大正時代から昭和の初期、だいたい昭和10年前後に盛んに作られていた磁器製の大衆人形の内、底面に穴が無く重いタイプには前回ご紹介した5寸クラスより小さな、3~4寸程度の小サイズも見られます。だいたい9センチから12センチ前後の仲間です。

 

小さなサイズとしては重量感が感じられ、磁器特有のざらりとした冷たい感じが手のひらになじみとても魅力的な仲間です。

 

射的の景品が多いようですが、市販品も入り混じっていると言ったところではないでしょうか。共箱でもないと私には両者の区別が付きません。
 

さて、このブログでは歌舞伎や浄瑠璃の戯作がモデルとなったり、歴史上に人物などを《歴史篇》として纏めています。ここでは小サイズの《歴史篇》の中から【男性】を採り上げます。5寸クラスと多くのモデルが共通しています。                            51

 

 

《忠臣蔵(大石内蔵助)》

一力茶屋で昼行燈に興じる姿です。

 

背面【い】の刻印

高さ 11.6センチ

 

     

       高さ 10.6センチ            高さ 10.2センチ

 

討入

高さ 11.7センチ

 

 

 

 

加古川本蔵

 

虚無僧姿です。多分忠臣蔵に登場する【加古川本蔵】ではないかと思います。実話でのモデルは、梶川与惣兵衛です。松の廊下で抜刀した浅野内匠頭を抱きとめた人物です。

 

高さ 11.2センチ

 

 

 

 

 

《其小唄夢廓(そのこうたゆめもよしわら)》

                    白井権八

 

新吉原仲の町の場面に出てきます。実際にあった事件がモデルになっています。はっきりとした人物は不明ですが、白井権八ではないかと思います。考えられる特徴はいくつかあります。髪形が若衆髷で、両袖の部分に【井】を図案化したかに見える、紋のような模様を染め抜いています。

 

書状の上に色が染められています。朱色で染めるのは遊女の風習で恋文と言う事です。遊女《小紫》の手紙かも知れません。常連客に送る営業手紙ともいわれるようです。 

     

       高さ 9.5センチ              高さ 9.5センチ

 

 

 

 

 

 

《勧進帳》

 

頼朝に追われた義経一行が、奥州へ逃れるため山伏の格好で安宅の関を通る時、清水寺の勧進と嘘をつき、弁慶が巻物を勧進帳としてそらんじる場面です。昭和初期、近来で最高の舞台と言われ好評だった、7代目松本幸四郎の演じる弁慶だと思います。

高さ 12.5センチ

 

 

 

弁慶だと思います。義経と出会った時の姿でしょうか。勧進帳を読む場面では立派な衣装で登場していますが、こちらはかなり地味です。戦国時代に力を蓄えた、延暦寺の僧兵のようにも見えます。

                  高さ 11センチ前後

 

 

 

 

 

 

 

           《与話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)》

切られ与三郎

 

やくざの親分の妾に手を出して、37か所の刀傷を負いますが生きていて、最後はその妾【お富】と結ばれる戯作の与三郎です。戦後は市川雷蔵の映画が有名なようです。
 
昭和30年代に流行した春日八郎の【お富さん】もこの戯作から生まれたようです。♬死んだはずだよお富さん~♬のフレーズです。
                 高さ 10.5センチ
 

     

       高さ 10.1センチ            高さ 11.5センチ

 
 
 
 
 

          《神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)》

                 め組の喧嘩 《辰五郎》

 

芝居小屋での争いがきっかけに起こる、火消と関取の喧嘩を扱った戯作です。頬かむりの姿と纏を持った姿との二種類が良く見られます。丁寧な造りからごく大雑把な造りまで様々存在します。
 
頬かむりの辰五郎
     

       高さ 11.3センチ            高さ 11.6センチ

 
高さ 9センチ
 
 
 
纏を持った辰五郎
     

       高さ 11.5センチ            高さ 10.2センチ

 
 
 
 
 
           《青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)》

                   弁天小僧菊之助

 

通称《白浪五人男》と呼ばれる戯作です。文久2年に初演されました。その代表的人物【弁天小僧菊之助】です。有名な、女装して浜松屋でのゆすりの場から帰る時、刀に着物を巻き付けて担いでいる様子です。羽織りの下が赤いのは、女性用の襦袢を着ているからで、豆絞りの頭の頬かむりも、高島田に結い上げた髪を隠すためと言う事です。

高さ 11.3センチ

 

 

 

 

 

          《助六由縁江戸櫻(すけろくゆかりのえどざくら)》

助六

     

                  高さ 9.5センチ 

          衣装の色違いですが、同じ江戸紫の鉢巻をしています。                         

 

                  高さ 10.2センチ

 

 

 

 

《義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)》

いがみの権太

高さ 11.5センチ

 

 

 

 

 

佐倉義民傳?

 

物語りは不明ですが、歌舞伎では珍しい農民劇【佐倉義民傳】が近いようです。農民の宗吾とその次男、徳松では無いかと思います。昭和12年の演目では中村吉右衛門が宗吾、幼い頃の中村錦之助(萬屋錦之助)が徳松を演じたのだそうです。その時の写真がこの姿とよく似ています。
 

背面に【京人40矢】の刻印

     

                 高さ 10.6センチ

同じ原型の彩色違いです。5寸クラスでも見られます。

 

 

 

 

 

                 赤垣源蔵  ≪徳利の別れ≫

 

【赤垣源蔵】は、赤穂浪士の一人です。講談で有名な≪赤穂義士伝≫の話のひとつで、≪徳利の別れ≫に出てきます。四十七士、それぞれの逸話が書かれた≪銘銘伝≫では人気の作品で、兄弟の愛情が描かれています。

 

討ち入りが決まった夜、【赤垣源蔵】は雪の中、兄の塩山伊左衛門を訪ねますが会えず、兄の着物を前に酒を飲み、別れの盃とします。伊左衛門は、弟に会えなかった事を悔やみます。その後討ち入りを知った兄は、弟の形見を受け取ります。                                     

高さ 10.9センチ

 

 

 

 

 

《色彩間刈豆(いろもようちょっとかりまめ)》

 木下川与右衛門(きねがわよえもん)

 

通称【累】と呼ばれる演目です。累(かさね)の登場する怪談物です。右側は筵を持ち、足元に道標があります。そこには木下川と書かれています。木下川と書いて(きねがわ)と読みます。筵を持っている事が特徴のようです。

     

       高さ 11センチ前後            高さ 12.1センチ

 

 

 

 

 

《心中天の網島(しんじゅうてんのあみじま)》

紙屋治兵衛

     

       高さ 11.4センチ              高さ 11.2センチ

殆ど同じポーズをしていますが、造りはかなり違います。右は5寸クラスに見られるように小顔で丁寧です。

 

 

 

 

丹下左膳

幾何学的な着物の模様ですが、何となく髑髏を連想させます。

高さ 11センチ

 

髑髏の着物

髑髏のデザインが特徴のひとつのようです。隻眼なので丹下左膳で良いと思われます。

     

                  高さ 11センチ前後

こちらも紙屋治兵衛のように造りが違う二体です。右は小顔で5寸クラスによく似ています。

 

 

 

 

 

清水の次郎長

 

笠を持った股旅姿は大勢いますが、髷を結ったこのポーズは清水の次郎長で間違いないようです。

高さ 11センチ前後

 

 

 

国定忠治

頬かむりをしたこちらのポーズはどれも国定忠治のようです。

背面【い】の刻印

高さ 11.5センチ前後

 

 

               

 

 

 

加藤清正

高さ 12.1センチ

 

 

 

 

奴さん

     関三奴(せきのさんやっこ)               供奴?

     

                  高さ 11.5センチ

 

 

 

 

 

           《心謎解色糸(こころのなぞとけていろいと)》

 

                  お祭り佐七のようです。  

高さ 10.2センチ           

 

 

 

 

 

 

           《隅田春妓女容性(すだのはるげいしゃかたぎ)》

                    梅の由兵衛

 

宗十郎頭巾で、一本差しに派手な着物を着ています。着物の図柄が笹の葉のようですが、鳥をイメージしているのであれば《隅田春妓女容性》(すだのはるげいしゃかたぎ)の(梅の由兵衛)かもしれません。

 

                 高さ 11センチ前後

 

 

 

 

 

 

人物が不明な姿

 

戯作や人物名が不明な姿が沢山います。

 

木刀を持っていて、宮本武蔵のような感じがします。

                  高さ 11.1センチ

 

 

一本刺しに派手な着物を着て頬かむりをしています。関西の金持ちの商人が遊郭へ出かける時の忍び姿のように見えます。関東では町人の帯刀は許されていませんでした。

     

       高さ 10.2センチ             高さ 8.4センチ

 

 

 

宗十郎頭巾に文箱のようなものを持ち、二本差しの武士です。三人は同一人物なのだと思います。

     

                  高さ 11センチ前後

 

高さ 9.6センチ

 

 

 

旅姿の武士のようです。

高さ 8.3センチ

 

 

 

 

 

子供の玩具でしょうか、幼い顔つきの姿も見られます。とりあえず参考までにご紹介します。

 

     

                  高さ 10センチ前後

 

     

       高さ 9.9センチ             高さ 10.4センチ