お父様の背中6
君枝、良子に出兵した夫が
帰ってきた。
うれしそうな友の顔を見ることは
うれしいことだが、
すみれには、心の奥に
ちくりとさすものがあった。

明美はすみれに看護婦をやめたことを
言えないでいた。
朝早く店にきたすみれはパッチワークに
取りかかろうと準備を始めた。
明美はそれを手伝った。

君枝の家では昭一が帰ってきたが
息子の健太郎はなかなか
昭一になじめない。
姑の琴子は昭一が出兵する
とき、君枝を頼むと言われた
ので、君枝を守ってきた。
君枝の顔色がいいことを昭一は
喜んだが。

すみれは大阪の闇市に潔を訪ねた。
パッチワークのはぎれを
調達するためである。
そのとき五十八が
「みんな、一緒に行こう」と
いった。
「負けっぱなしは性分にあわないから」と
いう。
行先は根本のところだった。

五十八は根本に
「ちょっとよろしいか?」と
声をかけた。

「あんたたちのやっていることは
日本の未来のためにならない。
あんたたちは、自分たちの
生活が潤うために
弱いものから銭を巻き上げて
いるだけだ」といった。

根本たちは、日本の未来だと
いっても、未来を考える
力がない。
いまの時代を乗り切るだけで精一杯
であった。だから、五十八の話を
笑って小ばかにした。

「まず、この闇市の安全と健全性を
まもろう」と
五十八が語り掛ける。
「買い物はおんながするものだから
安心して女の人が来れるように
安全で健全な闇市にすることが
大事だ」という。

「自分たちは、来年も、また次の年も
生きている。
その次の10年後20年後は子供たち
の時代になる、30年後、40年後は
孫たちの時代になる。
その未来のために今できることは
何かを作ることだ。
そのために安全で健全な闇市を作ろう
その、リーダーはあなただ」と
五十八は根本に呼びかけた。

その様子を見てすみれは
キヨに「昔のお父様に
戻ったみたいだ」といって
喜んだ。
翌日、すみれは
店にいってパッチワークを
していると
君枝が来た。
どうしても、昭一にお店のことを
いえなくて、これからも
言わないでおこうと思うと
いった。
明美は、「それはやめるということ
なの?」と聞く。
君枝は謝りながら
辛そうな顔をして
去って行った。

明美は君枝も良子も
ご主人が帰ってきたので
去って行ったと
いう。
たとえそうであっても
すみれは、ひとりでも
注文を受けたテーブルクロスは
やりあげようと
思った。
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五十八の頼もしさにすみれは
有機をもらったようです。
もどってこない良子と
去って行く君枝。
それは、すみれにとっても
心細いことでは
ありますが、心を込めて
べっぴんをつくることで
自分を励ましているかの
ように思いました。

まだまだ、日本の家庭にあって
は、女は家にあって
男は外で働くという
概念が強く、特にいいところの
奥様がお店で働くなんて、考えら
れなかったのではと思いました。

日本の未来を語る五十八に
すみれは、自分の未来を
考えたように見えました。