




ママ、千代に与えられた、一度目の地獄。

千代はその後、父の妹にあたる叔母さんの手によって育てられることになる。

叔母さんの家には、酒と賭け事が好きな叔母さんの夫と、ふたりの息子がいた。

その叔母の夫は、毎日仕事もしないで賭け事をし

婿養子という肩身の狭さのうっぷんを晴らすかのように、いつも千代に冷たくあたっていた。

兄弟との仲も問題はなく、

叔母のことも最期の日まで「おかあさん」と呼んでいたことを思えば

彼がもう少し千代に愛情を注いでいてくれたら、千代のその後も変わっていたかもしれない。

ママはよく言っていた。

さつまいものてんぷらを見るのがイヤだと。

   

「あれだけはどうしても口にできない。おとうさんの好物だったから。」



幼い千代に、一生さつまいもを口にできないような思い出を刻んだ家族。

どんなにか、寂しくつらかったかは、想像にも及ばない。

ママはきっと、自分を育ててくれた叔母さんに感謝はしていたと思う。

でも、自分の本当の家族でないことは誰に聞かずともわかっていた。

暴力を振るわれても、冷たくののしられてもそこで生活するほかはなかったのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ママは育ての母に対しても、ALIにはこう言っていたことがある。

   


「おばあちゃんはね、そんな風には見えないけど自分が一番かわいい人なのよ。

    ママが義父にいじめられているのも、わかっていてかばってくれなかったの。

    助けてって言ったこともあるのだけど

    私がかばうと余計に千代が憎たらしくみえてもっといじめられるだろうって言ったの。

    きっと波風を立ててまでママを守る気はなかったのね。」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


恵まれなかった幼少期を経て、千代は高校には進学せずに上京した。

きっと早く自立したかったのだと思う。

縫製の会社に就職し、休みには趣味で外語学校に通うなど

千代もやっと人並みに青春を謳歌していた時期だった。





その外語学校で、さらなる地獄の扉が待っていようとは思いもせずに。


あじさい