「おお、これは繊細な料理だな。」

「こんなに精巧な料理が、どの店に行っても出てくるのか?」

「…いや、俺は“あのハンニバル”じゃないんだけどな。」





歌舞伎町の夜、ひとりの男が店のカウンターで静かに食事をしていた。彼の名は ハンニバル・バルカ。紀元前3世紀、ローマを震撼させた天才軍略家の名を持つ男。象とともにアルプスを越え、ローマに恐れられた将軍——そんな彼の名前を持つ人間が、現代の東京にいたとしても、不思議ではないかもしれない。


しかし、彼の前に並ぶのは戦場の地図ではなく、美しく盛り付けられた料理。ローマ軍を翻弄した知将も、現代では歌舞伎町の食文化に驚かされるばかりだ。


…とはいえ、誤解しないでほしい。彼は “あのグルメなハンニバル” ではないのだから。