常子、出版社を起こす2
綾が訪ねてきた。
久しぶりの訪問に小橋家は
歓迎した。
が、なにか物悲しい様子だった。
連れていたのは二歳になる太一
だった。
結婚して名古屋に行ったが
夫は軍医で満州へ行った。
しばらく日本に帰ってきた
こともあったが
また大陸へ行きそこで病気に
なり亡くなった。
実家に帰ると
空襲で家は焼けてしまっていた。
父親もその空襲のさなかに
なくなった。
母親とともに
蒲田に住んでいるという。
生活は、着物や帯どめなどを
売って食べている。
綾は女性が仕事をするという
道より結婚を選んだ。
多くの女学生がそうであった。
それで仕事と言っても何ができる
のかという苦労をしている。
年老いた母と幼子を抱えて
の不安な生活だった。
綾はもしよかったら
と古い浴衣があったらほしいと
いう。太一のおむつが足りない
らしい。
君子は快く差し出した。
帰る途中、綾は常子にあえて久しぶりに
笑ったといった。
学生時代の友達はありがたい
という。
常子は今度お母様にご挨拶を
させてほしいというが
綾は常子も忙しいだろうからと
断った。
常子は綾に手紙のやり取りをしましょう
といった。
綾の様な金持ちでも苦労している。戦争
で女性に産めよ増やせよといったのは
なんだったのか・・・結局
不幸なのは女性ではないかと
常子は思った。
美子も女は損だという。
鞠子だって大学を出ても
仕事がないのだ。
それ以上に小説も書けない
のでこんな理不尽なことはない
という。
常子は君子にいつまでも苦労させて
ごめんねといった。
君子は笑った。
鉄郎はそれを聞いてあした
闇市へ行くからついて来いと
常子に言った。
闇市では見せたかったのは
たくましく働く女性の姿だった。
夫が亡くなり
または、働けなくなり
自分が頑張らなくては生きていけれない
という女性たちが
なりふり構わず明るく働いていく。
威勢よく、物を売っている。
時代は変わったんだ。
女が損だなんていう時代ではない
今ならお前でも大金をつかめるぞと
いった。
常子は考え込んだ。
仕事中でも鉄郎の話が
気になった。
常子は闇市を歩きながら
考えた。
このまま、甲東出版で働くか
それとも・・・
そんな常子に鉄郎が声をかけた。
腕には反物がふたつあった。
常子はそれが欲しいという。
綾に上げたい、太一君のおむつに
苦労しているみたいだからだ。
綾には学生時代、試験で不正をした
と濡れ衣を着せられた時
助けてもらった。
あのとき、再試験をしましょうと
綾は提案してくれた。
それで、助かったのだった。
恩返しがしたいと常子は言う。
それを聞いて鉄郎は
半分くれた。
ある日常子は
綾のもとを訪ねた。
みずぼらしい長屋の
先に綾たちの住んでいるという
借家があった。
あの時の大きな御屋敷では
ない。
仲から女性の罵声が聞こえて
きた。
その女性は
綾に向かって怒鳴って謝る
綾に物を投げつけた。
常子は驚いた。
立ち上がった綾はふと
外にいる常子に気が付いた。
******************
綾はお嬢様で
苦労もなく生きてきて・・・
そしていま、大変な時代に大変な
苦労をしている。
常子は学生時代、家族を養うという
目標があったためお嫁にいくこと
なく・・・星野武蔵の求婚を
断って・・・家族のために働くことを
決意した。
タイピストとして
いろいろあったなか
職場での女性差別にもあったし
何の評価もしてもらえない仕事に
うちこみ、同僚に裏切られて
くびになった。
それがあったために甲東出版に
入るきっかけとなったのは
結果から見ればよかったことだった。
だが大きな問題として
家族を養うということだ。
女性の給料では養えるのだろうか?
答えはできないということだ。
この時代は女性の賃金は安い。
どんなに働いても
安いのだ。
悲しいけどね。
綾が訪ねてきた。
久しぶりの訪問に小橋家は
歓迎した。
が、なにか物悲しい様子だった。
連れていたのは二歳になる太一
だった。
結婚して名古屋に行ったが
夫は軍医で満州へ行った。
しばらく日本に帰ってきた
こともあったが
また大陸へ行きそこで病気に
なり亡くなった。
実家に帰ると
空襲で家は焼けてしまっていた。
父親もその空襲のさなかに
なくなった。
母親とともに
蒲田に住んでいるという。
生活は、着物や帯どめなどを
売って食べている。
綾は女性が仕事をするという
道より結婚を選んだ。
多くの女学生がそうであった。
それで仕事と言っても何ができる
のかという苦労をしている。
年老いた母と幼子を抱えて
の不安な生活だった。
綾はもしよかったら
と古い浴衣があったらほしいと
いう。太一のおむつが足りない
らしい。
君子は快く差し出した。
帰る途中、綾は常子にあえて久しぶりに
笑ったといった。
学生時代の友達はありがたい
という。
常子は今度お母様にご挨拶を
させてほしいというが
綾は常子も忙しいだろうからと
断った。
常子は綾に手紙のやり取りをしましょう
といった。
綾の様な金持ちでも苦労している。戦争
で女性に産めよ増やせよといったのは
なんだったのか・・・結局
不幸なのは女性ではないかと
常子は思った。
美子も女は損だという。
鞠子だって大学を出ても
仕事がないのだ。
それ以上に小説も書けない
のでこんな理不尽なことはない
という。
常子は君子にいつまでも苦労させて
ごめんねといった。
君子は笑った。
鉄郎はそれを聞いてあした
闇市へ行くからついて来いと
常子に言った。
闇市では見せたかったのは
たくましく働く女性の姿だった。
夫が亡くなり
または、働けなくなり
自分が頑張らなくては生きていけれない
という女性たちが
なりふり構わず明るく働いていく。
威勢よく、物を売っている。
時代は変わったんだ。
女が損だなんていう時代ではない
今ならお前でも大金をつかめるぞと
いった。
常子は考え込んだ。
仕事中でも鉄郎の話が
気になった。
常子は闇市を歩きながら
考えた。
このまま、甲東出版で働くか
それとも・・・
そんな常子に鉄郎が声をかけた。
腕には反物がふたつあった。
常子はそれが欲しいという。
綾に上げたい、太一君のおむつに
苦労しているみたいだからだ。
綾には学生時代、試験で不正をした
と濡れ衣を着せられた時
助けてもらった。
あのとき、再試験をしましょうと
綾は提案してくれた。
それで、助かったのだった。
恩返しがしたいと常子は言う。
それを聞いて鉄郎は
半分くれた。
ある日常子は
綾のもとを訪ねた。
みずぼらしい長屋の
先に綾たちの住んでいるという
借家があった。
あの時の大きな御屋敷では
ない。
仲から女性の罵声が聞こえて
きた。
その女性は
綾に向かって怒鳴って謝る
綾に物を投げつけた。
常子は驚いた。
立ち上がった綾はふと
外にいる常子に気が付いた。
******************
綾はお嬢様で
苦労もなく生きてきて・・・
そしていま、大変な時代に大変な
苦労をしている。
常子は学生時代、家族を養うという
目標があったためお嫁にいくこと
なく・・・星野武蔵の求婚を
断って・・・家族のために働くことを
決意した。
タイピストとして
いろいろあったなか
職場での女性差別にもあったし
何の評価もしてもらえない仕事に
うちこみ、同僚に裏切られて
くびになった。
それがあったために甲東出版に
入るきっかけとなったのは
結果から見ればよかったことだった。
だが大きな問題として
家族を養うということだ。
女性の給料では養えるのだろうか?
答えはできないということだ。
この時代は女性の賃金は安い。
どんなに働いても
安いのだ。
悲しいけどね。
