大正時代から昭和初期、主に昭和10年前後に盛んに作られていた磁器製の大衆人形の内、底面に穴が無く重いタイプには、良く見られる5寸クラスと共に3寸から4寸程度の小さなサイズも見られます。だいたい9センチ~12センチ程度の仲間です。

 

前回、歌舞伎や浄瑠璃の戯作がモデルとなったり歴史上の人物を纏めた《歴史篇》の男性をご紹介しました。今回は《歴史篇》の女性をご紹介します。私の手元には女性の姿は男性に比べて少なく、これは歌舞伎の主人公に男性が多い事がそのまま現われているようです。

 

5寸クラスと多くの人物が共通しているところは男性と同じです。中には男女が一体となった姿も見られますが、こちらの女性の仲間として纏めています。                  26

 

 

 

 

                    曽根崎心中

 

二人のポーズと女性の衣装を見ると《曽根崎心中》だと思います。髪形が兵庫髷のようなので、上方の遊女のようです。上方の心中物と言えば曽根崎心中が浮かびます。近松門左衛門の心中物です。

 

(この世のなごり、夜もなごり・・・)きっとお初徳兵衛なのでは無いかと思っています。心中物にはこのような場面は数多くあり人物の特定はなかなか難しいのです。

     

                   高さ 12センチ

                 衣装のデザイン違いです。

 

 

 

 

               本朝廿四孝=ほんちょうにじゅしこう

 

                     八重垣姫

 

歴史では武田勝頼は自刃しますがこの作品では生き延びていて、戦いの迫る中許婚の八重垣姫が家宝の兜の神力を借りて諏訪湖を渡って武田勝頼のもとへ行く時の姿でしょう。

     

      高さ 11.5センチ              高さ 9.9センチ

 

 

 

 

              伽羅先代萩=めいぼくせんだいはぎ

 

仙台藩のお家騒動を扱った戯作で、自分の息子が殺されてしまいますが、若様である【鶴千代】を守る乳母【政岡】の姿です。

                  高さ 12.3センチ

 

 

 

 

            京鹿子娘道成寺=きょうがのこむすめどうじょうじ

 

僧の庵珍に思いを寄せた清姫が蛇身となって焼き殺してしまう(庵珍清姫伝説)の後日譚です。

後日譚はその鐘の追善供養の際、白拍子の【花子】が現れて鐘を見たいと言うのです。
 
僧侶たちは「鐘を見せるが、ならば舞を舞え」と言う事で【花子】の所作が続きます。しかし彼女はやはり清姫の化身で、鐘に飛び込み蛇の精となります。
                  高さ 10.8センチ
 
 
 
 
           恋女房染分手綱=こいにょうぼうそめわけたづな 
 
通称【重の井子別れ】と呼ばれる、実子を目の前に名乗らずに主君のお姫様の嫁入りに同行する乳母【重の井】と実子の【三吉】です。お姫様についてゆくが我が子との別れもつらい、そんな葛藤が描かれています。
                  高さ 11.3センチ
 
 
 
 
                     巴御前
甲冑姿の女性です。と言えば木曽義仲の元で大将として豪勇な姿で戦った巴御前でしょう。平安末期の人で、平家物語、源平盛衰記などに登場します。
                  高さ 11センチ前後
 
 
 
 
                     鳥追い
江戸時代、非人の女性に許可されていた門付けで、三味線を奏で鳥追い歌を歌って田の実りを祈念して施しを受けていました。衣装の色違いを並べました。
     

高さ 11.1センチ

 
 
 
 
                      春駒
       こちらは養蚕の祝言で、養蚕農家の家の前で舞い施しを受ける門付けです。
     

      高さ 11.8センチ             高さ 11.9センチ

 
 
 
 
 
                   お夏清十郎《お夏》
 

姫路で実際に起きた旅籠、もしくは米問屋の娘と手代の駆け落ち事件をもとに戯作が作られました。

《井原西鶴》の作品です。歌舞伎、浄瑠璃、新派などで演じられ、映画にもなりました。

                 高さ 11.6センチ
 
 
 
 
 
                女義太夫 竹本土佐廣 (たけもととさひろ)?
 
どうも女性の義太夫のようです。と言えば、明治生まれで大正時代に大人気となった【竹本伊達子(だてこ)】こと、昭和16年に改名したのちの【竹本土佐廣】ではないでしょうか。
 
女義太夫は、明治時代に大流行しますが明治末にはすたれます。【竹本伊達子】は大正時代に活躍した大スターです。のちに女義太夫として、初めて人間国宝になります。
     
      高さ 11.8センチ             高さ 11.8センチ
                        
 
 
 
 
           恋飛脚大和往来(こいのたよりやまとのおうらい)?
                    【梅川】
 
御高祖頭巾の女性です。歌舞伎に御高祖頭巾は多く人物は分かりません。通称【梅川忠兵衛】の遊女【梅川】が第一の候補として挙げられそうです。
     

       高さ 10.2センチ            高さ 11.3センチ

 
                        高さ 11センチ前後
 
 
 
 
 
            心中天の網島(しんじゅうてんのあみじま)?
 
男女の道行と言った風情です。心中物とか悲恋の物語は多く、モデルは分かりません。候補として考えているのは、《心中天の網島》の(時雨の炬燵の場)です。紙屋治兵衛と遊女小春の二人が第一候補でしょうか。
                   高さ 11センチ
 
 
 
 
 
 
                    人物不明
            作品や人物の名前の分からない姿も大勢います。
 
    《大津絵道成寺》と言う作品にこのような手拭を持って舞う姿がみられます。
 
     

       高さ 11.8センチ            高さ 11.5センチ

 
 
 
 
    鼓を持って舞う芸妓さんのようです。袂は短く、帯の結びも短くなっています。
                  高さ 11.6センチ
 
 
 
 
       左手に鉞を持っています。羽織を着崩して鉄火な雰囲気のお姐さんです。
                   高さ 10センチ
 
 
 
 

 
 
 
 
 
                      遊女
襦袢の上から着物をかけているのか、あるいは羽織をかけているのか、崩れた格好の遊女です。5寸クラスの重いタイプによく似た姿が見られます。同じ人物のようで何かの戯作の登場人物なのだと思います。髪形は縦兵庫で、多分上方の遊女がモデルの戯作だと思います。
 
 
 
 
             十二単を着ていて、宮中の女性のようです。
                   高さ 11センチ
 
 
 
 
戯作の登場人物なのか、あるいは【生活篇】に含むべき一般女性なのか不明です。もしかすると安来節で泥鰌掬いを踊る女性踊りなのかもしれません。5寸クラスにもよく似た女性がいます。
                   高さ 11センチ