柔らかい心6
新次郎の49日が行われた。

はつが来てくれた。

「お互い寂し身になって
しもうて
あさはこれからどないします
のや?」

あの山は節の弟がもどって
きたので

半分を面倒見て
もらうことになったと
いった。

あさは
女子教育の運動を進めて
いきたいという。

「旦那様がいうてたとおり
動いてないと
倒れる」と
笑った。

あさは
はつとおそろいの
お守りを出して
「自分たちは
あの日両親に言われたとおり
お家を守れたんでしょうか」と
聞く。

「守れたと思います。

目の前の道を進んできた
だけだけど
それでも大事なものをいつくしんで
守ってこれたと
思う」という。

あさは「おねえちゃんはすごい」といった。
「石や岩だらけだったはすだ」という。

「あんたかてそうやった」と
はつもいう。

はつは
あさのそばにいって
話した。

「ようやったな
よう頑張りました・・・」

「お姉ちゃんもな・・・」

ふたりは
手を取り合った。
あさは
「まだまだ

生きていかなあきまへんな」
という。

「へぇ、まだまだだす・・・」

とはつ。


はつは和歌山に帰った。

「お帰り

おかえり

お母ちゃん!!」

山の上から
養の助がさけぶ。

孫の達夫も来ていた。

「みかんの花が咲くまでもう少しやな。
また忙し成るな」と
はつ

「その忙し成る収穫の時に
もう一人生まれるみたいやわ」



養の助

はつはうれしかった。
空に向かって言う。

「旦那様

聞いてましたか

ほんまにこの
山王寺屋は
まだまだ

これから
だすな・・・」


加野屋に宣がやってきた。

千代は久しぶりの再会を
喜んだ。

「たつこちゃんも
えつこちゃんも
さつこちゃんも・・・

すっかり大きくなって・・

あらぁ~~~~

四人目???」

「いまな
芦屋で暮らしてますのや」
と千代は久しぶりに
加野屋に来たことを
いった。


宣はあさの部屋に行った。
あさは読書をしていた。

「相変わらず熱心ですね」と
声をかける。

あさはこれから毎年春に
別荘で
やるきのあるおなごはんを
集めて
勉強会を開くと
いう。
宣には、よかったら
みんなに話をした。
アメリカで学んだこととか
といった。

千代は「元気やな。
まだ、やるのですかと
おとうちゃんもいうてます」と
いう。

あさは、「この世でまだやることが
あるから生かされている」と
いった。

春になり

あさの勉強会が開かれた。
ある人は西洋料理について話をする。
宣は諸外国の女性について話をする。

そのころ
加野屋のリビングでは千代の娘たちが
宣から英語のレッスンを受けている。
そこへ、亀助と、娘のなつがきた。
なつも東京の学校で学ぶとうめに
いった。

あさは学生たちの前で
話をした。

「皆さん知ってのとおり
うちは江戸の世の
嘉永うまれのおばあちゃんだす

うちらの若いころはな
電話はもちろん
郵便もあらしまへん
馬車や鉄道もありまへん

誰からに何かを伝えようと
したら
旅の格好をして歩いて行かないと
だめだした。」
「近頃は
そんなことは想像できませんね」と
成沢が言う。

「それがホンマに便利になって
うちは昔のほうがよかったなんて
思わないけど

なんでだす?

国が育ったら

もっともっと
みんな幸せになると
思っていたけど

こんな生きづらい世の中に
なりました

戦争は
人を傷つけて

新聞は

人の心を傷づけて
悪口を書く。

人が幸せになるには
人の気持ちを
思いやる
優秀な頭脳と
柔らかい心が
あれば

充分出す。

そうなると
男はん以上に
おなごのほうが
よくできています。

うちの旦那様のほうが
うちより
柔らかい心を
もっていましたけどな・・・」

千代は
うなずく。

「若い皆さんは
これからどないな職業に
ついても
家庭に入ってもこのふたつが
あれば

大いに人の役に立ちます
日本どころか
世界の役に立つことが
ぎょうさんあります。
どうか
しょげてなんかいんと
よう学んで
頑張ってくださいね。」

成沢は
「ありがとうございました」
という。
「次は少し休んで
田村君の話にしよう」といった。

宣は
「はい」

と答えた。

あさは
笑った。

そして
杖をもってたちあがった。

ふと見ると
そのさきには

新次郎がいた。


千代は

「おかあちゃん」
と呼びかけた。

あさは

杖を突いて
よたよたしながら
歩き始めた

新次郎がいた。


そのよたよたが
杖を離した。

そして
しっかり歩いた。

そして
走った。

新次郎が待っている。

なの花が咲いている。
そのそばに
新次郎がいる。

あさは走った。
新次郎のそばに
到着した


あさは丸まげの着物の
女性になって
いた。

新次郎はあさを抱き上げて
二回三回と
振り回した。

「あはははは・・」
「ははははは・・」

「ご苦労さん
きょうも
ようがんばってはりますな」

「へえ
だんなさま」


新次郎は

あさの頬を両手で
つつんだ。

あさは
うれしくて、うれしくて

新次郎を
みあげた・・・。

**************
終わりました。

なんと幸せなラストシーンでしょう。

あれはなに?
新次郎の幽霊?
本当は生きていたの?」

あれは・・映像のフィクションの
世界です・・・
あさが
自分の話を終わって
倒れたのかもしれません。

あの世の世界の時間になり
時が戻り
若くなって
あさは
杖なしで
新次郎のもとに
着物を着ていた
お嫁に来たときに
戻って
新次郎のもとに
いったのかもしれません、

それは見る側の自由だと
のことです。

わたしは、あさは幸せな
夢を見たと
思いました。

今日もよう頑張りましたな。

そう
新次郎にいってもらえたと
あさは
満足したことでしょう。


あさは、新次郎と同じ世界へ
いったという見方もあります。

でも

しあわせな

ラストシーンでした。