常子、失業する5
長谷川と富江の祝言が
はじまった。
「富江ちゃん、きれい」
「おれも幸せだな~~」
森田屋の深川最後の大仕事となった。
照代は台所へ入って
料理を始めた。
常子は照代に「代わります」というが、長年
家で働いてきた照代は動いていないと
落ち着かないという。
常子は「私もです」といった。
常子は職業婦人ではあるが家にいるとき
は何かしていないと落ち着かない。
それは多くの女性の傾向なのかもしれないと
思うが。
座敷のほうでは盛り上がっていた。
まつは滝子におしゃくした。
「あんたはしあわせもんだね。あんな
いい孫がいて。」
「あんたにもひ孫ができるんだよ」。と
滝子は返した。
ふたりは、せいぜい長生きしましょうと
いった。
「長谷川、何かしろ」と宗吉が
いった。
長谷川は「僭越ですが」といいながら
話を始めた。
「長い人生の中、嵐のときも
風のときも柳のようにしなやかに
いきていけば
やがて晴れ渡る日がくる。そんな気持ちで
がんばります」といった。
「いい話じゃないか」と
やんやと喝采を浴びた。
常子はその話をじっと聞いた。
「富江ちゃん、いよいよお母さんだね。
不安とかない?」と聞くと
「母を見ていたら私にもできるかなと
思うの。
朝はだれよりも早く起きて
仕事の準備をして朝餉の用意を
して、夜はだれよりも遅くまで
片付け物をして準備をして、
育児をして。あんなことできるかなと
思うけど、やってみたいと思う」と
いった。
長谷川さんは幸せ者だと
常子たちは話をした。
なぜ長谷川さんを選んだのかと
きくと、あの鞠子の制服事件が
きっかけという。
あのとき、鞠子の制服を着た
富江をみて長谷川は
鞠子よりもよく似合うと
いったという。
そこまで見ていてくれていた
のかと富江は驚いた。
気にし始めたのは
そこからだったといった。
鞠子は、なんだか複雑な気分
だったが、笑った。

雲一つない秋晴れの日。
森田屋の引っ越しの日が来た。
荷物を運び出すと
なにもない家となった。
台所にまつはぽつんと
座っていた。

「何もなくなってしまったね。
本当にここにいたのかね。
ここでずっと弁当を作りたかったね。
毎日、毎日が当たり前の生活を
したかった・・・・」
そういってまつは泣いた。
そして「やだね、がらにもなく・・」
といった。
宗吉がまつのそばに座った。
「母ちゃん、すまない。」
まつは
「うん、うん」、とうなづいた。
宗吉がさっていく。
常子はまつに「時々ここを見に
きます。
大家さんにいって、そうじします。
皆さんがもどって
くるまで」といった。
まつは、「ありがとうといった。
でもこんど、東京に帰って来る
ときはもっといいうちに
暮らすから」といった。

「さぁ、いくか!!」

まつは笑顔になり
決心したかのように
掛け声をあげた。

おもての森田の表札を
降ろして大事そうに荷物の中
にしまった。
滝子がきた。
「あら、わざわざお見送り?
おひまですこと」
とまつがいった。
「いーえ、とおりがかりに寄っただけです。
それよりおけがはいかがですか?
額の所の深い傷です。

あ・・・しわかぁ・・・」

という。

まつは
「ゆきが降って大変でしたね。
頭に積もって・・・
まっしろ。

あ、
白髪かぁ・・・・」

二人は笑った。

君子は「おせわになりました」と
いって挨拶をした。
常子は富江のおなかに向かって
「元氣で生まれてくるんだよ」といった。

まつは
「いつか、自分の生活を取り戻す。
あんたも元気でね。
ととねえちゃん!!!」

といった。

常子は笑顔で

「はいっ!!!」

と元気に返事をした。

森田家はこうして
にぎやかに去って行った。
その元気と明るさに
常子は再出発を
きめた。
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秋野ようこさんのまつですが
なかなか、メークといい
雰囲気といい
おばあさんがよく表れていました。
が・・・
その役柄からみれば
かなり若いのか。このお別れのシーン
ととねえちゃん!と
常子を呼んだあの場面は
すっと身長が伸びていて
老婆はメークだけって
感じでした。
でも、大地真央さんとともに
いいおばあさん役だなと思います。
最後まで毒舌合戦が
よかったです。
ここでも、
「当たり前の暮らし」という
言葉がまつからでて
きました。
常子の周りに変化があるたびに
でてくるこのセリフが
常子の人生の目標と
なってあの伝説の雑誌が
作られたのだなと
思います。