深い森の奥に、誰にも知られていない「森の図書館」がありました。
建物の壁は古いレンガでできていて、屋根にはびっしりと緑のツタが絡まっています。管理人をしているのは、少しおっちょこちょいな、老いたフクロウの「フェリックス」でした。
この図書館の本は、どれもちょっと変わっています。棚に並ぶのは紙の本ではなく、人間の「昔の記憶や、言い出せなかった秘密」が詰まったガラスの小瓶なのです。
ある雨の日の夕方、カサカサと落ち葉を踏む音とともに、小さなヤマネの「ピコ」がやってきました。 ピコは濡れたコートをパタパタと払いながら、カウンターのフェリックスに言いました。 「あの……去年の秋にここに預けた、『大切な約束の記憶』を探しているんです。どうしても思い出せなくて」
フェリックスは丸い眼鏡をくいっと押し上げ、大きな台帳をめくりました。 「ほほう、約束の記憶かね。確か三番目の棚の、どんぐりの小瓶だったかな……」 しかし、棚を探しても、肝心の小瓶が見つかりません。フェリックスは冷や汗をかきながら、棚の裏をひっくり返しました。
そのとき、棚の隙間から、一枚の古い「青い切手」がヒラリと落ちてきました。
ピコはその切手を見た瞬間、ハッと息をのみました。 「あっ……!」
それは、遠くに引っ越してしまった親友のリスの「クルミ」と交わした切手でした。 『次に会うときは、お互い一番大きな木の実を見せ合おうね』 ピコがすっかり忘れていた、小さな約束。その記憶が、青い切手を見た瞬間に鮮やかによみがえってきたのです。
「見つかったかい?」とフェリックスが心配そうに尋ねます。 ピコは温かい笑みを浮かべ、首を横に振りました。 「いいえ、小瓶は見つかりませんでしたが……もっと大切なものが見つかりました。ありがとう、フェリックスさん」
外に出てみると、いつの間にか雨はあがり、森の木々の間から夕日が柔らかく差し込んでいました。ピコは心の中でクルミに話しかけながら、明日への小さな一歩を踏み出しました。
森の図書館の窓から、フクロウのフェリックスが「やれやれ」と満足そうに羽をパタパタさせているのが見えました。