思いを込めた特別な品4
すみれは麻田から物づくりの
心を教わった。
「誰にだって最初からうまくいかない
ものだ。しかし、思いを込めたら伝わります。
だれがどんな思いを込めて作るのか。
それが一番大事なのです。」
物を作るというのはどういうものなのか
強く心に刻まれたすみれでした。
が・・・
すみれが家を抜け出して
かってに、麻田の店に行ったことを
五十八は激怒した。
はらはらする執事の井口。
五十八は
野上正蔵と息子潔
そして麻田にむかって
なんてことをしてくれたのか
もし何かあったらどうするのかと
怒鳴った。
それをゆりとともに階段の上から
すみれは見ていた。
丁度応接間に田中五郎貴族院議員と
その息子紀夫が来ていた。
家中に響き渡る五十八の怒りの声を
聞いていた。
井口は何とか五十八の怒りを
抑えようとしたが、どうにもならない。
すみれが見知らぬ男に声をかけて
怖い思いをしたらしいが
なにかあったらどうするのだと
それも五十八の怒りの
ネタとしては十分だった。
そして、これ以上いうことがなく
なったのか「今日のところはもう。。」と
いって去って行こうとした。
すると麻田がゆりの靴を持ってきたと
いう。
五十八は「それは、受け取れない。
持って帰ってくれ。なぜ、
すみれが来たとき
返さなかったのか」
と麻田をせめた。
「もう金輪際、キミのところで靴は
作らない」。
あまりのことに麻田は驚いて
困惑した。
「君は親の気持ちをなぜわからないのか」と
五十八はいった。
それまで階段の上からゆりとともに
聞いていたすみれは
階段を走り降りて
五十八の前にたった。
が、口が重たいので
何も言えない。
五十八はすみれがなにをいうのかと
待っていたが、「結局おまえは
何も言えないのだな、いつもそうだ。
向うへ行け」と怒って
いった。
すみれは、大声で「堪忍してください」と
いった。
「あたしがあかんねん。
みんなを怒るのをやめてください。
私が靴を作るところを見たいって
いうたんです。麻田さんは
帰りなさいといいました。
でも、見たかったから。
麻田さんはお母さんが私の分も
靴を頼んでくれたから、だから
ずっと麻田さんで靴を作ってください。」
すみれは、話すというより
ほぼ、叫んでいた。
すみれがあまたを下げると
五十八は
すみれに、「そうか、そうやな」といった。
「どんだけ心配したとおもてんねん。
おまえに、何かあったら
おかあさんに合わせる顔が
ないやろ?」
五十八は怒りが消え、すみれを
だきしめた。
「お父さん、ごめんなさい。」
こうして、一件落着した。
それを、田中紀夫がじっとみて
いて、なぜかすみれをみて
びっくりしていた。
潔は帰るとき、「よく話ができた」と
すみれにいった。
「こ嬢ちゃんおもてることが言えて
勇気あるな。大したものや。」
そういって帰って行った。
紀夫はじっと見ていたが
あわてて、父のいる応接間
にもどったので
五郎は「どうした?」と聞いた。
紀夫は「なんでもない」というが、
なぜかどきどきしている自分を
持て余していた。
ゆりとすみれは麻田が持ってきた
ゆりの靴を見て
歓声をあげた。
そしてゆりがその靴に足を入れると
ゆりは「足にびったりで
吸い付いているみたいだ」と喜ぶ。
そしてすみれに、「ありがとう」と
お礼を言った。
すみれはその夜、
麻田の言葉を思い出した。
「誰にどんな思いを込めて作るのか。
それが一番大事なのです」
すみれは、意を決したかのように
すみれのお裁縫箱を
あけて、針と糸をだして
刺繍を始めた。
その作業は翌朝まで続いた。
翌日、すみれは五十八と
一緒にはなのもとへお見舞いに
いった。
「今日は気分がいい、すみれが
来てくれたからかな」と
はなはいう。
五十八は「ちょっと先生と話を
してくる」といって
出ていった。
すみれは、はなに、ハンカチを
わたした。
少しは上手になっている刺繍だった。
はなは「ありがとう。
べっぴんやな。
一生の宝物や」といった。
すみれは、はなに「刺繍が
上手になりたいので教えて
欲しい」といった。
そのころ、五十八は
医者からもう、はなの命は
いくばくもないことを
聞かされた。五十八は医者に
「一日でいいから退院させてほしい」と
頼んだ。
「子供たちと一緒に過ごす時間を作って
なりたい」といった。
はなは、このころもう自分の命は
長くないことを知っていた。
すみれに刺繍の手ほどきを
しながら「覚えている?」と聞いた。
「あのひ、四つ葉のクローバーの
意味をいったでしょ?」
すみれは
「勇気、愛情、信頼、希望
四つがそろうと
しあわせになれると話をしてくれた」
といった。
はなは、
今この時が
いとおしすぎて
しあわせすぎて
もうすぐ訪れる
別れがつらすぎて
この世から去りがたいと
思った。
******************
今のすみれには、勇気があります。
希望もあります。
あと、愛情と
信頼でしょうか。
これは、あいてあってのこと
ですね。
紀夫君は、いつもストイックに
読書をしている少年です。
周りを気にかけることも
興味を示すこともなく
です。
そのこがなぜか、このとき
すみれが
五十八に心の思いをぶつけたことで
どきどきするのです。
おお、紀夫君初恋か?
おもえば、すみれはなかのいい
女の友達がいません。
いつもゆりや女中さんと一緒の
様子ですが。
お譲さまというのは、そういうもの
なのでしょうか。
そして母、はなさんが
亡くなる予感がします。
すみれは、どれほど悲しむでしょうか。
五十八もどれほど
がっかりするでしょうか。
覚悟を決めているでしょうが、
やはりなくなるとつらいものです。
すみれは麻田から物づくりの
心を教わった。
「誰にだって最初からうまくいかない
ものだ。しかし、思いを込めたら伝わります。
だれがどんな思いを込めて作るのか。
それが一番大事なのです。」
物を作るというのはどういうものなのか
強く心に刻まれたすみれでした。
が・・・
すみれが家を抜け出して
かってに、麻田の店に行ったことを
五十八は激怒した。
はらはらする執事の井口。
五十八は
野上正蔵と息子潔
そして麻田にむかって
なんてことをしてくれたのか
もし何かあったらどうするのかと
怒鳴った。
それをゆりとともに階段の上から
すみれは見ていた。
丁度応接間に田中五郎貴族院議員と
その息子紀夫が来ていた。
家中に響き渡る五十八の怒りの声を
聞いていた。
井口は何とか五十八の怒りを
抑えようとしたが、どうにもならない。
すみれが見知らぬ男に声をかけて
怖い思いをしたらしいが
なにかあったらどうするのだと
それも五十八の怒りの
ネタとしては十分だった。
そして、これ以上いうことがなく
なったのか「今日のところはもう。。」と
いって去って行こうとした。
すると麻田がゆりの靴を持ってきたと
いう。
五十八は「それは、受け取れない。
持って帰ってくれ。なぜ、
すみれが来たとき
返さなかったのか」
と麻田をせめた。
「もう金輪際、キミのところで靴は
作らない」。
あまりのことに麻田は驚いて
困惑した。
「君は親の気持ちをなぜわからないのか」と
五十八はいった。
それまで階段の上からゆりとともに
聞いていたすみれは
階段を走り降りて
五十八の前にたった。
が、口が重たいので
何も言えない。
五十八はすみれがなにをいうのかと
待っていたが、「結局おまえは
何も言えないのだな、いつもそうだ。
向うへ行け」と怒って
いった。
すみれは、大声で「堪忍してください」と
いった。
「あたしがあかんねん。
みんなを怒るのをやめてください。
私が靴を作るところを見たいって
いうたんです。麻田さんは
帰りなさいといいました。
でも、見たかったから。
麻田さんはお母さんが私の分も
靴を頼んでくれたから、だから
ずっと麻田さんで靴を作ってください。」
すみれは、話すというより
ほぼ、叫んでいた。
すみれがあまたを下げると
五十八は
すみれに、「そうか、そうやな」といった。
「どんだけ心配したとおもてんねん。
おまえに、何かあったら
おかあさんに合わせる顔が
ないやろ?」
五十八は怒りが消え、すみれを
だきしめた。
「お父さん、ごめんなさい。」
こうして、一件落着した。
それを、田中紀夫がじっとみて
いて、なぜかすみれをみて
びっくりしていた。
潔は帰るとき、「よく話ができた」と
すみれにいった。
「こ嬢ちゃんおもてることが言えて
勇気あるな。大したものや。」
そういって帰って行った。
紀夫はじっと見ていたが
あわてて、父のいる応接間
にもどったので
五郎は「どうした?」と聞いた。
紀夫は「なんでもない」というが、
なぜかどきどきしている自分を
持て余していた。
ゆりとすみれは麻田が持ってきた
ゆりの靴を見て
歓声をあげた。
そしてゆりがその靴に足を入れると
ゆりは「足にびったりで
吸い付いているみたいだ」と喜ぶ。
そしてすみれに、「ありがとう」と
お礼を言った。
すみれはその夜、
麻田の言葉を思い出した。
「誰にどんな思いを込めて作るのか。
それが一番大事なのです」
すみれは、意を決したかのように
すみれのお裁縫箱を
あけて、針と糸をだして
刺繍を始めた。
その作業は翌朝まで続いた。
翌日、すみれは五十八と
一緒にはなのもとへお見舞いに
いった。
「今日は気分がいい、すみれが
来てくれたからかな」と
はなはいう。
五十八は「ちょっと先生と話を
してくる」といって
出ていった。
すみれは、はなに、ハンカチを
わたした。
少しは上手になっている刺繍だった。
はなは「ありがとう。
べっぴんやな。
一生の宝物や」といった。
すみれは、はなに「刺繍が
上手になりたいので教えて
欲しい」といった。
そのころ、五十八は
医者からもう、はなの命は
いくばくもないことを
聞かされた。五十八は医者に
「一日でいいから退院させてほしい」と
頼んだ。
「子供たちと一緒に過ごす時間を作って
なりたい」といった。
はなは、このころもう自分の命は
長くないことを知っていた。
すみれに刺繍の手ほどきを
しながら「覚えている?」と聞いた。
「あのひ、四つ葉のクローバーの
意味をいったでしょ?」
すみれは
「勇気、愛情、信頼、希望
四つがそろうと
しあわせになれると話をしてくれた」
といった。
はなは、
今この時が
いとおしすぎて
しあわせすぎて
もうすぐ訪れる
別れがつらすぎて
この世から去りがたいと
思った。
******************
今のすみれには、勇気があります。
希望もあります。
あと、愛情と
信頼でしょうか。
これは、あいてあってのこと
ですね。
紀夫君は、いつもストイックに
読書をしている少年です。
周りを気にかけることも
興味を示すこともなく
です。
そのこがなぜか、このとき
すみれが
五十八に心の思いをぶつけたことで
どきどきするのです。
おお、紀夫君初恋か?
おもえば、すみれはなかのいい
女の友達がいません。
いつもゆりや女中さんと一緒の
様子ですが。
お譲さまというのは、そういうもの
なのでしょうか。
そして母、はなさんが
亡くなる予感がします。
すみれは、どれほど悲しむでしょうか。
五十八もどれほど
がっかりするでしょうか。
覚悟を決めているでしょうが、
やはりなくなるとつらいものです。
