アメリカの統治下にあった琉球では、島内に民営煙草会社が設立されて紙巻きたばこが製造されるようになる1955年までの、戦後から10年間ほどの煙草の供給は、輸入煙草と米軍流出の闇煙草に頼っていました。

 

アジアから安価な煙草が数多く輸入されていましたが、これまでご紹介してきたように、中でも【マカオ】煙草は多かったようです。

 

1954年頃の輸入煙草の販売シェアーを見ると、専売公社の両切り≪チェリー≫≪しんせい≫が5本の指に入るトップクラスでした。マカオの煙草は琉球の喫煙者に合わせてか、日本名の銘柄もいくつかありました。

 

その一方で、シェアーのトップ5に並ぶほかの銘柄はすべてアメリカ煙草です。琉球の人たちには、アメリカ煙草がアジアの製品に比べて高級品として認知されていたようです。

 

そのためでしょうか、マカオの銘柄にはアメリカ煙草に似せたものが多く、大多数がアメリカのイメージで、英語のネーミングやアメリカの都市などが品名となっていました。

 

品名ばかりではなく、パッケージのデザインにもそっくりに模倣した製品が見られます。当時の新聞記事にもそのあたりが掲載されていますので、私の手元にあるパッケージと併せてご紹介します。

 

 

 

 

アメリカの銘柄に、≪チェスターフィールド≫と言う品名があります。フィリップモリス社の製品で、1930年代から1940年代の人気商品でした。ジェームスディーンが映画の中で銜えていた煙草なのだそうです。

 

現在日本では見られないようですが結構有名な煙草で、喫煙者なら一度は聞いた事のある名前ではないでしょうか。当時の沖縄では、輸入か米軍基地の流出品か分かりませんが数多く流通していたようです。

 

                 チェスターフィールド

                  (キングサイズ)

                 キングサイズとあります。

 

証紙が千切れているのではっきり分かりませんが、どうも琉球政府の納税証明の加刷文字は見られないようです。その上、この証紙は米軍の免税証紙だと思います。米軍基地内のPXで販売した商品なのでしょう。とすると、基地からの流出品で闇煙草だったのかもしれません。

 

 

 

 

 

さて、マカオの煙草に≪リッチモンド≫と言う銘柄があります。デザインは≪チェスターフィールド≫にそっくりです。これは模倣品だとすぐに分かります。現在ではここまでそっくりだと完全にアウトかも知れません。

 

                    リッチモンド

                   (キングサイズ)

             こちらもキングサイズの表記があります。

 

                    〔輸正―8〕

             封緘紙として使用された琉球政府の納税証紙

 

 

 

 

 

 

                    沖縄タイムス

当時の新聞記事にマカオ製のアメリカ煙草模倣品の記事が掲載されていますので、切り抜きをご紹介します。

                  1954年11月23日

 

 

 

 

アメリカの有名な銘柄に≪キャメル≫があります。この当時は両切りレギュラーサイズでした。当時の琉球では、そのデザインから【鹿ぐわー】と愛称が付けられるほどに人気がありました。

 

この製品にそっくりなマカオ煙草≪ディアー≫が掲載されています。その名の通り、鹿がデザインされています。そこで、キャメルを求めて愛称の【鹿ぐわー】くださいと言うと、≪ディアー≫が手渡される危惧があると書かれています。実際そんな事もあったようです。

 

 

こちらの証紙は、米軍用の免税証紙が使われています。米軍基地内のPX販売品と分かります。

これが市中に出回った製品であれば米軍基地からの流出品、闇煙草と言う事になるのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新聞記事には、もう1銘柄アメリカ煙草の人気商品≪アリゲーター≫と類似品のマカオ煙草≪ゴールデンシール≫が掲載されています。アリゲーターについては次回ご紹介する予定です。

 

模倣品のマカオ煙草の≪ゴールデンシール≫ですが、上の新聞記事の商品は商品名の表記から、下部の鰐の皮膚模様までそっくりです。

 

これはさすがにクレームがついたのでしょうか、私が確認した≪ゴールデンシール≫は新聞に掲載されたデザインとは変更されていました。

 

                   

              名前は一緒でもデザインが全く違います。

 

                    〔輸正―8〕

            封緘紙として使用された琉球政府の納税証紙

 

 

 

 

 

 

そしてこちらの銘柄は新聞広告の切り抜きがあります。新しいデザインですが、さらに変更されていて〈メンソール煙草〉の記載が見られます。

 

 

                 1955年12月17日

 

これはメンソール煙草で、ほとんど同じデザインですがメンソールの表記など若干のデザイン変更が見られます。沖縄タイムスに掲載された、類似品の新聞記事から1年1か月後の広告です。

 

1954年11月の新聞広告ではアリゲーターそっくりのデザインが掲載されています。私が確認したデザインは赤基調の派手なデザインに変わっていました。そして1955年12月の新聞広告ではそのデザインのまま〈メンソール煙草〉に変更されています。

 

 

 

 

 

これまで【台湾】と【マカオ】からの輸入煙草をご紹介してきましたが、次回よりアメリカ煙草をご紹介します。先ず、≪アリゲーター≫の説明から予定しています。