私の家の隣りが親戚で書店だった関係で、幼い頃から漫画は少年、少女に関係なくすべての雑誌を読んでいました。それは大人になってからも変わらず、少女漫画は自然に受け入れていました。

 

一方、≪少年漫画≫に多いスポ根ものやアクションものは、表現は派手ですが登場人物の感情が決まっていて、精神的な機微が描かれていないのでもともとそんなに好きではありませんでした。

 

もちろん ≪少年漫画≫ にもヒューマンドラマは数多くあり、幼い頃から好きな ≪少年漫画≫ もたくさんあります。私の中では、手塚治虫氏、ちばてつや氏、貝塚ひろし氏などが代表的でしょうか。

 

高校生の頃には≪少年漫画≫は卒業していて、≪少女漫画≫、と言うより女性の漫画家の描く作品の方が面白いと思っていました。萩尾望都氏、竹宮恵子氏、山岸凉子氏などが代表として挙げられます。

 

 

 

大人になってからの私が夢中になっていた、そうした少女漫画家のおひとりに、漫画家でありイラストレーターでもあった【内田善美】さんがいらっしゃいます。

 

1974年に少女雑誌《りぼん》でデビューされ、1982年から《ぶ~け》に連載された【星の時計のリデル】を最後に筆を折られています。10年ほどの漫画家生活を送られたようです。

 

コミックスからイラスト集など多数の出版物が揃っていますが、ご本人が増刷を許可されないのでどの作品も古書店ではとても高額で取り引きされています。

 

 

 

 

私が最初に【内田善美】氏に興味を持ったのは二十代の中頃です。集英社から出版されていた少女雑誌《ぶ~け》、昭和56年(1981年)8月号に掲載された【草迷宮】と言う作品でした。

 

古びて汚れた日本人形が意識を持つと言う幻想的な作品ですが、現代の青年との詩的な関係が面白く、夢中になっていました。

 

その後《ぶ~けせれくしょん  №2》に掲載された【草迷宮】の続編【草空間】は、そんな幻想的な世界観が完成されていて、二十代中頃の私は完全にハマってしまいました。【草迷宮】と【草空間】の2本の作品を併せて、≪草シリーズ≫ とでも言えるでしょうか。

 

 

 

 

 

 

           ぶ~けせれくしょん №2

 

        1984年 1月20日 発行   定価 390円

 

《ぶ~けせれくしょん》はB5判雑誌サイズです。ぶ~け特別編集として発行され、少女漫画と言うより大人の女性向けの雑誌のようです。【草迷宮】の続編として【草空間】が掲載されました。

 

№2は《内田善美》氏の特集号でした。【草空間】は110ページの大作です。あまりにもハマりすぎて、感動で目頭を熱くして読んでいた事が忘れられません。この作品を読んで、すぐにこの方の

過去の古いコミックスなどを探し始めました。(古書店は常に巡り歩いていましたので…)

 

私が二十代の中頃の出版で、豪華な造りの本なので一冊ずつ残しています。この本は№2です。私は№1~№4まで、第4号までの4冊を残しています。いつまで出版されていたのかは分かりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         【草迷宮】が掲載された雑誌《ぶ~け》

 

 

さて、《ぶ~け》は1978年に創刊されたA5判の少女雑誌です。【草シリーズ】の第一作は1981年に掲載されました。作品が掲載された雑誌をご紹介します。また、数多く《ぶ~け》の表紙イラストを担当されているようです。手元に一冊だけありますので一緒にご紹介します。

 

 

 

               ぶ~け 8月号

 

        昭和56年 8月1日 発行   定価 330円

 

巻頭に、草シリーズの第一作品と言える【草迷宮】68ページが掲載されました。ユニークな発想でとても面白いと思いましたが、完璧にハマるのは続編の【草空間】に出会ってからの事です。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      内田善美氏が表紙を担当された《ぶ~け》

 

 

               ぶ~け 9月号

 

       昭和56年 9月1日 発行   定価 330円

 

1981年9月号は≪創刊3周年記念特大号≫となっていて、【内田善美】氏が表紙のイラストを描かれています。表紙を担当されたのは何冊もあるようですが、私はこの一冊しか残していません。

 

1978年8月の【ぶ~け】創刊号から1979年8月号までの12冊は続けて担当されているようです。そのあとがこちらの1981年9月号なのでしょうか?。1987年11月号が最後の表紙絵だと言う事はネットで知りました。

 

 

この頃の《ぶ~け》は、それまでの少女漫画に多かった学園恋愛ドラマなどとは一線を画していたように感じます。私の中では恋愛と言うより、友情や家族の問題などが心を打ちました。

 

少女や青年の孤独や優しさが描かれるとともに、揺れ動く心情があらわされています。しっかりと天然ボケの人間性が読者を笑わせてくれるコメディもあり、実だくさんの作品が多かったと思います。

 

《ぶ~け》に夢中になっていた当時の女性たちには共感を頂けるのではないでしょうか。私個人的には、小学館のB5判少女雑誌《プチフラワー》も同じように感じていました。


 

 

 

 

漫画と言えば ≪少年漫画≫ から始まり、昭和30年代頃には男性漫画家が多くの ≪少女漫画≫ を手掛けていました。その後、女性の漫画家が台頭すると ≪少女漫画≫ の世界を確立していきます。

 

私の中では1970年以降は、内容的には ≪少年漫画≫ より ≪少女漫画≫ の方が人間がしっかり描かれていて、読んでいて楽しかったと感じています。1972年以降は特にその傾向が顕著のようです。

西谷祥子氏、一条ゆかり氏、大島弓子氏、大和和紀氏、木原敏江氏、などがあげられます。

 

昭和の終わり頃には、新しい少女や女性向けの漫画雑誌が多く刊行され、人間を深く追求したヒューマンドラマを描く女性漫画家が台頭していました。アダルト女性向けの漫画【レディースコミック】と言う呼び名もこの頃生まれました。

 

同じ頃の ≪少年漫画≫ は、スポーツや遊びなどの楽しさがもっと単純で、人間性が主題の作品は少なかったような感じがします。もちろん(火の鳥)などのように面白い作品も沢山ありますが…。

 

 

 

 

また、古くからの ≪少年・少女雑誌≫ はますます幼くなり、かわいい系が増えてアニメの世界と一緒になって行くように思います。≪少年マガジン≫≪少年ジャンプ≫などの少年誌のほかに少女雑誌では≪りぼん≫≪少女フレンド≫ ≪マーガレット≫ ≪少女コミック≫などの歴史ある雑誌たちです。

 

1970年代の週間 ≪少女フレンド≫ ≪マーガレット≫ あたりには月刊だった別冊を含めて、学園ものや恋愛ものと併せて、人間を描いたもっと重い作品が含まれていたのではないでしょうか。

 

その一方で、老舗の≪セブンティーン≫を含め、新しい雑誌《ぶーけ》《プチフラワー》等をはじめとする、ミドルティーン向けの少女雑誌が見られるようになっていく気がしました。

 

大人の男性雑誌では、それまで見られたアダルト系雑誌より、十代でも読める雑誌が多くなります。《ビッグコミック》《漫画アクション》などにヒューマンドラマが描かれます。【青年誌】と呼ばれるジャンルの代表的な雑誌と言えるでしょうか。

 

 

 

 

 

次回はこちらでご紹介した【草シリーズ】二作をまとめた豪華単行本と、同じ体裁の豪華な単行本で出版された《星の時計のリデル》三部作をご紹介します。