花山、常子にお礼を言う5

雪の降る夜
花山宅を出る常子に花山はいった。
「常子さん、どうもありがとう。」

堅苦しい言い方に、常子は笑った。
「いやだわ、花山さん
また来ますね・・・」

花山は常子にさよならの手を振った。

2日後、社内で美子が
まだ、花山の原稿を入稿していないことに
驚く。常子は「ぎりぎりまで待たないと
急に書き直すというかもしれないから」と
笑いながら言った。
「花山さんならありえる」と
美子も納得した。
そんなとき、常子の机の電話が
なった。
「ほらね・・」と常子が笑って電話のそばに
いくと水田が電話を取って
常子にわたした。
花山三枝子からだった。

常子は電話に出ると
三枝子は
「お忙しいところすみません。
先ほど、花山が息を引き取りました。」

常子は、さっと顔が曇り
「わかりました。すぎにお伺いします。
失礼します」と言って電話を切った。

社員たちは花山がなくなったことを
感じたのか花山宅へ行く常子を
美子を無言で見送った。

花山宅につくと
みのりが絵をかいていた。
三枝子に案内されて花山の
部屋にはいっていった。
花山はベッドに横たわっていた。

常子は「このたびはご愁傷様でした」と
三枝子に挨拶をした。
「ごめんなさいね、容態が急変したので
間に合わなかったの。」
「お知らせくださってありがとうございます。」

「あなた、常子さんと美子さんがいらしてください
ましたよ。」
三枝子は横たわっている花山に声をかけた。
美子は、わぁっと泣いた。

「あの日、常子さんが帰られた後
花山は満足そうでした。
この国がどうなるかわからないけど
あなたの暮らしは常子さんがいるから
大丈夫だといってました。」

常子は、「そんな風にほめられたのは
はじめてです。花山さん・・・」と
花山に語り掛けた。

孫のみのりが花山の顔を書いたと
いって絵をもってきて
「じいじ、みて。じいじ」と
花山にいう。

常子は、こらえきれずに泣いた。


その夜、小橋家のリビングで
常子は三枝子から預かった
花山の最後の原稿を
もって
美子、鞠子、たまきに
渡した。
「花山さんの最後の原稿・・」と
いいながらみんながそれを
それぞれに読んでいた。
するとたまきが手紙を見つけた。

『美子さん、初めて君に会ったとき
きつく言う私のことばに必死で涙を
こらえていた顔、一時会社を辞めた
わたしに説得に来てくれた君の
情熱がなかったらあなたの暮らしは
終わっていたかもしれない。

鞠子さん
今でも仕事を続けていたらどうなっていた
だろうか。でも君は結婚して大きな幸せを
つかみ、たまきさんという素晴らしい娘さん
を得た。たまきさんはきっといい編集者
になるだろう。

常子さん、君に感謝を伝えるには何枚の
原稿用紙が必要だろう。
君にたくさんのことを教えた、それととも
に、たくさんのことを君から教えてもらった。
君がいなかったら今の私はいない。
ありがとう。』

常子はさいごの「ありがとう」をゆびで
なぞった。
そして、もう一枚。社内のメンバーの
似顔絵を集めたイラストがあった。
このイラストは社内に飾られた。

二か月後
あなたの暮らしの長年の功績を
認められて、雑誌の最高栄誉
である、日本出版文化賞をいただく
ことになった。

そのインタビュー番組がテレビで
放送されるとあって
鞠子は大急ぎで
テレビの前にトトとカカの写真を
おいて、スタンバッた。
会社でも、みんなが
一斉にテレビの前に座って
いまかいまかと放送を待った。
美子は、花山の書いたイラストを見て
いた。

常子はスタジオのスミに座って
出番を待っていた。
なんとも心細くなり
肩に向かって、「花山さん
花山さん・・どうしたもんじゃろのー」と
つぶやいた。
すると、自然に笑みが出てきた。
落ち着くことができた常子は
いよいよ放送開始となって
司会者の横に座った。

司会者はあなたの暮らしを
紹介し、常子の受賞を紹介した。

「よろしくお願いします」と
司会者が言うと
常子は、「よろしくお願いします」と
答えたが、康江は
「顔が固いよ~~~」と
テレビに向かっていった。
鞠子もハラハラしてみていた。

「この賞をいただけることになった
のも、読者の方々の応援があって
こそです。花山もくさばのかげから
喜んでいると思います」と心情を
のべた。

「あなた暮らしは35号まで
でていますが、一貫して
雑誌の方針というものがあり
ますね。それはなんでしょうか」と
司会者が聞く。

常子は、「戦後、なにもないなか
豊かな暮らしを取り戻すために
女性たちになにかお手伝いが
できないものかという点から
始まった」と話をつづけた。

「戦争というのが大きな意味が
あったということですか」と聞かれ
「ええ、ご存じない方もいらっしゃる
と思いますが、戦争中
フライパンや鍋を拠出しなければ
成らなかった時代もありました
ので・・・」

テレビを見る鞠子
社員たち
そしてトトとカカ。
それぞれが常子の晴れ姿を
よろこんでいるようだった。
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花山から始めて言われたという
「ありがとう。」
常子にとってはこれ以上にうれしいこと
はありませんが、また花山を失った
悲しみもこれ以上の悲しみはなかった
事と思います。

常子が花山に出会わなかったら
あなたの暮らしはなかったでしょう。
また花山も常子に出会わなかったら
戦争を賛美したことを悔やんで
自分を生かす出版業の仕事につかずに
後悔の人生をあゆんだかもしれません。
運命というものはどこにどうあるのか。
またこれが自分の運命だと
受け入れる勇気があるのかどうか・・
そこから、人生が開けていくか
閉ざされていくか、決まると思います。
こうして、常子は成功者として
名を挙げて
あなたの暮らしは今でも続いています。
私も、常子の年代の人間では
ありませんが、この雑誌はどこかで
本屋さんとか、銀行の待合室とか
で、見たような気がします。
手に取ってみたことがあるけど
買ったことはなかったかもしれません。
なぜならば、家庭の家事には
なにも興味がなかったからです。
今は主婦となり、どうすればおいしい
おかずが作れるのかとか
手早くきれいなお掃除の仕方
などを
考えますけど・・・

この雑誌の素敵なところは大きくは
商品試験でもありますが・・・

小さなこと
すなわち
ホットケーキの
焼き方など、普通につくっているはずだ
けど、案外しらない、上手に作るコツと
いうものを公開しているところ
でもあります。
また、季節感あふれるイラストも
すてきです。
そして、あの戦争特集は
どこかでみたことのある表紙だ
と思いました。
見ているのですよね。
買ってないけど。

今回、よほどナーバスになった
のか常子が、肩に向かって
「花山さん、花山さん
どうしたもんじゃろのー」と
いったあのシーンは
とてもすてきでした。

あしたはいよいよ
最終回です。

ブログにお越しくださった
皆様へ。

私は、朝ドラが好きというわけでは
ありませんが、あの「純と愛」の
展開の面白さにブログを書くことにしました。
あれを全部たとえばDVDに録画した
ところでわざわざ見ることもないと思いました。
でも、ちょっと詳しく内容をかけば
それを読みなおしてもう一度あの時の
感動を味わえるのではと思って
書きはじめました。
途中、「あまちゃん」は好きになれずに
(お好きな方、すみません)書きません
でした。
でも、それから、「ごちそうさん」、
「花子とアン」、「マッサン」
「まれ」、「あさが来た」、と続いて
「トト姉ちゃん」
これは面白いと
おもいました。
期待も何もなかったトトねえちゃんは
最高でした。
こんな面白いドラマ、また出会えたら
なぁとおもいます。