常子、防空演習にいそしむ4
常子の貸本屋は好評だった。
おもしろかったよと、お客は
いう。
その日は姉妹のお誕生会の日だった。
それで早くに店を閉めて家に帰った。

すると、組長がお国のために金属
類を差し出すようにという。
それほど、日本は困窮していたのだ。
勝てるはずはない。
常子たちは大事ななべや
お釜を出した。
まだないかと組長が家を見て回る。
常子は何やら不安を感じた。
組長はミシンをみてこれが必需品か
と怒った。
また壁にかけていた家訓を見て
月に一度はお出かけとあったのをみて
このご時世にけしからんと怒った。
そして家訓の額を外して投げつけた。

組長が去って行ったが
嫌な空気となった。
お誕生会はやめようかという
意見も出た。
君子は苦心して手に入れたあずきを
みせて、明日にしましょうと笑顔で
いった。みんな喜んだ。
その日は小豆をことことと煮ることに
した。
おはぎを作るためだった。
常子が鍋を火にかけて
煮ていると空襲警報が鳴った。
あわてて人を消して
防空壕に逃げ込んだ。
いきなりの空襲に
不安な一夜を明かした。
いつもよりも、空襲が
長くておかしいと思っていた。

家に帰ると、きのうのあずきが
真っ黒になっていた。
火を消したつもりが
種火が残っていて
水がなくなり、こげついて
しまったのだ。
常子たちはがっかりした。
後悔したがどうしようもない。
君子に謝るしかなかった。

君子は空襲だったからと
いって、仕方ないという
顔をした。
美子は泣いた。
あまりのつらさに泣いた。
君子はもう泣くのはやめましょうと
いった。
生きていることに感謝しましょうと
いった。
この空襲はあの東京大空襲だった。
そしてそのため
配給が止まった。
下町はほとんど焼け野原だったという。
常子たちはあのまま森田や青柳が
深川にいたなら、とんでもないことに
なっていたと、胸をなでおろした。

たくさんの人が
下町から逃げてきた。
その中にあのお竜がいた。
驚く常子だった。
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そうそう
金物をあつめて武器にすると
いうのですね。
家庭のものを集めなければ
ならない物資不足では
勝てるわけがありません。
日本は資源のない国なので
戦争で貿易がなくなると
とたんに
物資不足になります。
そして、ものは軍に集められ
ます。
まず軍が優先して物やお金を
うけとります。
でも、実際前線では兵隊が劣悪な
環境で戦っていたこともあったの
ですね。
南方ではマラリヤや疫痢などに
なやまされ、敵に襲撃され
北方では、おなじく伝染病に
かかったり、なれない気候に
健康を害する人も出て、大変な
状況だったわけです。
これで勝てるわけがないのです。
勝てるわけがないのになぜ・・・
戦争を始めたのか
訳が分かりません。