最近の喫煙者は、肩身の狭い環境にあります。公共の場所が禁煙なのは当たり前でしょうが、家庭内でも禁煙が多いようです。どうも子供への悪影響とか、家が汚れて臭くなると言うのが多い理由のようですね。

 

昔の幼い子供には、常に家に置かれていた父親の吸っていたたばこが記憶に残っているのではないでしょうか。父親とたばこがリンクしていたように思います。

 

父親の吸っていたたばこと言えば、私にも目に焼き付いている銘柄があります。私の父親は大正生まれです。幼稚園から小学生の頃父親の吸うたばこは《いこい》と《ピース》でした。中でも幼い記憶に残っているのは《いこい》のパッケージです。

 

どちらも両切り煙草です。昔の人は両切りが当たり前ですから、実に器用に吸っていたものです。箱から一本取り出すと、箱の上か左手親指の爪の上で、トントンとして葉を下側へ寄せます。

 

そこからおもむろに口にくわえます。そして、シュっと燐寸を擦って火をつけます。燐寸を持った手を振って火を消す。この一連の作業が手馴れていて、とても絵になるのです。

 

 

 

フィルター付きしか経験の無い私など、両切りは常にぺっ、ペッと、口に残る葉を吐き出していたものです。私は40代の中頃よりずっと《ゴールデンバット》を吸っていましたが、何しろ吸いにくいのでプラスチックの小さな吸い口を着けて吸っていました。

 

《ゴールデンバット》は明治の発売当初からずっと両切りです。最後はフィルターチップに変更されています。フィルターチップへの変更はたいへんな驚きでしたが、吸うのは楽にはなりました。

 

 

昭和31年に発売された ≪いこい≫ ですが、昭和43年5月の定価改訂に併せて地色が変わります。そして昭和49年に製造中止になります。私の記憶の中のたばこは、初期の地色のタイプです。

 

高校生の頃 ≪いこい≫ が製造中止になる当時、父親の洋品店仲間が最後まで ≪いこい≫ を吸っていて、「いよいよこのタバコも吸えなくなる…、」と話されていた事が記憶に残っています。

 

 

 

デザインには、≪ちょっと一休み≫ と言う事で五線と四分休符が描かれたそうです。高校生の頃にその話を聞いて意味を知りますが、幼稚園の頃にはこのデザインの意味が全く分かりませんでした。このデザインはいつも見ていましたが、幼稚園当時の私の想像力では五線と四分休符と言う発想が浮かびませんでした。

 

                    いこい

 

  昭和31年3月26日  U字型包装    定価 50円

 

  時期不詳        U字Ⅱ型包装 に変更される

                  (初期型封緘紙 封緘紙部分の白抜き 無し)

 

  時期不詳 (昭和37年頃?)   封緘紙変更 (ハイライトと同じになる)

                  (中期型封緘紙 封緘紙部分の白抜き 上端まで)

 

      (時期不詳  中期型封緘紙 封緘紙部分の白抜き 上端から離れる

 

 

 

 

《いこい》の発売当初は【U字型包装】でした。パッケージ部分は茶色ですが、上部開封部分は黄色です。その後【U字Ⅱ型包装】に変更されます。

 

いつ頃変更されたのかは不明です。【U字Ⅱ型包装】に変更されると専用の封緘紙が用意されました。(初期型)と呼ばれ、あっさりとしたデザインです。《パール》と共用で使用されたようです。

 

途中で封緘紙が変更されています。《ハイライト》用の封緘紙と同じですが、最初は《みどり》で使用されていたようです。

 

(中期型)と言えるでしょうか。封緘紙がいつ頃に変更されたのか分かりません。昭和37年頃だと思うのですが…。幼稚園の頃に父親が吸っていた《いこい》は、まだ古い(初期型)タイプの封緘紙だった事は覚えています。

 

 

 

因みに【U字型包装】とは、長方形の紙をU字型に曲げて上部開口部は織り込んで糊付けされた包装形態の事です。《ゴールデンバット》で2005年まで使われていましたが、今は見られません。

 

一方【U字Ⅱ型包装】とは、U字に曲げた紙を封緘紙で止めている包装形態の事で、かなり少なくなりましたが今も一般的にみられるタイプです。

 

 

 

 

(初期型)の古い封緘紙を使用していた時代、封緘紙の糊付け部分に白抜きがないパッケージです。両サイドフラップ部分の白地の長さは 56㎜ です。

 

                  白抜きがありません                   

                       

            ↑             ↑

          白抜き 56㎜              白抜き 56㎜

 

 

 

 

 

              参考 (初期型)封緘紙

 

          1972年発行 〚日本のたばこデザイン1904~1972〛より

 

 

          〚日本のたばこデザイン〛の画像をお借りしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい封緘紙に変更されました。封緘紙の糊付け部分は長方形に白抜きされています。こちらの白抜きは上端部に接していますが、白抜きが少し下がって上端部と離れたタイプも見られるようです。

 

幼い頃にこちらの封緘紙も見かけています。両サイドフラップ部分の白地の長さは 56㎜ です。

 

                      

                白抜きあり(上端部と接している)

            ↑             ↑

          白抜き 56㎜              白抜き 56㎜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像では分かりづらいのですが、現物は地色が焦げ茶色をしています。黄土色系統から茶系統になり紙の表面は従前より艶があります。艶紙ではなく、紙質が変わったかな…? 程度の差です。紙の厚さにも差があり、こちらは若干厚くなっています。

 

この頃は、色の薄いパッケージからかなり濃い色まで様々登場しているようです。両サイドフラップ部分の白地の長さは 56㎜ です。

 

 

昭和43年5月1日より一斉に定価改訂が行われています。その時こちらの印刷色のパッケージには、定価改訂の共通用シールだった中央に星が1個印刷された赤いシールが貼付された事が分かっています。

 

                      

                白抜きあり(上端部と接している)

            ↑             ↑

          白抜き 56㎜              白抜き 56㎜

 

 

 

父親は私が中学生の時に他界していますが、私の記憶の中に父親と一緒に残されているのはこの印刷色の《いこい》です。昭和37年の頃にはすでに吸っていた記憶が残っています。 

 

その後、昭和40年頃の記憶から両切り 《ピース》 に銘柄が変わります。家では《缶ピース》が常にありました。と言うより、父親は昭和39年頃《いこい》と《ピース》を併用していたようです。

 

しかし、私の中で父親のイメージはやはりこちらの《いこい》です。封緘紙はこちらではなく、古いタイプの(初期型)封緘紙が記憶に残っています。

 

発売初期にはU字型包装だったようですが、さすがに知りません。《ピース》のデザインは今も続きますので私の中で思い出として感じられないのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   昭和43年 5月 1日  発売    定価 60円

   昭和45年 9月     サイドの白地フラップ60mmとなる

   昭和47年 7月     健康表示印刷

   昭和49年 4月10日  製造中止

 

昭和43年5月1日から、日本専売公社では販売商品の一斉値上げが行われています。その値上げに併せてデザインが変更されました。この変更の時には、パッケージと同じデザインの新しい封緘紙が用意されています。(後期型)と呼べるでしょうか。

 

この時の値上げでパッケージのデザインの変更は、両切り《ピース》《いこい》《しんせい》 と

フィルター付き《ハイライトデラックス》《わかば》 の5銘柄が見られます。


 

                      

                白抜きあり(上端部と接している)

            ↑             ↑

          白抜き 60㎜              白抜き 60㎜

 

 

こちらの地色に変わった当時、父親は≪ピース≫を吸っていましたのであまり印象にはありません。高校生の時に、「このタバコもいよいよなくなるのか」と思いながら眺めていたデザインです。

 

 

 

 

 

 

 

         〚日本専売公社〛の時代、《いこい》で実施された定価改定

 

        昭和31年(1956年)  3月  26日    発売   定価    50円

        昭和43年(1968年)   5月   1日         定価    60

 

昭和43年(1968年)5月1日に、専売公社として初めての一斉値上げが実施されました。旧価格品と新価格品を区別するために、銘柄によっていくつかのパッケージ変化が見られます。

 

● 封緘紙のデザインを変えずに印刷色を変化させる。

  《ホープ》《ピース》《ルナ》《ハイライト》《ハイライトデラックス》《mf エムエフ》

  《ひびき》《トリオ》《スリーエー》の9種類が確認できます。

 

  《ハイライト》と《ハイライトデラックス》は、《ハイライト25》の封緘紙と同じデザインで

  (25)の数字が消されていて、色違いで用意されました。

 

 

● 定価改訂の丸型の小さなシールをパッケージに貼付する。

定価改訂のシールは全5種類が用意されたようです。印刷色と併せて中央の星の数がそれぞれ違います。たばこの価格帯で変えたのでしょうか。〈輸入たばこ〉用も見られます。

 

こちらは赤色で中央の星が1個です。他に青色=星2個、オリーブ色=星3個、レモン色=星4個、また中央に星の代わりに〈輸入たばこ〉と書かれたタイプを加えて5種類です。

 

はっきり分かりませんが、改定額が星1個=10円、星2個=20円、星3個=30円、星4個=40円なのだと思います。星の数で10円~40円までの値上げ金額を表しているようです。


《いこい》は10円の値上げです。共通用〈赤色=星1個〉の定価改訂シールが貼付されていた事は確認しています。また〈赤紫色=星1個〉のシールも見られるのかもしれません。

 

 

 

昭和43年(1968年)5月1日の定価改定は、たばこのフィルム包装が広く普及する前の事です。

定価改定のシールは多くの銘柄でパッケージに直接貼付されていたと思われます。《いこい》は製造中止までフィルム包装がありませんでした。

 

 

この2種類の方法が採られたようです。銘柄によって違うようですが、当時小学生だった私には詳しい事は分かりません。学生時代にも《たばこサービスセンター》で伺っていませんでした。

 

 

 

 

〚日本専売公社〛の時代には大きなパッケージの変更が5回ほど実施されています。他の銘柄でも同じことが言えます。《いこい》の販売期間中に実施された共通の変更はそのうち2回見られます。

 

  ● 昭和45年9月頃から、U字Ⅱ型包装ではサイドの白地部分の長さがレギュラーサイズ 59㎜

                      ロングサイズは 70㎜ となる。

  ● 昭和47年7月から、 サイドに健康表示が印刷される。

 

【U字Ⅱ型包装】のサイドフラップに見られる白地の長さですが、レギュラーサイズでは一般的には 59㎜ なのですが《いこい》は 60㎜ となっています。

 

 

 

昭和49年の製造中止もよく覚えています。両切りたばこの《いこい》《富士》 と一緒にフィルターチップたばこの 《ひびき》《エポック》 の4銘柄が同時に製造中止になりました。

 

      「そうか!、煙草も時代と共に変わっていくんだナ…」 と感じました。 

 

そして……、 私は間もなくたばこのパッケージを集め始める事になります。《いこい》は、煙草のパッケージを集め始めるきっかけとなった銘柄でもあるのです。

 

 

 

子供の時に受ける印象と言うのは強いものです。年を重ねた私ですが、私は【煙草】と言うキーワードでまず思い浮かぶのはこのパッケージだと思います。若い頃からずっと自分が25年以上吸っていた《ショートホープ》よりも強く印象付けられています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      

 

      昭和23年7月2日  発売   定価 40円

ひらがなの≪いこい≫は良く知っていますが、戦後間もない頃には漢字の≪憩≫と言う銘柄がありました。昭和23年7月に、10本入と20本入が同時に【専賣局】銘で新発売されたようです。

 

次回 ≪第二次世界大戦 終戦直後のたばこ≫ をまとめてご紹介しますので、こちらの《憩》の証票については詳しく述べる予定です。

 

昭和24年6月1日には専賣局から【日本専賣公社】銘に変更されますが、同時にそれまで細かいストライプ模様で淡い地色が、ベタ塗りで濃くなりました。

 

たばこ価格 昭和23年7月2日  定価 40円

      昭和25年4月1日  定価 30円

      昭和26年4月1日  定価 25円   

 

          二度値下げされて昭和26年に製造中止になります。

 

 

       昭和24年6月1日   発売   定価 40円

       昭和26年2月下旬  製造中止

 

昭和24年6月1日には専賣局から【日本専賣公社】銘に変更され、地色がベタ塗りで濃いパッケージです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         昭和23年7月2日  発売  定価 80円

昭和23年7月に、10本入と20本入が同時に【専賣局】銘で新発売されたようです。昭和24年6月1日には専売局から【日本専賣公社】銘に変更されますが、10本入のように地色が変わる事はありませんでした。

 

たばこ価格 昭和23年7月2日  価格 80円

      昭和25年4月1日  価格 60円

      昭和26年4月1日  価格 50円   

 

            二度値下げされて昭和26年に製造中止になります。

 

 

 

         昭和24年6月1日   発売  価格 80円

         昭和26年2月下旬  製造中止

 

          専売局の表記が【日本専賣公社】銘に変更されています。

 

 

 

 

 

          戦後は、二年続いてたばこの値下げが行われています。

 

 昭和25年4月1日  10本入  定価 40円⇒30円  20本入り 80円⇒60円  

 昭和26年4月1日  10本入  定価 30円⇒25円  20本入り 60円⇒50円 

 

 

 

 

 

勿論こちらの ≪憩≫ の存在を私は全く知りません。高校生の時に【日本のたばこデザイン】で初めて古い銘柄を知った時に、幼い頃に慣れ親しんでいた ≪いこい≫ が「そうか、いこいは二代目だったんだナ…」と感じた程度です。

 

 

 

 

たばこと言えば、学生時代から値上げの繰り返しで、価格は常に上昇していくものだと思っていました。が…、何と昭和25年~昭和26年には、二度も値下げされていると知って驚きました。

 

 

この時代の値下げについては、当時夢中だった【週刊漫画アクション】で連載中の≪上村一夫≫氏の作品、≪サチコの幸≫ で知りました。学生時代の事です。作品は昭和25年前後が舞台の漫画です。

 

常に値上げが当たり前のたばこが値下げされるなど全く想像できません。当時は、漫画の中の会話に出てくる煙草の値下げが、ストーリー上のフィクションだと思って読んでいたのです。

 

≪サチコの幸≫ に出てくるたばこの銘柄は【光】です。数奇な運命をたどった【光】は前回ご紹介しています。