誇り高き人生4
季節が変わり
いよいよ千代と啓介の結婚の日が
近づいてきた。
あさは千代に
花嫁衣裳の見本を
座敷に並べた。

白いドレスもあった。
千代は嬉しかった。
あさはよのから花嫁衣装を
一緒に選んでやって
ほしいと言われたことを
千代に明かした。
千代はうれしそうに
ドレスを見ていた。

そのころ、和歌山では
惣兵衛が働きに行く
途中咳き込んでいた。

具合が悪いらしい。
はつは心配した。

大阪では
やがて
結婚式が
厳かにとりおこなわれた。

啓介は
正式に加野屋の婿養子と
して迎えられた。

美和の店でパーティの席上
千代は
あのウエディングドレスをきて
きれいだった。

銀行家の卵の
啓介の評判もよく
栄三郎や新次郎は頼もしく思った。

成沢は
啓介をつかまえて伺いたいことが
あるという。
「興味本位の質問なので
答えたくなければ
答えなくていい」と
いった。

その質問とは
「きみは千代さんの
どんなところが好ましく
思っているのですか?」
ということだった。

啓介は

びっくりした。

「容姿か?
顔面か?
それとも人柄か??」

「それはその
全部です

一番電撃を受けたのは
上方言葉です・・」

成沢がびっくりする番だった。

「堪忍だすとか
嫌や~~とか
もう二度とお会いできへんと
おもてましたさかい・・・

なんていわれたら

東京育ちの僕なんか
それだけで

びりびりっと・・・」

そういうと

成沢は

「アハハハハハ
それは興味深い・・
なるほど!」と
笑った。

あさは遠くでその様子を
みて
「何の話をしてはり
ますのやろな」という。

新次郎は
「ほんまだすな」といって
ビールを飲もうとした
グラスの手を
とめ
テーブルに戻した。

亀助は「今日はあまり飲まない
のですね」というので
「花嫁の父は胸がいっぱいで
飲めない。
亀助もじきにわかりますから」と
いうので
亀助は
「わかりたくないな~~」といって
笑った。

啓介と千代は加野屋の近くに
家を借りて住むことになった。

あさは「無駄遣いしていないか
見に行きますから」というと
新次郎は「どこまで無粋なんや。
新婚やで。」とあさにいい
「大丈夫、ちゃんと見はっとります
さかい」と千代たちに言った。

千代は「よろしく」というと
啓介は
「ではまた明日
銀行で」と言った。

千代は
父と母に
「おとうちゃん、おかあちゃん
お世話になりました」と
挨拶をした。

「うん・・・」
新次郎は小さく答えた。

ふたりは
仲良く歩いて行った。

その後ろ姿を見送りながら
あさは
さみしいと
思った。


その夜、部屋で着物をたたんで
いるあさはふと
このところ感じていた違和感の
正体を見たような気がした。

「ああ、わかった。
なんかしっくりこないと
思っていたけど
このごろ
お茶を飲む顔があまり
ぴんと来ないので
おかしいと思っていた」と
あさがいった。


いつもはお茶を飲む顔が
満足そうでうれしそうなのだ
が・・・。

「さすが、わての特別なおなごはんや」と
新次郎は言う。

しかしお茶の葉が変わったわけ
ではない。
「なぜ」とあさは疑問に思った。
そして「暇ができたら
一度病院へいったらどうですか」と
いいかけた。
新次郎はそれを遮るかのように
「自分のことより
あんたのことも大事だ」という。

「これまでよく働いてきたが
そろそろゆっくりして
隠居も考えたほうがいい」
というのだ。
「日本一の嫁さんだから
日本一の富士山が見えるところ

別荘でもかって
二人でのんびり過ごすという
のはどうですかな?」

という。

しかしあさはまだ心配事が
あるという。
経済は不安定で
栄三郎も平十郎も
苦労をするだろう。
啓介もどこまで育つか
見守りたいといった。

「そういうと思っていた」と
新次郎はいう。
あさは「いつかそんな別荘
を立てましょうね」と
いって
二人は笑った。

和歌山では
惣兵衛が具合が悪い。
寝込んでしまった。

咳ばかりする。

はつはみかんを絞って
のませた。

「うまいな。
おおきにな・・・」

といった。

年が明けて
千代と啓介がやってきた。

なんと

千代は

みかんをおいしそうに食べる。

あさは「病院は?」
というと

うめが

「おめでたでございます」
といった。

喜ぶあさ、新次郎。

あさと新次郎は

「おめでとう」といった。
新次郎は
「いよいよおじいちゃんだすな」
といって、笑った。

お店には
冬休みや春休みになると
女子大学校の学生が
あさを訪ねてきた。

あさは、そんな学生たちを
歓迎して
そろばんを教え
実技を抗議した。

針仕事や
台所仕事を
まかせたり
した。
そしてあさの哲学も
講義した。
女子も自分の意見をもって
生きることを訴えた。

そんなある日のこと
惣兵衛が倒れたと
連絡があった。

それは突然の知らせだった。
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妻のほうが若いので
主人は先に
倒れます。
それは年のせいもあり
長年無理してきた結果でも
あります。

確実に言えることは
ひとがひとりひとりと
いなくなることです。
わかい年代が
中心となって
あさやはつは
よのや菊のように
大奥様と呼ばれる
ようになります。
それは時の流れで
仕方のないことです。

それが
まず

惣兵衛にでました。

長年、無理して頑張ってきた
体が
悲鳴を上げ始めたわけです。

はつは・・・
一人になりました。
いくら養の助がいるとはいえ
自分の旦那様がなくなることは
耐え難い苦痛では
ないでしょうか。

だれしもが
とおる
道ではあります。

あさも、新次郎の様子が
おかしいのに
気が付いていました。
新次郎にも何かあるのでしょうか。