今話したいこと6
あさは夢を見た。

川がながれている・・・
さらさらと
音を立てながら

「ここは

どこ?」

祖父とうたったうさぎの歌が
聞こえる
歌っているのは、祖父の忠政だった。
そして小さな女の子の声も

「う~~さぎ
うさぎ
なにみてはねる~~
十五夜お月さん
みては~~ね~~る~~」

「あ、おじいちゃんの声や・・
なぁ
おじいちゃん
ここは


どこ???」

川が流れている・・・


新次郎は
萬谷に刺されたあさを
病院へ運んだ。

動かないあさに
声をかける。

「あさ!!!
あぁさぁああ!!!」

あさは

動かない。

病院では
手術が行われていた。
うめ
千代
新次郎・・・。

栄三郎がきた。

「おなかの傷が大きいみたい
や・・
まだ、終わらない」と新次郎は
栄三郎に言った。

手術が終わったが
医者は出血が多かった
ので危険な状態ですと
いう。

「念のために
御親戚やかかわりのある
大切な人には
お知らせしたほうがいい」と
医者は言う。

はつのもとに電報が来た。
はつは、座り込んだ・・・
「うそや・・」

加野屋のあさが暴漢に刺された
というニュースはあっという間に
広がった。

美和はおどろき

店は大混乱となっていた。

あさは大丈夫なのかと
いう問い合わせである。
平十郎は「大丈夫です。
落ち着いてください」というと
成沢が飛び込んできて
「これが落ち着いていられるか
白岡あささんは大丈夫なんですか」
と大声を上げる。
平十郎は
顔をしかめた。
「元はと言えば
あんたのせいやろ
帰れ
帰れ!!!」

大隈宅にもその情報が
はいった。
新聞が報道したのだ。

よのは病院へ見舞いにいった。

「かわいそうに
なんでこないなことに。

病院の表も
人だかりだっせ・・

千代?

おばあちゃん・・・・
今日はな
うちがお母ちゃんのそばに
ついているから
あんたはうちへ帰って
体を休めなはれ・・」

千代はずっとあさに
ついていた。

今井の弟がやってきた。

「あさ姉
あさ姉・・・
しっかりしいや・・・」

新次郎は、忠嗣に「お忙しい
のに、お見舞いに来ていただく
とは、」とお礼を言った。

忠嗣は、「代替わりをしてから
父親の具合が悪くて
来られない」と言った。
梨江も看病でつきっきりという。

あさの病状は数日たって
も回復しなかった。

大隈は綾子に
あさに会うことによって
心に決めたという。
「必ず政府に戻る。」

綾子は
「ようやくお決めになりましたのね」と
喜んだ。

大隈は綾子が自分を
あさに合わせたのは
それが目的だったのでは
ないのか
という。

そして、綾子にお見舞いの手紙を
かかせた。
その手紙は女子教育設立の事務所
の成沢のもとにとどいた。

「そうだ
白岡さんが死ぬはずない
死ぬはずないのだ」

とつぶやいた。

しかし

平十郎の
「元はと言えば
あんたのせいやろ」と
言われたことが
胸に刺さっていた。

病院では
「おかあちゃん、痛くない?」

千代は
泣きながら

あさの手や足を
さすっていた。


「まだいてたのか・・・」
新次郎は千代にいった。

千代は母は一生死なない人だと
思っていた。
どんなことがあっても
生き残る人だと
思っていた・・・

「おかあちゃんが
死んだらどうしよう

このまま
死んだら

どうしよう・・・・」

千代は
泣いた。


月明かりのよる

あさは

また

「うさぎ、うさぎ」
という
歌を聞いていた。

川が流れている


「十五夜お月さん
みてはねる・・・・」

あさもうたった。

翌朝
新次郎はあさに
話しかけた。

「あさ・・・

どこにもいったら
あかんで

わてな

知ってると思うけど

あんたに惚れてます。

あんたのすることは
何でも応援してあげる。

そやけどな

わてより
先に死ぬことは
金輪際
ゆるさへんで

わてを置いていったら

ゆるさへんで・・・」


新次郎は
言いながら泣いた・・・


あさは


「うん?」

という


「いやや・・・・」


「あさ?
もういっぺんいうてみい?」


「いやや・・・

まだ


死にとうない・・・・」

新次郎は
あさの手を握って

「そうやろ??

また起き上がろうな

九つ転び

十起きや」


「九つ転び




起き???」


あさは気が付いた。

「旦那様?
うちは何をしているのやろ?」

新次郎は
あさを抱きしめ

「よう頑張りましたな」


と、

あさを
励ました。

あさの
奇跡の

生還だった・・・

**************
あの川は
もちろん」
三途の川です。

あっちでおじいちゃんが

歌を歌って
あさを呼んでいました。

誰もまだ来ないので
寂しくなったのかも
しれません。

あさが
十五夜お月さん
見て跳ねる


歌ったとき

おそらく

三途の川を渡ろうとした
のではないでしょうか。

でも、
朝になって
新次郎が
あさに話しかけて
帰ってこいと
声をかけて
あさを呼んでやっと
あさは

自分の行く道がわかった
のか

三途の川を

渡り切る前に

気が付き

帰ってきたのでしょう。
(かって申します・・・)

新次郎の本音も
わかりました。

どんなご主人でも
やっぱり
妻に先だたれると
辛いでしょうね。

でも、女性も
そうです。
ご主人に先立たれた方は
長らく悲しみを
こらえています。

その悲しみに打ち勝つには
子供たちや
親しい友人や
やらなければいけない目的が

あれば・・・

人は、がんばって
生きていくものだと
思います。