自慢の娘4
菊の葬式の日
おちこむ藍の助に養の助が
話しかけた。
「おばあちゃんの最後は
みじめなものではなかった。」
と。

寝たきりで床ずれになりそうなのを
みんなで介護したという。
節も手伝ってくれたという。
養の助の許嫁である。
二十歳になったら籍にいれると
いった。
いつの間にそんなに大人になったの
かと驚く。
毎日が菊にとって家族に支えられて
楽しく暮らすことができた。
笑うと腰に来るからと言いながらも
よく笑っていたとはつがいう。
3日前にはみんなで
菊を抱いて
ミカン山に行った。
大好きなみかんの花の香りを
かいで菊はうれしそうだったと
養の助がはなす。
そして決めたことがあるという。
「ここで家族をたくさん作って
みかんもたくさん作って
ここで生きていきたい」という。
はつは驚いた。

「だから」、といって
養の助は藍の助に「安心して
大阪に戻ってきてくれていい」と
いう。

養の助は
空に向かって叫んだ。

「おばあちゃん~~
山王寺屋は俺が守る。
おいしいみかんもたくさんつくる」
と叫んだ。
みんな笑顔になった。

「ちゃんとみててや
おばあちゃん~~~」

みんなが笑った。

それからすぐにあさが
お焼香にやってきた。

よのももう一度お会いしたかった
との伝言をあさに託して伝えた。
あさは東京へ行った話をした。

梨江の容態もわるいという。
はつは驚いた。

惣兵衛も
栄達も、あんなにお世話になった
今井の母にあってきてほしいとはつに
いう。
養の助もうめもいくという。
あさははつに一緒に行こうと
いった。
こうして、4人は和歌山から
2日がかりで東京へ向かった。
今井の実家についた。
久太郎の歓迎を受けたが
梨江はふせっているという。
その後ほどなくして梨江は
姉妹がそろった顔を見て
安心したかのように
亡くなった。

梨江の葬式をあさとはつが
手伝った。
そこへ新次郎も千代も
やってきた。
「おおきに。
千代も長旅しんどかった
やろ?」
とあさ。

大隈も来たそうだが
大阪に帰る前に一度会いに
来てほしいとの伝言だった。
ほかにも来客があったという。
あさは、立ち上がって
挨拶に行った。

養の助がはつのもとに戻って
きて、千代とは初対面と
なった。
忠興が千代に会いたいというらしく
養の助は千代と一緒に
忠興の部屋に行った。

忠興の具合もよくない。

忠興の部屋で千代は
あさが入院していた時の
エピソードをたのしく
語っていた。
その様子を楽しそうに忠興は
ながめていた。

そして小さな声で
梨江に「おおきに」
といったという。

はつはそれを聞いて
梨江にもらったお守りを
だして母の声を思い出した。

『姉妹がどんな人生を歩くか
楽しみだ』といった。
『柔らかい心を忘れんと・・』
『おなごがそんな言葉を使ったら
あきまへん』

『これからは自分の決めた道を
胸を張って堂々と・・・』
はつは
涙が出た。

翌日のことだった。

はつと新次郎は忠興に呼ばれた。
あさは大隈家にでかけた。
忠興はベッドの上に
おきあがって話をした。

今までのことや後悔したこと
を思い出したという。

いち時代を築いた忠興にとって
失敗したことがあるという。

ご一新での山王寺屋のことと
あさのことだという。

***************
家族の温かさが
感じられるお話でした。
菊は山王寺屋はここにあったと
納得して笑って逝ってしまい
はつは、梨江の思い出のなかに
母の心づかいを感じたことでしょう。
お嫁に行くとき
梨江は
はつは大丈夫やといったけど
それほど、はつは信頼されていた
ということでしょう。
そのご、
山王寺屋がかたむき、はつは借金をたのみに
惣兵衛と一緒に京都に住んでいた
今井忠興を訪ねました。
忠興は借金をさせなかったのですね。

このことを
悔やんでいるというのですが
大変な時代に自らも
商売に全根を傾けているときに
先を読めない惣兵衛の商売に対する
姿勢の甘さを感じたのではと
思います。

むやみに借金をさせて
そのご、返済に苦しめるぐらいなら
そんな店は倒れてもいいとおもった
のでしょうか。
はつは、このことから
どうやって家を守るのかと
自ら中心となって生活のために
奮闘します。
もう、お譲さまでも
若奥様でもないただの落ちぶれた
家族の主婦です。
はつは、あさと違う道を
あきらかに、進むのですが
それは、自信と誇りをかけた
闘いだったのではと思います。
お金持ちではないけど
和歌山のミカン農家だけど
それが自分が築いた
大事な家庭だと
はつは、自信をもって
いるのでしょうね・・・。
はつのこれからは
姑を送って
息子を一人前にして
・・・
養の助がはつの夢をかなえようと
しているのでしょう。
ここでたくさんの家族をつくって
おいしいみかんをたくさん作る

いったことは
はつにとってうれしいことだった
のではと思います。