大正時代から昭和の初めごろ、国内には様々なビスク人形や磁器人形が作られていたようです。その中には、豪華で明るく色鮮やかな衣装をまとったビスクドールが多く見られます。サイズや造りの違いはまちまちで、総称してサクラビスクと呼ばれています。
 
今もその愛らしさから女性を中心に多くのファンがいるようです。時間の経過により衣装が劣化しているものも多く見られますが、裁縫の得意な方は豪華な衣装を手作りしていて新しく綺麗によみがえった姿も多く、大切にされているようです。衣装作りもサクラビスクに魅せられた女性ファンの大いなる楽しみの一つなのでしょう。

 

 

眼の部分がくり抜かれていて、別に作られた目が装着されたものが多く見られます。横にすると目をつむるため、スリーピングアイとか眠り人形と呼ばれています。
 
同時におなかの部分が大きくくり抜かれ、そこにふいごが取り付けられていておなかを押すと音が鳴るようになったタイプもいます。そちらは鳴き人形と呼ばれます。
 
 
製造メーカーは【やま大】【シノダ】【酒井】等が存在するようで、サクラビスクのコレクターには知られたメーカーのようです。しかしいずれの情報も私の収集守備範囲外の事ですので詳細は分かりません。
 
サクラビスクのメーカーは、大衆人形のメーカーとも共通した会社も多いようです。大衆人形に良く見られる刻印の多くは、サクラビスクも造っていたと思われます。
 
大衆人形の【サ】は酒井、【昌】はシノダと言う、サクラビスクに見られるメーカーと同じ会社のようですがはっきりとした事は分かりません。【やま大】の刻印は大衆人形に見られます。【やま大】の刻印には、【ハットリ】とカタカナ文字が一緒に刻印された姿も輸出用ビスクドールでは確認しています。

 

 

 
アメリカへの人形の輸出で世界を席巻していたドイツですが、第一次世界大戦が始まると戦時中から輸出が止まっていました。戦後、ドイツの輸出が再開されるまでの短期間だけ森村ブラザーズの作っていたドールは、特別に〈モリムラドール〉と呼ばれていて特に人気が高いようです。
 
サイズも色々と見られるのですが、大型のコンポジションドールで豪華な衣装を身に着けた眠り人形は高価だったようです。子供の玩具としては高級品だったのでしょう。
 
その一方で、輸出用では3寸から6寸程度の小ぶりなオールビスク人形や、国内では大衆人形や射的人形と呼ばれる仲間は庶民の味方!。庶民的な価格で、子供たちが気軽に遊べる人気の仲間だったようです。
 
 

 

少女のファッションドールは戦後も造られていたようで、私の幼い頃、昭和30年代にもおもちゃ屋さんに並んでいたと思います。男子には興味のない売り場で、眼の片隅に残っている程度です。  
 (ただし、素材はビニールだったような気がしますが、幼い頃でよく覚えていません)
 

小さなサイズは5センチ程度から15センチ程度のビスク製まで見られ、幅広く用意されていたようです。私はサクラビスクのコレクターではありませんが、大衆人形と同じような小さなサイズが幾つか手元にあります。一つのジャンルですので纏めておきます。手足の接続方法で、以下のように造りの違いが二種類見られます。

 

                    手活人形
両腕が体とは別に作られていて、両肩部分でゴムを通してつながれているので腕が稼働します。腕が針金で結ばれていて針金が腕から横に飛び出しているタイプもあります。
 
                    四ッ活人形
両腕と共に両足も股関節部分がゴムで繫がれていて、座る事が出来ます。
こちらも針金で結ばれていて、両手両足の横に針金が飛び出しているタイプがあります。

 

 

 

 

                    四つ活人形

             足も稼動しますので座らせる事が出来ます。

 

                   赤いコートの少女

両腕は赤いコートの内側に収まっています。コートに袖が無く手が隠れているのです。コートの下は淡い青紫のワンピースを着ています。ワンピースは薄手の絹織物で作られています。

 

戦前に作られていたビスク人形用の籐椅子が(大)(中)(小)の三種類ありますので利用しました。こちらは(大)の籐椅子に座らせています。

 

                高さ 14.5センチ

 

 

 

 

 

 

 

 

                   スリーピングアイ

 

戦前に作られていたビスク人形用の籐椅子が(大)(中)(小)の三種類ありますので利用しました。こちらは(中)の籐椅子に座らせています。

 

        体が小さく、眼もとても小さいのですがクルクルとよく動きます。

     

                 高さ 12.8センチ

 

 

 

                    小さなサイズ
 
衣装は絹の編み物です。ざっくりと編まれていますので、しなやかで柔らかく作られています。いずれも同じサイズで同じような衣装を着ています。どうもセットの箱入りで販売されたようです。
 
【昌】と言うメーカーで、男女二体とテーブル、椅子、花瓶がセットとなった箱入りを拝見しています。【サ】もしくは【カ】のマークが印刷された箱も見かけた事があります。
 

戦前に作られていたビスク人形用の籐椅子が(大)(中)(小)の三種類ありますので利用しました。こちらは(小)の籐椅子に座らせています。

 
                    高さ 6センチ
 
 
         少年                       少女
     

どちらも赤いボンボンのついた服で、【昌】と言うメーカーのこの姿の二体の箱入りセットを拝見しています。

 
          少年                     少女
     

 

          少年                     少女 
     

 

          少年                     少女
     

 

 
 
 
 
 
                     手活人形
 
両腕だけが可動式で直立した状態です。海外の手活人形を参考にして、1913年頃から瀬戸の丸カ商店の他、丸山陶器や池田マルヨ製陶で輸出用に作られ始めたのだそうです。両腕は別に作られていて、体の中を針金やゴムを通して繋がれています。輸出用は次回以降、ご紹介します。
 
               国内向けの、針金で繫がれたタイプ
 
どの姿も帽子が定番ですが、頭には大きな穴があり空洞になっています。国内用なので、背面には【JAPAN】 などの刻印はありません。(着せ付け手活人形)と呼ばれています。
 
両腕は、ゴムで結ばれているのではなく、針金が通してあります。針金の先が腕から出ていますが服を着ているので隠れています。どうも大正時代に作られているようです。
 
                  着せ付け手活人形
 

     

      高さ 13センチ

厚手の生地で、フェルト生地のような、あるいはフランネルのような服を、直接体に貼り付けています。帽子は手触りが柔らかく、こちらは絹織物です。箱入りでしたので供箱も一緒にご紹介します。
 
                                                背面【カ】の刻印
     

      高さ 14.5センチ             高さ 13.5センチ

  フェルト生地のような洋服です。          こちらはどうもウールか絹織物のよ
  帽子はズボンと同じ素材です。            うな洋服です。
   帽子は服と同じ供布です。             背中に【カ】の押刻が見られます。
 
 
         一回り小さなサイズでは、男女ペアの箱入りも見られます。
                  高さ 11.2センチ
 
 
 
 
 
                    鳴き人形
 
両手は針金で繫がれ可動し、腹部が四角くえぐられていて簡単なふいごが取り付けてあります。本来音が出るのでしょうが紙が劣化していて鳴りません。

     

      高さ 13.5センチ             高さ 13.5センチ

   サイドには少女らしく髪の毛が          赤い、ウールのような生地です。
   取り付けられています。             頭は絹のサテンのような感じです。
   生地は絹でしょうか、サテンのような
   ワンピースです。
                二体ともふいごが残っています。

 

 

                  ふいごが失われた姿

     

 

                  高さ 13.5センチ

 

             腹の部分が四角くえぐられて作られています。

 

 

 

 

                   小ぶりな手活人形

輸出用のような気がしますが、JAPANなどの刻印がありませんので国内用だと思います。ボンネットは生地のように見えますが、磁器で作られています。

                  高さ 7.1センチ

 

 

 

 

 

 

 

                  コンポジションドール

 

市松人形などに代表される、純和風の少年少女も数多く作られています。数体私の手元にいますので一緒にご紹介します。大衆人形を集める中で、偶然私の手元にやってきました。

 

 

コンポジションの少年少女です。顔は市松人形のような感じですね。衣装を見ると絹織物のちゃんちゃんこを着ています。前面には金太郎掛けのように絹織物が接着されています。大正の頃に作られていた、フェルト生地を体に貼り付けた【着せ付け手活人形】の雰囲気がします。
 
体はコンポジションですが足を曲げて座った形をしています。これは大正時代に見られる輸出用ビスクドール(べビー姿の四つ活人形)と同じ形をしています。色々な人形の特徴を持っていてなかなか興味深い姿と言えそうです。
 
こちらは7寸クラスの大型ですが、3寸程度と小さく、ほとんど同じ造りで【昌】と書かれた二体入りの箱入りを見かけたことがあります。こちらも【昌】で作られたのかも知れません。
 
     

      高さ 20.5センチ             高さ 20.5センチ

   坊主に見えますが、背面には髪の毛
   があり、丁髷を結っています。
 
 
 
 
 
                     泣き人形

 

胸にふいごがあり、ピーピーと泣きます。頭と手足、胴体はコンポジションですが、繋ぎは布製です。これは三つ折れ人形と言うのでしょうか。絹の染め物で、少女の帯は縮緬です。二人とも豪華な衣装を着ています。

 

     

                   高さ 30センチ

              どうもこの二人はペアのような感じです。

 

 

 

 

もっと大きなサイズで、1尺5寸程度あります。こちらはふいごが壊れているようで泣きません。衣装は友禅でしょうか、豪華な着物です。

                   高さ 43センチ

 

どれも豪華な衣装で素晴らしいのですが、虫食いの事を考えると保管が大変そうで悩まされています

 

 

 

 

                     磁器人形
 
                  フローズンシャーロット
 
衣装を着けていますが、サクラビスクと呼ばれる仲間とは全く違う造りです。釉薬をかけて焼成しているようで表面に艶があります。衣装を着ていますので、本体は裸の姿で作られています。ビスクドールよりリアルな造りです。
     

      高さ 15.8センチ             高さ 10.3センチ

  ごく薄いドレスなので肌が透けて          厚手の豪華な絹織物のワンピース姿
  しまっています。下半身は             です。下半身にはやはり豪華な
  厚手の絹織物を貼り付けていて           絹織物を貼り付けてパンツのように
  パンツのように作られています。          作られています。
 
            サイズの違いが分かるように並べてみました。

                

あまり見かけないタイプですが、どのような仲間なのでしょうか。インド人形の仲間とも違うようです。(インド人形とは、明治40年ごろからインド向けの輸出用に作られた磁器人形で、国内の射的人形にも出荷 されています。)
 
チャイナヘッドドールと呼ばれる、頭、手、足先の三か所だけが磁器で、体や腕、足が布で作られ、豪華な衣装を着けたドイツ製の人形があります。
 
この二体は、そのドイツのチャイナヘッドドールと顔だけがよく似ています。第一次世界大戦後、輸出の止まったドイツのビスクドールを参考に瀬戸でビスクドールを造り始めたと聞いています。
その辺りの時代に瀬戸で作られた人形なのかもしれません。