お父様の背中5

ゆりは根本にいった。
「なぜ、大家さんでもない
地主さんでもないあなたが
場所代を取るのですか。」

「なにぃ?」玉井がすごんで
ゆりに近づくと
根本はそれを止めて
自分がゆりに近づいて
いった。
ゆりは、うつむいてしまった。

そして、根本は大声で
ゆりの頭の上から
いった。

「声が小さくてよう
聞こえんわ!!!!」

それだけでゆりは、力が
ぬけてしまい、最初の
意気込みもどこへ
やら、あまりの恐ろしさに
身が縮んでしまった。


玉井が、「昔からここいらは
根本さんが仕切っているのだ」と
いう。

ゆりは声を振り絞って行った。

「それなら
見直してください・・・」


玉井がいった。
「あほかおまえ
何の権利があって
そんなこというとんねん。」

根本は玉井をとめた。

そして、ゆりに、再び
ちかづき

「かわいそうにな・・・
姉ちゃん、震え取るやないか・・」
といった。

ゆりは、顔も上げられず
うつむいたままだった。

周りからは笑い声が上がった。

五十八は
ゆりのもとに来て
「もういいやろ」といって
「今日はこの辺で失礼します」と
いって、ゆりを連れて帰った。

「世の中には不条理なことが
おおい、商売をしていたら
そんなことだらけだ。
そういう時どう解決していくか
どう打開策をねっていくか
それができるかどうかで
その先の展開が違ってくる」と
五十八は言う。
ゆりは黙ってうつむいたまま
家に入っていった。

五十八は忠と闇市を歩きながら
いった。
五十八は、「世の中のことを教える
には早すぎたか」と
いうが
忠は「それが早かったかどうかは
これから先にわかりますよ。旦那
様は背中で教えたらいいのですよ。」

という。

「背中か???」

「それにしても、闇市の様子と
あのお嬢様で育った環境と
は全く違うのでゆりお嬢様が不憫だ」と
忠が言う。
「闇市にはほとんどおなごがいない
ではないですか?
何でこんな治安が悪いところに
ゆりお譲さまがいなくては
いけないのですか?」
忠が泣くので
五十八は、「泣くな、
わしが泣かしているみたいや」
と言ってさっさと歩いて行った。

落ち込んでいるゆり。

潔は、ゆりが面白いという。
自分が言いたいことをいって
くれたという。

ゆりは、潔は同志ではなかった
といった。
何も話をしてくれないからだ。
潔は、同志だからこそ細かい話は
しないものだという。
今は苦しいだろうが
ついてきてくれといった。

ゆりは、そんな話に応じられず
今は一人にしてといった。

三人はテーブルクロスの途中経過の
報告に
ランディ家にいった。
婦人はとても喜んでくれた。

家を出たとき
人がたっていた。
昭一が帰ってきた。

君枝はデザインノートを落として
昭一のもとに走って行った。
琴子もやってきて
三人は、家に帰って行った。

すみれたちにはなんの
挨拶もなしに・・・

明美は、「旦那さんが
帰って来たらこうなるのか」と
つぶやく。


ゆりのもとを訪問するすみれ。
はぎれのことだった。
たくさんのはぎれがあった。
喜ぶすみれだった。

「御代は払います。
少しは売れているのよ」と
すみれがいうと
家の中からできてきた
五十八が
「ほう、売れているのか」と
うれしそうにいう。

リピーターが少しは
いるのである。

「これからのことを話し合おう」と
五十八はゆりに声をかけた。

今の潔の商売はその場しのぎ
の連続である。
いつ終わってもおかしくはない。
それならいつ、坂東営業部が
復活するのかわからない。

しかし、この状況のなか
どうにもならないと潔が言う。
五十八ならどうするのかと
潔が聞く。
「わしなら保証を付ける。
いいものしか、売らない
信用をつける
あせるな
急がば回れ
それが商売の
人生の基本や・・・」

すみれは、父の話を
ひとことひとこと
聞いた。
ゆりは、すみれの頑張りを
ほめた。
すみれは喜んだ。
「また来るからね」と言って
すみれは帰って行った。

すみれには、テーブルクロスの
作成という大きな目標が
あった。
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進むべき道がある、という
ことほど、うれしいことはない。
すみれには、いいものを作って
うる、べっぴんさんを作って
売るという目標が
あった。

が、ゆりには、なかなかその道が
見いだせない。
時代が悪いと言えば悪い。
今の時代は、必要なものしか
買わない。
粗悪なものがはびこる時代に
いいものは、埋もれてしまう。
その中にあって、すみれは客の
ひとりひとりに
訴えた。
赤ちゃんが、快適に過ごせます、
お母さんが、便利につかえます。
そんな商品を作ったのである。

だが、消費はまずは食料という時代
に、難しいものである。