常子、商品試験を始める6
昭和31年2月。
各家庭の使いやすい台所とは
?という特集と歯ブラシの商品試験を
載せた36号は大好評でよく売れた。
売り切れが続出した。
常子は、取材に協力してくださった
各家庭に本をもってお礼に
いった。
その夜は節分の日だった。
常子は星野宅へもお礼にいった。
ドアを開けて出てきたのは
赤い鬼のお面をかぶった
星野だった。
豆まきの鬼の役をやって
いる。
常子は大樹、青葉と一緒に
豆まきをした。
逃げる、星野鬼を「鬼は~~
外~~」といいながら豆をぶつけ
た。
楽しかったが青葉が「お父さんが
かわいそうだから、
やめよう」といった。星野は
「大丈夫だよ」というが
常子は「そうね、じゃいっしょに
みんなで豆をひろいましょう」といった。
大樹と青葉は嬉しそうに豆を拾った。
「あの時買った洋服を見てほしい」と
青葉が言うので常子は
「楽しみだ」というと
電球が切れた。
停電ではなく、電球が切れたのだ。
星野は、「あぶないから動かないで。
この電球はまだ
買ったばかりであたらしい
のに」といって予備の電球を
探しに行った。
水田の家でも豆まきをしていた。
ここでも正平が鬼の役をして
いた。
たまきが「鬼は~~外」といいながら
鞠子と一緒に正平鬼に豆を
ぶつけていた。
正平はあわてた様子で
逃げ回ったり、「がお~」と
いって威嚇したりした。
それを見たたまきは
ふと、引き出しから
スケッチブックと鉛筆をだして
きた。
水田が何をしているのかと聞くと
「動かないで、」といった。
見事な父親の鬼の様子にたまきは
それを絵にしようとした。
しかし、力強く書こうとした
線はかすれて細い。たまきは
鉛筆の芯をなめてしめらせて
大きく書いた。
この時代、鉛筆の芯はかすれやすく
湿らすと濃くかけるそうだった。
花山の家では大きくなった茜が
仏頂面して机に向かっている父親
の背中に
「鬼は~~そと」、といって豆を
ぶつけていた。
しかし、反応がないので
やめて、母の手伝いをしに
茶の間にいった。
花山は夕餉の用意をしている
三枝子に呼ばれて
茶の間に入ると
今日はシチューと
食パンだった。
「茜はパンが好きか?」
茜は、「好きだ」といった。
「これほどまでにパン食が
根付くとは」といって花山は
座った。
ところが三枝子は食パンを七輪に
網をおいて焼いていた。
トーストの炭火焼きである。
「上手く焼けなくて」と言った。
みると、焦げ目がつきすぎている
所は真っ黒でついていないところは
真っ白だった。
花山は「トースターをかえばいいのに」と
いった。三枝子は「何を選んだら
いいのかわからなくて」という。
話によるとご近所のある方が
トースターをかったけど
上手く焼けないと言っていたという。
さて、翌日の会社では
編集会議で盛り上がって
いた。
次号の商品試験でとりあげるものは
なにがいいかをみんなで話し合って
いる。
たくさん黒板に書かれているが
電球、エンピツ、トースターも
きちんと入っている。
各商品でのエピソードを
社員たちは口々に、話している。
そこへ難しい顔をした
花山と水田がはいってきたので
みんな黙って彼らを注目した。
花山は「もう一度みんなときちんと
話し合いたい」といった。商品試験の
ことだった。
これを雑誌の目玉にして
続けていくには大変な
人件費と資金がいると
いう話だった。
石鹸や歯ブラシの時はそこまで調べて
いなかったが、
今、水田に資産をしてもらうと
安く見ても1300万円かかるという。
体重計を商品試験するとなると
どういう項目をあげて調べるかと
大塚寿美子に花山はきく。
大塚はどの体重計が正しく表示
されるかということです、と
いった。
それはそれで当然のことであるが
花山は「体重計は大概、風呂場の
脱衣所に置くだろう。すると
さびないという項目も大事だ」と
いう。
ものによって、さまざまな角度から
見ていくとすると
このように、時間もかかるから
次号にみんなが取り組むという
のでは間に合わない。次号を
作る段階ではもうできあがりつつ
ある状態でそのまた次号の商品試験
を始めている必要性があると
いうのだ。
そしていいもの、わるいものを
判断するには総合的に平均点で
判断するのか
それとも、商品の項目別で
判断するのかという問題も
あるという。
「タイマーつきのせんたく機なら
タイマーがしっかりしていても
よごれがあまり落ちないもの
タイマーが不正確だがよごれが
よく落ちるものがあったとして
綜合でいくと同じ点数だったら
どうなる??」と聞く。
雑誌を見て、読者がいいと判断してかったら
「なんだ・・これは?」
ということになるわけである。
信用問題になる。
つまり手抜きはもちろん
できないし、
中途半端になってはいけない
わけだ。
「これから電化製品も商品テスト
をするというが、電化製品は安くない。
たった一回の高い買い物のために
情報を乗せるのだ。試験の失敗は
許されない。それでもやるか?
常子さん??」
花山が常子に聞いた。
水田が続ける。
「今、15万部うれています。
バックナンバーも10万うれている
のでもし、ここで無茶をしなければ
安定した経営ができます。
本当に商品試験をしますか?」
常子は
「戦後、何もない時代に女性に
豊かな暮らしをできるお手伝いを
するための雑誌を作ろうと話し合い
ました。
今も物は豊かですが
お財布の中は決して豊かでは
ありません。
読者の女性は
ご主人が稼いでくれた
お金の中から160円をだして
本を買ってくれています。
つまりそれだけの値打ちがあるという
ことです。
今の時代、この企画は必要です。
というより、試験をやってみたいのです。
いばらの道かもしれません。
なんとかなるさでやってきました。
これからもなんとかなるさで
力を合わせてやりましょう!!!」
常子が呼びかけた。
美子が、「はい!!」と返事をした。
ほかのみんなも
「やりましょう!」
「そうだ、そうだ、商品試験を
やりましょう~~」
と盛り上がった。
ずっと難しい顔をしていた
花山は、満足そうに
ふっと笑った。
********************
商品試験はいばらの道です。
名だたる大企業をあいてに
戦うわけです。
それによって妨害もあるし
いたがらせもある。
製造者と消費者は
この時代、圧倒的に
消費者が弱い立場に
あったわけだった。
消費者をまもる法律も
今のように整備はされて
いなかった。
だから、不良品をかってしまった
ら・・・
この間のミシンの針が飛ぶような
事故がおこって
大けがをしたとしても
企業は少々の
賠償金をこっそりと消費者に
握らせて(今なら裁判ですが)
だまらすとか・・・やりますよね。
それほど、消費者の立場が
弱い時代に、常子が発案した
商品試験は
一雑誌社がやるというのは
考えられないほど、すごいこと
だったのです。
また、普段、情報を収集して
編集して売るというのが
出版社ですが
実験する設備をもって実験すると
なると、素人ではどうでしょうか?
しかし、この間のように外部の
機関に検査依頼をしてその内容に
クレームがつき、ちゃんとした
記事にならなければ
出版社ともいえませんし・・
しかし大企業ではない
「あなたの暮らし」出版は
大がかりな試験による
経営難に耐えられるでしょうか。
つらいところです。
昭和31年2月。
各家庭の使いやすい台所とは
?という特集と歯ブラシの商品試験を
載せた36号は大好評でよく売れた。
売り切れが続出した。
常子は、取材に協力してくださった
各家庭に本をもってお礼に
いった。
その夜は節分の日だった。
常子は星野宅へもお礼にいった。
ドアを開けて出てきたのは
赤い鬼のお面をかぶった
星野だった。
豆まきの鬼の役をやって
いる。
常子は大樹、青葉と一緒に
豆まきをした。
逃げる、星野鬼を「鬼は~~
外~~」といいながら豆をぶつけ
た。
楽しかったが青葉が「お父さんが
かわいそうだから、
やめよう」といった。星野は
「大丈夫だよ」というが
常子は「そうね、じゃいっしょに
みんなで豆をひろいましょう」といった。
大樹と青葉は嬉しそうに豆を拾った。
「あの時買った洋服を見てほしい」と
青葉が言うので常子は
「楽しみだ」というと
電球が切れた。
停電ではなく、電球が切れたのだ。
星野は、「あぶないから動かないで。
この電球はまだ
買ったばかりであたらしい
のに」といって予備の電球を
探しに行った。
水田の家でも豆まきをしていた。
ここでも正平が鬼の役をして
いた。
たまきが「鬼は~~外」といいながら
鞠子と一緒に正平鬼に豆を
ぶつけていた。
正平はあわてた様子で
逃げ回ったり、「がお~」と
いって威嚇したりした。
それを見たたまきは
ふと、引き出しから
スケッチブックと鉛筆をだして
きた。
水田が何をしているのかと聞くと
「動かないで、」といった。
見事な父親の鬼の様子にたまきは
それを絵にしようとした。
しかし、力強く書こうとした
線はかすれて細い。たまきは
鉛筆の芯をなめてしめらせて
大きく書いた。
この時代、鉛筆の芯はかすれやすく
湿らすと濃くかけるそうだった。
花山の家では大きくなった茜が
仏頂面して机に向かっている父親
の背中に
「鬼は~~そと」、といって豆を
ぶつけていた。
しかし、反応がないので
やめて、母の手伝いをしに
茶の間にいった。
花山は夕餉の用意をしている
三枝子に呼ばれて
茶の間に入ると
今日はシチューと
食パンだった。
「茜はパンが好きか?」
茜は、「好きだ」といった。
「これほどまでにパン食が
根付くとは」といって花山は
座った。
ところが三枝子は食パンを七輪に
網をおいて焼いていた。
トーストの炭火焼きである。
「上手く焼けなくて」と言った。
みると、焦げ目がつきすぎている
所は真っ黒でついていないところは
真っ白だった。
花山は「トースターをかえばいいのに」と
いった。三枝子は「何を選んだら
いいのかわからなくて」という。
話によるとご近所のある方が
トースターをかったけど
上手く焼けないと言っていたという。
さて、翌日の会社では
編集会議で盛り上がって
いた。
次号の商品試験でとりあげるものは
なにがいいかをみんなで話し合って
いる。
たくさん黒板に書かれているが
電球、エンピツ、トースターも
きちんと入っている。
各商品でのエピソードを
社員たちは口々に、話している。
そこへ難しい顔をした
花山と水田がはいってきたので
みんな黙って彼らを注目した。
花山は「もう一度みんなときちんと
話し合いたい」といった。商品試験の
ことだった。
これを雑誌の目玉にして
続けていくには大変な
人件費と資金がいると
いう話だった。
石鹸や歯ブラシの時はそこまで調べて
いなかったが、
今、水田に資産をしてもらうと
安く見ても1300万円かかるという。
体重計を商品試験するとなると
どういう項目をあげて調べるかと
大塚寿美子に花山はきく。
大塚はどの体重計が正しく表示
されるかということです、と
いった。
それはそれで当然のことであるが
花山は「体重計は大概、風呂場の
脱衣所に置くだろう。すると
さびないという項目も大事だ」と
いう。
ものによって、さまざまな角度から
見ていくとすると
このように、時間もかかるから
次号にみんなが取り組むという
のでは間に合わない。次号を
作る段階ではもうできあがりつつ
ある状態でそのまた次号の商品試験
を始めている必要性があると
いうのだ。
そしていいもの、わるいものを
判断するには総合的に平均点で
判断するのか
それとも、商品の項目別で
判断するのかという問題も
あるという。
「タイマーつきのせんたく機なら
タイマーがしっかりしていても
よごれがあまり落ちないもの
タイマーが不正確だがよごれが
よく落ちるものがあったとして
綜合でいくと同じ点数だったら
どうなる??」と聞く。
雑誌を見て、読者がいいと判断してかったら
「なんだ・・これは?」
ということになるわけである。
信用問題になる。
つまり手抜きはもちろん
できないし、
中途半端になってはいけない
わけだ。
「これから電化製品も商品テスト
をするというが、電化製品は安くない。
たった一回の高い買い物のために
情報を乗せるのだ。試験の失敗は
許されない。それでもやるか?
常子さん??」
花山が常子に聞いた。
水田が続ける。
「今、15万部うれています。
バックナンバーも10万うれている
のでもし、ここで無茶をしなければ
安定した経営ができます。
本当に商品試験をしますか?」
常子は
「戦後、何もない時代に女性に
豊かな暮らしをできるお手伝いを
するための雑誌を作ろうと話し合い
ました。
今も物は豊かですが
お財布の中は決して豊かでは
ありません。
読者の女性は
ご主人が稼いでくれた
お金の中から160円をだして
本を買ってくれています。
つまりそれだけの値打ちがあるという
ことです。
今の時代、この企画は必要です。
というより、試験をやってみたいのです。
いばらの道かもしれません。
なんとかなるさでやってきました。
これからもなんとかなるさで
力を合わせてやりましょう!!!」
常子が呼びかけた。
美子が、「はい!!」と返事をした。
ほかのみんなも
「やりましょう!」
「そうだ、そうだ、商品試験を
やりましょう~~」
と盛り上がった。
ずっと難しい顔をしていた
花山は、満足そうに
ふっと笑った。
********************
商品試験はいばらの道です。
名だたる大企業をあいてに
戦うわけです。
それによって妨害もあるし
いたがらせもある。
製造者と消費者は
この時代、圧倒的に
消費者が弱い立場に
あったわけだった。
消費者をまもる法律も
今のように整備はされて
いなかった。
だから、不良品をかってしまった
ら・・・
この間のミシンの針が飛ぶような
事故がおこって
大けがをしたとしても
企業は少々の
賠償金をこっそりと消費者に
握らせて(今なら裁判ですが)
だまらすとか・・・やりますよね。
それほど、消費者の立場が
弱い時代に、常子が発案した
商品試験は
一雑誌社がやるというのは
考えられないほど、すごいこと
だったのです。
また、普段、情報を収集して
編集して売るというのが
出版社ですが
実験する設備をもって実験すると
なると、素人ではどうでしょうか?
しかし、この間のように外部の
機関に検査依頼をしてその内容に
クレームがつき、ちゃんとした
記事にならなければ
出版社ともいえませんし・・
しかし大企業ではない
「あなたの暮らし」出版は
大がかりな試験による
経営難に耐えられるでしょうか。
つらいところです。
