誇り高き人生6

あさは新次郎の体調に不安を
感じていた。

けさもあまり食べていない。
思い切ってどこか悪いのでは?と
聞いた。
新次郎は三味線を手入れしながら
「せやな
尼崎行くの辞めようかな」
といって
亀助に断る連絡を入れるように
いながら
部屋から出ていった。

あさの不安は大きくなって
いく。
明治36年・・
加野銀行の預金高は
どんどん増えて行った。
淀川保険も契約が
増えて行った。
それを機に
品目を増やしていった。

ある日、あさは新聞に女学生の
素行が悪いという記事が載って
いたので不満を募らせて
新次郎にどう思うかと聞く。

『とかく女性学生の素行
の悪さはうめに鶯のごとき
もので・・・』

「まるで町で学ぶおなごのことを
堕落の温床のようにかいて
ありますのや。
みんなあんなに頑張っているのに。
くやしい」といった。

新次郎は、「そうかそうか」と
いってあさをなぐさめた。
日の出の学生は今日は
万国博覧会にいっている。
色電球がきれいだからと
いう。
(ネオンサインのことか??)

茶臼山がどうやら会場らしいが
会場になる前はたぬきや
キツネなどがでるさみしい
山だったと新次郎が言う。

あさは江戸の時代は
町は暗かったといった。
夜歩くときは
旦那様が提灯で
足元をと照らして
くれた・・・
とあさは思い出を語った。

「は~~
なつかしいな・・・」
二人は笑った。

和歌山では養の助に
この先どうするかと藍の助が
きく。
「僕が長男だからこっちに帰って
ミカン農家をつぐ」というと
「大丈夫や」とはつがいう。
「山かて半分売ってもいい」と
いった。
「一家で笑って暮らせたら
それでいい」と
いった。

そして藍の助に
「りっぱなお商売人に
なりなさい」という。
養の助も「それがいい」といった。

藍の助にはやりたいことをやらせ
たいとはつは
「なぁ、旦那様」と位牌に語りかけた。

加野屋では
リビングには千代とうめと新次郎がいる。

千代が子供のためにも緑の森に
かこまれたところで暮らしてみたい
と話をしていた。
千代のおなかは大きくなっている。
新次郎は、「それなら芦屋あたりが
いいのでは」という。
「あの西洋のお方やったら
外国と日本のいいところをとった
家を作ってくれるかもしれない」と
いう。
この間のもったいないといった
ボーリンガーだった。

「ええな~~」と千代がいいながら
「ええけど、
痛い」といいはじめた。
うめは
びっくりした。

日の出女子大学校では
あさが成沢に要望されて
話をすることになった。
あの新聞記事の話を
取り上げた。

「東京で学ぶ女性学生が
このように書かれることは
わたくしは心外で
なりません」といった。

宣はうんうんとうなずく。
「この大学校にこの記事にあるような
女子学生が
いるとは思わないけど
もっと自分の行動に責任を持ってほしい」と
あさはいう。

「女子大学校と言ってもいくら理想を
かかげても
実が上がらないとか
女子高等教育など意味がないなど
と思われたら
決してあかんのです。

成沢先生たちは身を犠牲にして
働いてくれはりました。」

ある女子学生が

「ながいな・・・・・」

とつぶやいた。
宣は気が付いた。


「私が望むことは誠実に日々をすごし
勉学にいそしむことです。

あなた方の行いひとつで
たちまち世間の心証を落とすこと
をわすれないように。」

「は、
いけすかない
傲慢おばさんですこと・・・」
この学生の名前は
平塚明(ひらつか はる)
後の平塚らいてうだった。

少し長すぎたとあさは成沢に言った。
亀助が「あんなにずばずばいうと
若い子に嫌われるのでは」というと
あさは「嫌われようとも好かれようとも
この大学校を認めて
欲しいだけだ」といった。

そのとき
あさに千代がお産と連絡が入った。
あさは、びっくりして
大阪に帰って行った。

帰ってみても
まだ生まれていなかったが

新次郎、啓介が心配する中
あさも緊張して
待っていた。

そのとき
赤ん坊の声が聞こえた。

「よかった」
「おめでとうさん」
「ありがとうございます。」

元気な女の子が生まれた。
あさは啓介に抱いてもらった。

あさは「千代、ようがんばりましたな」
という。

「おかあちゃん、これはほんまに
えらいことだす。
よう、うちをうんでくれはり
ましたな。」

「ようやくわかりましたか。
でもホンマにえらいのはこれから
だす。」

そういって笑った。

啓介から新次郎に赤ん坊が
わたり
「ありがたいな」と
新次郎がいう。
外には雨が降っていた。
新次郎のうれしい雨だった。

加野屋の事務所で
三つ割り制度を導入するという給料
の考えをあさがいうと
栄三郎は孫が生まれたと
いうのによく働きますなと
呆れて言った。

啓介も、そこにいて仕事を
している。
新次郎が孫を見ているらしい。
名前も考え中という。

平十郎がつくった保険に入る前に
健康診断のレジュメを渡された。
病気の初期症状である。

そこに、食欲不振と
いう文字があった。

あさはふと新次郎を
思った。
今朝のこと
朝ごはんもあまり食べていなかった

あのときは

お茶の香りがなんだか違うと
いっていた。

名前を書いて考えている新次郎に
あさは
話しかけた。

「旦那様?
うちと一緒に
病院へ行ってください。
どうか

お願いします・・・」

あさは
あたまをさげた。

「うん、わかった。

ほんなら

いこな??」

千代は
廊下からじっとみていた。

***************
近しい人がなくなって行く。
それがさみしいと新次郎が言った。

もし自分がなくなったら
どれほどあさが
悲しむだろうかと
思っているだろうが
これだけは
どうしようもない。
寿命は
変えられない。

それは

あさにとっても
身近な人が
つぎつぎと
亡くなって行くのだから
悲しいはずである。
はつの
いった
悲しいな
寂しいな
という
ことばが

思い返される。
大事な人を失くすという
ことは
悲しいことでありさみしいことで
あるのだ。

私も
もし・・・
旦那様が・・・と
思うと
悲しいし
寂しい。

物事は順番というが

それでも

いやなものは

いやである。