今話したいこと5
あさの思った通り大隈の影響で
東京での女子の大学校設立
の賛同者は増えて行った。
成沢はあさの力に驚き
感謝した。

が。加野銀行ではそうでは
なかった。
あさが東京から帰ってきた。
座敷に新次郎や栄三郎
平十郎がいる。

重苦しい空気だった。

あさがわけをきくと
女子の大学校を作るなどと
いうのはとんでもないことだ。
そのために預金しているお金が
使われている。
と世間がいうので
預金者が使われてたまるものかと
いって解約に来ているという。

あさは驚いた。
東京では賛同を得ていたのにと。

平十郎は
「しかも成沢は
一銭も加野銀行に預けていないひと
だし、融資の予定もない。
何のかかわりもないのだ。
おなごの大学校に力を入れて
いるのはあさの道楽だ」と
言い切る。そして

「そんなことに奥さんがもともとない時間を
つかい、お金を使われたら私らは
かなわない、」といった。

あさは、納得がいかない。
新次郎はあさをたしなめた。

「すんません、迷惑をかけて。
ちょっと店を見てきます。」

栄三郎は「このことが落ち着くまで
店には顔を出さないでください、
店のためだす、たのんます」といった。

あさは、気落ちした。

そこへ千代が来た。

千代が先のことをお母ちゃんと考え
ようと新次郎がいったという。

あさは、「自分は好きなようにさせてもらった
から、千代もそうしたらいい、あとで
ゆっくり話を聞きます」といって
去って行こうとした。

千代は「そうですか」といったが
宣の話が耳についた。

『炭鉱の事故が起こったとき
千代の世話で炭鉱の仕事
に打ち込めなかったからだ』と
いう話、

『以前、あさが自分は
商売が好きなんだ』と
いった話

それで千代は、「自分が生まれたから
炭鉱に行くことができなくて
炭鉱の事故が起こったんだ。
自分がいなかったらお母ちゃんは
好きなように商売ができただろうし
勉強もできたのにと
思っているのですね」と
あさに、ケンカを売った。

「心配しなくてええです。
私には母親は必要ない」と
千代は言う。

「卒業したら好きにしますから」と
いった。

あさは、千代の手をつかんで
「待ちなはれ」といった。

「あしでまといなんて
思ったことなどない」と
いった。
「充分そばにいることができずに
申し訳ないと思ったことは
たくさんあるけど
後悔したことなんか
まるでない」といった。
「それはうちが選んだ道だから
です。」

「わかっています。
うちより仕事を選んでいたと
いう事ですね。」

「そう思うなら
そう思ったらよろしい。
このひねくれものが!!」

「ひねくれものやて。」

「あんたがいてたから
商売の手を抜いたやて?
ややこがいて
たから
失敗しました。
すんまへんなぁ~~
って
いうてるほうがよほどあんたに
失礼と違いますか」

「そんなん家あけて
仕事したい女の言い訳や!」

あさは、どうして千代はそんな風
にしかとれないのかと
腹が立った。
これほど千代を大事に思っていたし
千代のために頑張ろうと思っていた
のに・・
「いてへんほうがよかったなんて
甘えなさんな!

まだ千代が小さかったらごめんなと
何べんでも謝るけど
いい加減大人ですやん
いつまで自分を甘やかしたら
気が済みますのや!!!」

親子喧嘩は続く。

「せやな
かわいらしい娘やのうて

すんませんでしたな

せやけど

ずっと甘えさせてくれへん
かったんは

おかあちゃんやんか」

千代は目にいっぱい涙をためて
いった。

そこへよのがきた。

千代は去って行った。

あさは千代を追いかけたが
よのが「一人にしなさい」と言った。

そこに、宣がきた。

「あなたは?
のぶちゃん?」

宣はあさに会えてうれしいのと
千代があんなことをいったのは
自分のせいだということを
いった。
「え?」あさは聞いた。

店に、萬谷が「奥さんを出せ」といいに
きた。

「留守です」と弥七がいうが

「昨日も留守だといった」と
言い返す。

「まだ、東京から帰って
きていません」と

つい。。。
東京へいったことを
話したので

萬谷は

「そうやった。
おなごの大学校を作るとか
いうて、くだらんことに
うつつを抜かしている」と
いう。
「そんな下らんことに金を使うの
だったらこのわしに
金を貸したほうがいい」と
くだをまきだした、

そして、「自分に死ねというんやな」と
いって
怒りにまかせて店で演説を始めた。

「みなさん!!!
この店の名物女の白岡あさという
のはろくでもない女だッせ!!!
昔なじみの和紙には少しの金もかさんと
おなごの大学校か何とかという
しょうもないものに
皆さんの大事なお金を使ってます
のやで~~~~~~

こんな銀行は長いことない
じきにつぶれますから
こんなところにお金を預けたら
あきまへん

なぁねえちゃん~~~」

萬谷はサカエに手を出そうとした
のでサカエは悲鳴を上げた。

「ここのおなごはんはあの奥さんから
えらい教育を受けてますのやろ
ふふ
客を喜ばしてくれなぁ~~~~」と
いいながら
サカエに近づこうとした。

新次郎がそれを止めた。

「いたたたた・・・」

「いたおましたら
それは堪忍だっせ。
そやけど何ぼ昔馴染みでも
なんでも
おなごに手を出すのは
許されしまへんな。」

「はなさんかい」と萬谷はあばれたが
新次郎は萬谷を押さえつけた。

そして、新次郎は「大概のことは
気にならないが二つだけ腹に据えかねる
事がありますのや」という。

「それは男がおなごに手を上げること
わての嫁さんに的外れな
悪口を言われることだす。」

「なんやとぉ???」

「帰っておくれやす!!!」

「くそ・・・・」

男の行員たちに担がれて
萬谷は追い出された。


あさは、ほっかむりをして
店の外にいた。

千代と何としても話さねばと
思ったからだろう。

千代が買い物をして帰って
くるところを
待っていた。

「千代・・・」

声をかける。

千代は関係ないと言って
去って行こうとした。

あさは「もっと千代と話がしたい」
といった。

「話をしたいことがたくさんある。
千代が小さい時のことや
お父ちゃんのことや
おじいちゃんのことや・・・」

「うちはお母ちゃんと話をすることはない」と
いって
去って行った。

千代の後ろで
何か音がした。

萬谷が
刃物を持って立っていた。

「自業自得じゃ~~」
と言った。

「え?」
千代が振り返る。
あさが倒れていた。

「千・・・・代・・・」

あさは、振り絞るように
千代の名前を呼んだ。


萬谷に刺されたのだった。

萬谷はわらいながら
去っていった。

千代はあさのそばに
刃物が捨ててあるのを見た。


「お母ちゃん???」

あさは、ぐったりと道端に
倒れていた。

「いやや

お母ちゃん!!
お母ちゃん~~~!!」

千代は悲鳴を上げて
あさのもとに駆け付けた。

その声を聴いて新次郎が出てきた。

「千代?」

「おとうちゃん、お母ちゃんが

お母ちゃんが・・・」


「あさ、しっかしせい
あさ!!!」

あさは、ぐったりして
反応がなかった。

******************
あさにとっては
散々なできごとだった。
自分のやっているおなごの大学校
設立が世間では評判が悪く
鹿も誤解されていること。
加野銀行のお金は一切使わない
のに、なぜこんなことを言われるのか
というと
おそらく萬谷のせいだろうと思う。

そのせいで加野銀行に取り付け騒ぎが
起きていること、栄三郎や平十郎に
よけいな心配と迷惑をかけたこと
自分が店に出たらよけい迷惑が
かかるという最悪の状況であること。

そこへ千代が進路の相談にくる。
もし、この騒ぎがなくて
後で聞きますとかいわなくても
よかったら、親子の決裂は防げた
のだろうか?

あさにとっては大打撃のうえに
大大打撃となった。

そして、

最後に

もうひとつ

大大大打撃が

萬谷の怒りにかかって
刃物で刺されることだ
った。

あさ・・・・

ご苦労さん。

千代との会話を文字にすれば
あさの思いはそのとおりだと
思うけど
小さい時から
辛いこと、さみしいことを
我慢してきた千代にとっては
母の人生観は
理解しようがない。

ただ、救いは
千代の母への
愛情が
残っているのか
どうかということ
だけである・・・

ということだね。