自慢の娘3
千代の寄宿舎に宣を訪ねたあさだった。
そこであった人は
宣ではなく、彼女の母フナだった。
フナはあわててあさに挨拶をした。
あさも挨拶をした。
フナはあさがてっきり千代に会いに
来たものと思っていた。
あさは、とまどうが
千代の机の上の家族の写真を
フナが見て
「美しいご一家で
うらやましい」という。
あさは、写真を見て
うれしく思ったがなんと
あさの頭の上には鬼の角が二本
かかれていた。

あさは、「ん???」と
いって目を見開いた。

「それに比べてうちの宣は・・・・」
とフナが言うので
あさは、「宣さんは頭が良くて
立派なお嬢様だすという。

ところがフナはそう思っていない。
「あの子は平凡な子だ。
まじめな子で
気が利かないし
不器用な子だから

学なんか付けさせるより
一刻も早く結婚させなければ
貰い手がなくなってしまうから
今日は学校をやめさせに
きました」という。
「縁談を進めるためだ。
女学校に入れるべきではなかった。」
フナは後悔していた。

あさは、
宣のことを話す。

「娘さんは非凡なお子です。
あないな面白い子はいない」と
いった。

そういえば、千代も似たような
もので、どこか自分の枠に入れようと
していたのかもしれないと
あさは気が付いた。

廊下では千代と宣が部屋に帰って
きた。
廊下にいる亀助に気が付いた
千代はもしかしてと
部屋を見ると
あさがいた。
思わず、隠れた。

そうとは知らずあさは
フナと話をする。
あさは、おなごの教育について
考えていたという。
「あの子たちはさなぎの時期というか
・・・・
自分たちが子供のころは卵から
帰った青虫が
いきなりお嫁に行って
ぽんとチョウチョになるみたいに
子供から一気に大人にならなければ
成らなかった気がします。
今の時代は一人前になるまえに
これから先の人生について
考えるための
さなぎでいる時間が作れるようになり
ました。」

「偉い贅沢なことですな」

とフナが言う。

「時代は変わった」とあさはいう。
「そんな猶予が必要なのかもしれない」
とあさとフナはその話で一致して
子供たちを見守らなければと
いう。

こうして、宣は連れて帰られることに
成らずに済んだ。

千代は、あさに

「その・・・おおきに・・」と
いう。
あさは笑って
頭の上に日本の指を立てた。

「ほんならな・・」
といってあさは
つぎの訪問先に
いった。

その夜、藍の助が不安そうにしている
ので新次郎がそのわけをさぐると
惣兵衛から手紙が来た。
その中には
菊が腰の骨を折って寝たきり
になっているという。
それを藍の助には内緒にしてほしいと
のことだった。
藍の助はいぜん、惣兵衛に
大阪に山王寺屋を再開する夢は
あきらめてほしいと
祖母に伝えてほしいといったことで
菊に申し訳ないと
おもっていた。

あさは、なにも心配することは
ないといって和歌山に帰るように
いった。

そのころ、菊は
朝早く、おきあがった。

戸をあけてほしいと
栄達に頼む。

養の助も惣兵衛もやってきた。
みかんの花の香りがしていると
菊が言う。

「ほんまだすか?」とはつがきく。

「いまは花盛りだ」と養の助が言う。

「みかんはおいしいけど
わたしは花の香りが好きだ」と
いう。

栄達は「大阪にいてたら
一生この香りを
知らんかったかも」と
いった。」
縁側にみんなで菊を運ぶ。
あたたかな
日差しのなか
菊が見上げた山は・・・
いつもと変わらない山だった
が。

「ここがわたしらの
山王寺屋だ」と菊は
つぶやくようにいった。

藍の助は加野屋を後にした。

あさは、新次郎に言った。
「退院して三か月たつので
そろそろ私も・・・」

と、旅立ちの懇願をした。

「東京だすか?
炭鉱だすか?」

「東京だす」とあさはいう。

今井忠興のお見舞いにいく
という。
新次郎は「無理して
寄付金集めはあきまへん」と
いう。

あさは、「体には気を付けます」と
いった。
「わかりました。いっといで。」
「おおきに旦那様・・」

そのころ、
和歌山に帰った藍の助は

祖母の臨終を知る。
横たわっている菊に藍の助は
話しかける。

「おばあちゃん???
僕は
僕はいったい何していたんや・・」
藍の助は
泣いた。

菊の葬式は身近な人だけで
行われた。

藍の助は菊になにもして
あげれなかったことを
悔やんでいた。
養の助は
ふさぎこんでいる藍の助にいった。

「おばあちゃんの最後は決して
みじめなものではなかった」と。

その様子をはつと惣兵衛は
じっと見ていた。
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モラトリアムという言葉が
流行った時期がありました。
80年代だったかな??
高校を出て
すぐ就職するより
とりあえず大学へ行って
自分探しをするという考え方で
ある。
大学の学問をしに行くため
だけではなかった。
自分というものをじっと見つめる
時期がほしいという若者の
気持ちだった。

この千代たちも
それに似ている。

あさは、まるで子供から
加野屋に嫁いだ。

あの時の忠興が

帰って来るなよといった
あの表情が忘れられない。

本当は心配なのだろう。

娘がかわいくないはずがない。

しかし、時代の父親として
当たり前のことをいった。
おなごは家を守れ
と。
子供のあさは、加野屋にはいったが
新次郎はまだあさが、妻と呼べるような
成熟した女性でないことで
なかなか夫婦になる気持ちになれなかった
というくだりがある。
あさは、幸せ者だ。
新次郎はあさが好きだが
それを表に出さない。
おもてに出すようになるには
まだまだあさが、それこそ蝶々
にならなければならなかった
わけで。

宣がこのまま嫁に行っても
しあわせになれないことは
わかるが。
フナは、娘を従来の女の生き方
とはこうだという
型にはめようとしている。
あさも同じ自分がいることに気が
ついた。

モラトリアムが必要との
あさの意見はぜいたくであり
必要なことだったのだろう。

女子の生き方がこれほどまでに
真剣に考えるひとがいてこそ
いまの時代があるのだと
思った。

菊がなくなる。
最後はここが山王寺屋だと
認めて、自分の夢がかなって
いることに気が付いた。
それは彼女を大変幸せにした
と思う。