夢見る人4
はつは、あさにあって
「あんたはほんまに・・」と
いいかけて
あさは、「もういわんといて」と
いう。

亀助はあさが気が付いてからと
いうもの誰彼からも
怒られてばっかりなので
とあさをフォローした。
そして
ふとはつのそばの惣兵衛
をみて、「この方はもしかして」と
かつての山王寺屋の主人である
事に気が付いた。

惣兵衛は「御無事でよかった」と
あさにいう。
はつは、「どこをさされたのか」と
あさに聞くと
「このへん」と、いって「しばらくは
痛くて動かれしまへん」と
こたえると
はつは
あさに、
「あんたは動きすぎだから
丁度いいのと違いますか」と
いう。

あさは、「それもみんなから言われて
います」というと
はつと顔を合わせて
二人は笑った。
病室の外に出た
千代は新次郎から萬谷が捕まった
と聞く。
萬谷ときいて
丁度廊下に出てきた惣兵衛は
驚く。

千代はほっとするが
あさは、萬谷をあそこまで追い込んで
しまったのは、自分だという。
だから、警察にはあまり
罪が重くならないように告げて
欲しいと新次郎にいう。

新次郎は驚いたが
了解した。

はつは、あさにいった。
「やっと商いが安定した
のに、おなごの大学校と
作るつもりとは、」とどこまでも
じっとしていられないあさに
あきれた。

そして、「そんなものが本当に
必要なのか」と聞く。

千代はじっと聞いていた。


廊下では秘書をしている亀助が
面会の客たちに向かって
「長いこと面会謝絶になって
いたが、来週からお見舞いいただける
ことになった」と
挨拶をした。
みんな、「よかったよかった」と
いって、帰って行った。
惣兵衛と新次郎は廊下の
椅子に座って話をした。
惣兵衛はいまは農業はひと段落となり
養の助にまかせて
二人でやってきたことを
いった。
そして、「萬谷といえば。。。
天満で大きな店を出していた
おひとやな」
という。

新次郎は「ご一新以降
いろいろと商い替えをして
きたがどれもこれも
うまいこといかなかった。」
と、話をする。
惣兵衛は「大阪の町がこんなにも
変わったら
萬谷も変わってしまって
そうなるだろう」と
いう。
亀助は、惣兵衛の変わりようにも
驚いていたので
「山王寺屋さんの
変わりようも負けていない」と
つぶやく。

はつとあさの
さっきの話の続きだが
はつは、あさのやっているおなごの大学校
を作ることで
あさの命をすり減らすようなことになる
のだったら・・・と反対の意思をみせた。」
千代も、「そう思う」という。
「女学校の先生は
男というのは生まれつき
おなごには下にいてほしいと思う
ものだという。
近年、頭のいいおなごを
妻にするという流行も上流階級に
はあるらしいが、男よりでしゃばる
おなごは嫌われる、どんなに物知りでも
ちょっとしたですよと
にっこり笑っているほうが
一番いいと先生は言うていた」という。

「びっくりぽんや」
とあさ。

「女学校ってそんなことを習うのですね」と
はつはいう。

「そうですよ。おとこはんが
10人いてはったら
8~9人は
お母ちゃんのことを嫌いですわ。」

千代はあっさりときついことを言う。

「うそや~~」とあさはいうが
新次郎のような人は珍しいと
千代は言う。

「あさがキライという男は
たいてい、はつのような人
が好きなものだ」と
千代は言った。

はつは笑った。

「うちかてそうだすさかい。」
と自分もあさよりはつのほうが好き
だといった。

あさは怒って「なんであんたは
いつもひどいことが言えるんや」と
いう。

「千代は10中8~9かて
優しいいい方です。
本来なら
9分9厘・・・です!!」

といって部屋から出ていった。

はつは、「一番怒っているのは
千代ちゃんみたいだ」という。

あさは、「千代の言うことは
どこか正論の様なので
困っている」といった。
「良妻賢母というのは
自分よりはつのほうだというのも
間違いないから」と
あさはいう。

はつは自分には学問はないという。


あさは、学問ではなく
料理や、裁縫などは家政学の分野だと
いった。
女性が結婚して
そのまま不幸になるのは
家に入ることで世間が狭くなり
ひとりぼっちになってしまう
ことだといった。

はつには覚えがあった。
山王寺屋が大変な時に
何が起こっているのか
誰も教えてくれない不安を
あのころ感じたことを
思い出していた。
あさは
外の世界がわからず
自然と一人になってしまう
事が不幸なことだと
いう。
「教育はそんなおなごの今を
変えることができます。

家に入っても
周りの人とかかわり合いながら
その家の大事な人になれます」と
いった。

はつは、「そういえば
「他人の代わりに手紙をかいて
あげたり
読んであげたりすると
喜ばれる」という。

あさは、「自分のように忙しく
立ち回るおなごがいてもいいし
はつのように、人のために
できることをすることも
自分に一本筋が入っている
生き方だ」といった。

「だからおなごの高等教育など
いらないと言われても
屈することはできません」と
あさはいう。

はつは、理解して笑った。


千代は病院の中で啓介に会った。
リンゴの皮をむこうとしてした。
「ほんとうはかじったほうが
おいしいけど先生から
きれいに剥いてくれと頼まれ
たので」という。
千代は「この間びっくりさせたおわび
に自分が皮をむく」という。

上手に剥くので啓介はじっと
見ていると千代は
「この間はびっくりさせてすんません
でした」と謝る。
「親が包丁で刺されたので包丁を見ると
あの時の光景を思い出して気分が悪く
なった」といった。

啓介は
「どこかの銀行のお偉いさん?
自分は東京からきた。
学生時代の恩師が入院しているので
励まそうとやってきた」という。

そして、「実にべっぴんだな」と
いった。

千代は、驚いて
啓介を見た。

「え???
自分がべっぴんさんて???」と思った
のでしょうね。
すると「リンゴのことだよ」といった。

「し、失礼しました」といって
千代は恥ずかしくなって
さっていった。

新次郎は廊下で惣兵衛と話をして
いた。
昔。五代が
あさは、日本を変えられる人だと
いったが。。。。

「勘弁してほしいわ、あさはそんなものに
成らなくてもいいのに」という。

惣兵衛は「そうやな」という。
「男やったらいいけど
おなごはな・・・」という。
「それ以上に新次郎は刺されることは
許せないが、けがの治りかけは
男並みでええけど」といって
笑った。

はつは、養の助が結婚するので
新次郎と惣兵衛が
結納の品を見に行くと言ってでていった
とあさにいった。

二十歳になったら兵隊に行くといって
いたのに、二十歳になったら
お嫁さんをもらうことになった。

「千代ちゃんも、卒業したら
お嫁さんやろ?」とはつはきいた。

あさは、複雑な顔をした。

その頃成沢は女子大学校設立の
事務所にいた。
あの時平十郎に言われた言葉に
打ちのめされていた。

『元はと言えば
あんたのせいやろ!!!』

「う~~ん・・・・」

成沢はイライラして頭をかいた。
「ごめんください!!」
勢いよくドアが開いた。
そこへ、バラバラっと
男たちが入って来た。

成沢は驚いた。
何が起こったのだろうか。
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良妻賢母とは何かという
話しである。

ずっと前の放送で
藍の助が千代と話をして
いるなかで、奥さんとたとえば
孔子の話をできたら面白いなと
思うと藍の助がいった。
千代は信じられないといったことが
ある。
何も知りません、ぞんじませんという
おなごより
こう思っていると
自分の意見を言えるほどの力をもってい
ることが大事であるとあさはいっている。
そのための高等教育だといった。
はつが、その昔、山王寺屋に嫁いで
しばらくして、明治維新の
あおりで、山王寺屋が傾きかけた
とき、外では何が起こっているのか
わからない自分にイラついていたことが
あった。
それでも良家の子女で
教育を受けていたので
お琴の先生をしたり
他人の手紙の代読や代筆などができる。
また、頼まれ物の繕い物や
簡単な料理などを作ることもできる。
これは家政学というとあさが説明した。
女子教育は特別な教育のようで特別でない。
男子が社会で必要とされる人間に育つ
ための教育を受けるのであれば
女子も、社会で家庭で必要とされるひと
になるために教育を受けるべきであることは
あたまでっかちとか
理屈家とか
気位が高いとかいう
次元ではなく
自分が自分らしく生きるための
精神を養うことに通じるということ
である。

もしはつが、子供のころからなにも
教育を受けていなくて
文字を知らず、数字も知らず
お琴もしらず
料理や繕い物はやっとのこと
であるなら、
人の役には立たなかっただろう。
だが、あさよりはできるという
特技となっていたので、それがはつを
支えた。

なによりもはつは、主人をたてて
家を守る意識が高く
良妻賢母とは
はつのようなひとだと
普通の人は思うものだ。

だが、ファーストペングインは
女子の中からもでてこないと
本当の女子の地位向上には
ならない。
古い常識を破る信念と精神力と
学問の裏付けが
あればこそのあさの教育論であると
思った。

千代の女学校の先生が言った
男はおなごは自分より下がいい
というのは、決しておなごは
男より勝ってはいけないということ
ではなく、男を立てて守ってあげる
力を持てという事だろうと思う。
男に生まれたからにはどんなに
辛くても男は泣いたらあかん、などと
いわれて、人に心を見せないようにして
生きていかなけばいけないものと
言われている時代のようだが。
どの時代でもたかだか男女の差で
がんじがらめにあっているのは
おなごばかりではなく
おとこも
そうではないかと思った。