未来4
栄輔がすみれの家から
自宅に帰るというと
さくらは、嫌がった。
あまりにも、嫌がるので
キヨは、栄輔に泊まっていって
くださいという。
すみれは驚くが
さくらは喜んだ。

栄輔はお風呂にはいって
いた。
脱衣所においてある
栄輔の服はきちんとたたんで
あった。
すみれはその横に紀夫のゆかたを
おいた。
栄輔が風呂からあがってさくらを
寝かしつけた。

栄輔にとってさくらは、かわいらしい
以上のものだった。
すみれは栄輔にお礼を言って
明るくて元気な栄輔を
「ご両親はきちんとなさった
ひとだったのですね」と
聞いた。
脱衣所にあった服をたたむという
当たり前のことができて
いるのは、めずらしいからだ。

栄輔にいわせると
両親は
傘職人で
忙しくて、あまりかまって
もらえなかったこと
をいった。

しかし
栄輔の家族はいつも笑って
いるような仲のいい家族だった
という。
妹は洋裁を習っていたといった。

すみれは彼女は
きっと
ご両親の傘職人の仕事を
見て育ったので
裁縫に興味を持ったのだと
いった。
栄輔はすみれにだれに
裁縫を習ったのかと聞く。

「母から」といった。

とても、刺繍が上手なひと
だった。
人に見せたくて喜ばせたくて
必死に刺繍をしていたという。

栄輔は着ているのが
紀夫の浴衣とわかっていて
どんな人だったかと聞く。

すみれは、結婚写真を見せた。
幸せそうだと栄輔が言う。
さくらは、紀夫を知らない。
そんな話をしていると
さくらがおきてきた。
そして、栄輔に
「おとうさん・・・」と
いった。

すみれは、さくらを抱き上げて
「ごめんなさいね、栄輔さん」と
いった。

栄輔は、びっくりして
「なんだろう?
ええなとおもった。
家族ってええな・・・
って。」

栄輔はしみじみといった。

大阪のほうは、潔が栄輔が
帰ってこないので心配して
いた。

五十八に紀夫の行方を
ゆりがきく。

皆目見当がつかないと
いった。

翌日、さくらとすみれは
栄輔を見送りに高台に
いった。

栄輔は
つぼみが膨らむ桜をみて
「今年は桜がきれいに咲いて
きれいなころを
三人で一緒に
みよな?」
と言う。

そして
栄輔は帰って行った。

すみれはさくらの木を見上げた。

店に行くと商店街で
みんなが泣いていた。

時子の夫が戦死したという。

時子は位牌をもって坊さんと
いっしょに
現れた。

みんな手を合わせた。
明るい時子が
悲しそうにしていた。

そのころ潔は
栄輔に
すみれが好きなのではなのかと
聞く。
栄輔は「そんなことはない。
ただ、すみれさんもさくらちゃんも
助けてあげたいだけだ」と
いった。

潔は

「あかんで」という。

「紀夫君だって帰って来るかも
しれないし
坂東営業部の復活に頑張っている
のは、坂東家に仕える身だ。
紀夫君は坂東家の当主だから
彼につかえる身なんだ」という。

栄輔は「そんな考え方だから
ゆりさんにも遠慮があるのか」と
いった。
「遠慮はしてない」というと
「している」という。
「本当のことを言ってない。
自分は番頭のコドモで
ゆりさんは坂東家の娘で
そんな考え方が染みついて
いるから、どこか
ゆりさんに遠慮している。
おやじさんにも
はっきりとものが言えない。」

そういって「自分は違う」と
いって
去って行こうとした。
「何が違うんや」潔が聞く。

「わしは
自分が生きたいように生きます
わ・・・・。」

そのころすみれは・・・
さくらをねかしつけて
考えていた。

会えない夜を何度すごした
ことでしょう。
何度泣いたことでしょう

すみれは紀夫の裁縫袋を見た。

「紀夫君は今頃どこに??」

*************
潔の番頭さん根性を英輔が
見抜きました。
ある意味栄輔は
よく人を見ています。

どこか、遠慮がちで自分の意見を
ゆりに言わない潔に
疑問を持っていたようでした。

そういうことだったのかと
栄輔は理解しました。

でも、自分は・・・
番頭のこどもではない。
人につかえる身でもない。
そんな考えかたは
していない。
こうして、潔は自分の
生き方を
思い直すでしょう。

さくらにとっては
悲しいかもしれないけど
栄輔はお父さんでは
ありません。
きっと幼いながらも
どこかで
父親を探しているのでしょう。

このひとが
お父さんというもの
なのかもしれないと
さくらは
感じたのかもしれません。