常子、仕事と家庭の両立に悩む4

森田屋で食事が終わって
星野は子供たちにおばちゃまと
大事なお話をするから
外で遊んでいてほしいという。
大樹と青葉は店の外へ
元氣に出ていった。

「お話って?」

常子が聞くと
星野は、名古屋へ転勤の辞令が
でたということをいった。
常子は星野をじっとみた。

これは、常子と出会う前の二年前に
名古屋へ転勤の希望を出していたという。
そこは実家からも近いし
残業も少ないので子供たちの
面倒を見やすいからだ。

いまになってそれがかなった。
叶わないと思っていたのに。

辞令の撤回を頼もうかと
どうしようかと
悩んだ。

その気持ちを変えたのは
大樹のことだった。

大樹が学校で足のやけどを
みた隣の席の女の子が
気持ち悪いといって
嫌がっていること。
そのことでいじめられている
こと。
そのために学校へ長ズボンで
いっていること。
学校へ行くときに
星野が出していた短い
ズボンではなく長いほうに
履き替えていること。
大樹はそれをいおうとしていたのだろう
が、忙しくて聞いてやれなかったこと。
それらを全く気付いてやれなかった
ことが悔やまれること。
大樹は一人で悲しんで苦しんで
いたこと。
親としての責任を果たして
やれなかった。

星野は
親子の絆は自然にできるものではなく
作るものだと実感した。
だから、子供との時間を
作るためにも名古屋へ行こうと
思ったという。
常子は大切な人だ
一緒にいたらどれほどすばらしい
人生を送れるだろうか
と思うけど
「身勝手ですが、名古屋でいくことを
許してください。」

常子は、「許すって・・・
痛いほどわかります。
親の責任はとても重いものだと
感じています。
親子の絆を作ることに
真剣な星野さんだから
わたしは好きになったのです」
といった。

星野は
常子に
「ありがとう」といった。

そのことを美子と君子に
報告した。
美子は「それでいいの」と聞く。
常子はあかるく笑った。
星野が転勤したからって
どうなるといっても常子は今まで
どおりに仕事に頑張るという。

君子は悲しそうに常子を見た。
が、常子は「着替えてきます」と
元氣に言って部屋に戻って行った。

美子は「つらいくせにまた
元気なふりをしている」と
いった。

会社では常子には元気がなかった。

そこへ、来客があった。

ちとせ製作所の田中社長だった。

新しいトースターをつくったという。
あの商品試験で倒産しかけたが
いいものを作ろうと思って
がんばって新しいものを
つくった。安全で使いやすい
ものになった。
それが、よく売れているという。

会社も盛り返すことができて
感謝している。商品試験するなら
五台ほどおいていくという。
常子は「買い取らせていただきます」
という。
花山も水田に5台分の代金を払う
ようにいう。
「相変わらず融通のきかない会社だ」と
田中はわらった。
「いろいろあったけど
あんたらには感謝している。」と
田中。
みんなも笑った。
常子は「そういって頂ければ
何よりです」と言って笑った。

やがて星野が名古屋に行く日が
きた。
星野と子供たちは家を出て
玄関の表札をはずした。

そこへ常子が走ってきた。
「星野さん、よかった
間に合ったわ。
これ、列車の中で食べて
下さい」と言って
お弁当を渡した。

常子は子供たちに
「二人とも、元気でね」という。
青葉は常子に
「お別れしたくないわ」という。
常子は、「おばちゃまもお別れしたく
ないけど、青葉ちゃんのことは
忘れないわ」といった。
「本当?」と青葉が聞く。
「本当よ。」
「本当に本当??」
「本当に本当に本当よ」

そして大樹には
「大樹君は優しくていいお兄ちゃん
だけど、つらいときには我慢しないで
お父さんに頼っていいのよ」といった。

「おばちゃんありがとう」と大樹が言う。
そして常子は大樹と握手をした。

星野には
「今までありがとうございました。
星野さんと大貴君青葉ちゃんと暮らした時間は
かけがいのないものでした。
しあわせでした。」
そういって手を出すと星野も
握手をしてくれた。

「常子さんは僕の誇りです。
小橋常子という女性と出会えた
ことをずっと誇りに思い続けます。」

握手の手が離れた。

「では・・・・・・」と星野が言う。

「では・・・・」と常子が少し微笑んで言った。

星野は大樹と青葉に
「では、いこうか」といった。
「さよなら・・・」と大樹
「じゃね、おばちゃま・・さよなら」

「さよなら」

「さよなら」
「元気でね・・」

「さよなら・・・」

子供たちは手を振りながら
振り向きながら
常子にさよならをいった。
常子もさよならと何度も言った。

星野と子供たちが
角を曲がった。

常子は手を振って
姿が見えなくなっても
立っていた。

振り返った常子の頬には
涙があった。

常子もしっかり歩いて行った。

******************
自然のお別れができて良かったですね。
こんな風に、あっさりと
あかるく
そして、愛情をこめて
別れられるって
よかったです・・・・。

でも、常子の涙は
決して誰にも見せない
ものなのですね。
明るくお別れは
常子の思いやりです。
本当は悲しいくせに。

それゆえ
星野家族は安心して

人生の次のステージへ
すんなりと移動できそうです。
あのとき常子は君子の胸の中で
声を殺して泣きましたが・・・

あれから15年たった常子は
誰もいないときにそっと
涙を流すようになりました。


転勤・・・・
もし
大樹のやけどの問題がなければ
星野は撤回したことでしょう。

もし、
ちとせ製作所の田中が
来なければ、
どうなっていたでしょうか。

常子には前向きに生きる選択しか
ないということでしょうか。


私は
「もしも」にかけましたけどね・・・
「もしも星野と再婚できたら」ですよ。
でもね・・・
だめでしたね・・・・
モチーフの大橋さんが
生涯独身ですから。
このような恋愛があったかどうか
は別にして、ドラマとしては
すてきな恋愛のモチーフでした。

常子も星野に告白できましたし。
星野家族とともに
すてきな時間をすごせたと
思います。

ああ・・・・・

常子の

しあわせとは??????

また、事情がかわって星野が
東京へ戻って来たら
いいのにね。
(あきらめられない私)