今話したいこと4
あさはさっそく大隈重信に
手紙を書いたが
なかなか返事が来ない。
政府の仕事を辞めてから
いろんな人が大隈のところへ
やってくるらしく
忙しいとあさは聞いたらしい。
それで東京へいって大隈に
会ってみようと思った。
東京へ行くあさ。
世間ではあさのことを
炭鉱の次は銀行、銀行の
つぎはおなごの大学校をつくると
は・・と批判じみた陰口が
横行しているという。
よのは、「いいことにつけ
わるいことにつけ、おなごが目立つ
というのは、心配なことです」と
いうが。
東京へでかけるあさの様子をあの萬谷
が、じっとみていた。
大隈の私宅についたあさ。
大勢の客が来ているらしく
玄関先にはきものがちらばっていた。
あさは、「ごめんください」と
いいながら、そのはきものを
きちんと片づけた。
そこへ大隈の夫人綾子が
やってきた。
あさの名前を聞いて
大隈はあさが来るのを楽しみに
していたという。
あさは、びっくりした。
楽しみにしていたとは?
約束も何もしていないのに?
である。
大隈のサロンでは大勢の男衆が
話をしながら笑っていた。
あさは、入り口で
「おんなだてらに大隈先生と
お話ですか?それは緊張
されるでしょうね?」と
見知らぬ男に声をかけられた。
あさは、どうしたらいいのかと
思っていると綾子が「そんなところに
いたらいつまでたっても
お話ができませんよといって
手を引いて大隈に紹介して
くれた。
大隈は「あなたがおんなだてらに
金儲けをして銀行を作ったと
いう例の女の人ですか。
これはお目にかかれて光栄です。」
という。
あさは、「白岡あさです。
こちらこそ、お目に
かかれて光栄です」といった。
大隈はいならぶ男衆に
「このひとは女子にも大学校が
必要だと
先進的なことを考えている
大阪の偉大な実業家さんです」と
紹介した。
あさは、その時気が付いた。
自分こそがみんなにとっての
お猿さんではないかと。
元気よく、あさは答えた。
「へぇ!この白岡あさ、この日本にも
おなごの大学校をとそう願いまして
大隈さまにご意見を伺おうと
大阪からこの東京早稲田に
やってまいりました。
皆様
どうぞよろしゅう!!!」
「これは恥ずかしからぬ男ぶり
いや、女ぶりであるなぁ~」と大隈は
立ち上がってあさのそばにいった。
そして大隈は言った。
「白岡夫人。確かに日本には女子を軽んじる
風潮があった。
しかし、明治になって以降この国の女子教育は
一気に進んだ。
そして、我輩はこの国の現在の女子教育
の指針
おなごの主たる天職は
賢母良妻であることに間違いないと
思うものである。」
あさは、はっとおもった。
「将に綾子夫人のことですな。」
と誰かがいい
やんやと喝采された。
綾子は「みんなおだてて」というが・・
大隈は
「そのとおりだ。
確かに女子教育についてわが国は
外国に後れを取っておる。
しかし、我輩は今の女子の教育は
その賢母良妻をつくるには十分に
値すると考えるものである。」
あさは、「賢母良妻」と、不満そうに
つぶやく。
大隈はまだ女子の大学校開設は
早すぎやしないかと思うという。
あさは自分の考えを述べた。
自分も賢母良妻にあこがれて
いること。
今は自分の小さいころと違って
女子の教育が普及して
いること。
それらを
ただただうらやましいと
思うばかりだといった。
これで充分だと思った。
しかし・・・
「うちはなんてあほやったんやろと
思います。」
大隈は
「あほ?」
と聞く。
綾子も
「あほ?」と聞いた。
「はい、さながら道の向こうで
小さいころからあこがれていた
宝玉があるかもしれないのに
近くに落ちていたビー玉を拾って
わぁっと喜んで帰ろうとしていたただの
こどもです。
うちは政府が打ち出したおなごはこれで充分
だろうという考えにまるで流されていたんです。
今においても
男子と女子の教育はまるで違って
います。
男子は学ぶ気さえ合ったら
中学校、高校、大学校と
道が開けていますが
おなごはせいぜい
女学校
師範学校しかあらしまへん
しかも、学べる年月は
ずっと短い。
また教科書を見ましても
女学校は婦女の道徳に重きを
おかれ過ぎて
世に出て役に立つ実学が男子に比べて
あまりにも少ない。
はじめから教育の目指すところが
男子は学問
おなごは花嫁修業と
明らかにちごうてしもてんだす!
おなごに学問なんかいらん。
学ぶ場さえ用意していたら
それで充分やろいうそもそもの考えが
今日のおなごの高等教育の
大きい足かせになっているのでございます。
うちは大隈先生のおっしゃる
賢母良妻がおなごの主たる
転職だというお考えに異論は
ありません。
そやけど
そのことのために学ぶことは必要だす。
芸事や実技も大事だすけど
世の中の動きに疎いおなごだけでは
あかん。
賢母良妻になるためにかて
男女の教育に区別をすべきや
あれへんのだす。」
ここまで一気に話をした。
大隈はじっと聞いていた。
すると群衆からあさに忠告がでた。
「キミ、大隈先生に失礼だろ。」
「そうだ、そうだ。」
「いいや、どうか最後まで聞いとくなはれ。
おなごもまた社会の一員となり
生きるすべや
人を助けるすべ
をみにつけ
しあわせを感じ社会のためになること、
これこそがおなごに
高等教育が必要な理由だす。
今すぐにでも100年先を見据えて
大きい目で見て
方針を定めるべきだと」
一気に話したので
空気を吸い過ぎて
咳き込むあさ。
咳き込みながらも
「すんません、これは病や
あらへん。
これを読んでほしいのだす」と
いって成沢の趣意書を出した。
綾子はあさに、お水を飲ませた。
「あんなに息をつかないでお話になる
なんて・・・ほほほほ」
「あなた?」と綾子は大隈に言った。
すると黙っていた大隈は驚きを表しながら
いった。
「いや
これは見事也
見事なプレゼンテーションだった。
反論もしないで聞いていたのは
ひさしぶりだった」という。
「これは驚いた。
今日この館で我輩にあったことより
白岡夫人にあったことが
すばらしいことだ」と
居並ぶ男衆に向かって
大隈は言った。
そして「午前の部はこのくらいに
してお昼にしよう」といった
ので綾子は「承知しました」と
いった、男衆はさっさと
部屋から出て行った。
大隈はあさに言った。
「白岡夫人
あんた・・・
いやぁ~~
大した女の人だであるなぁ。
」
あさは「勢いに任せて政府の
批判などしてすみません」と
いうと
綾子は「いいのではないですか」と
いう。
「この人は今は政府の人では
ありませんし。
あなたの手紙を読んで本当に
楽しみにしていたのですよ。
どんなお顔か
どんなお声かって。」
「あんたの弁舌は愉快だった。
老いも若きも
男も女も
民が学べば
国もそだつ。
しかし男子の教育概念が確立
されていない。女子は後回しだ。
今は大臣でもない我輩だ。
なにもできない。」
あさは学校を作った先輩である
大隈に会えたことが
うれしいといった。
大隈は「爆弾を投げつけられた
我輩だ。あんなに客がいても
本当の味方は一人もいないのかも
しれない。」とつぶやく。
「ほんまですね。事業といい、
政治といい
どこかせち辛いところが
ありますね。
その点、教育は違いますね」
「結局二心がなくこの世に
残せるものは教育しかないだろう」
と大隈は言う
そして
「ああ
白岡君」
「はい?」
「この大隈できる限りの協力をさせて
いただきますぞ。」
「おおきに
おおきに
ありがとうございます。」
あさの行動は実った。
その頃大阪では
千代が休暇で親友の宣とともに
大阪に帰ってきた。
「ここがあさ先生の銀行か~~
りっぱなもんやな~~」
と
宣はいう。
新次郎が出迎えて
「これこれ
おそろいで」といった。
宣は頭を下げた。
***************
あさの行動が大隈の心を揺さぶった。
明治の教育が女子にもこれでよしと
するものだというのが
大隈の見解だった。
しかし、タミが真鍋は国が育つと
いった。
まさしくあさのいうとおりだと
大隈は納得した。
最初は憲吾良妻こそが
女子教育だといっていたのに
この方向転換である。
ほんとうに驚く。
あさの力である。
そのあさの力の及ばない
人が・・・
千代である。
母のことを身近にみていて
いいも悪いもみんな知り尽くして
しかし、母の本心はまだわからない
という反抗期の千代に
なかなかあさの特異なプレゼンは
通じない。
さて・・
今度はどんな騒動になることでしょうか。
あさはさっそく大隈重信に
手紙を書いたが
なかなか返事が来ない。
政府の仕事を辞めてから
いろんな人が大隈のところへ
やってくるらしく
忙しいとあさは聞いたらしい。
それで東京へいって大隈に
会ってみようと思った。
東京へ行くあさ。
世間ではあさのことを
炭鉱の次は銀行、銀行の
つぎはおなごの大学校をつくると
は・・と批判じみた陰口が
横行しているという。
よのは、「いいことにつけ
わるいことにつけ、おなごが目立つ
というのは、心配なことです」と
いうが。
東京へでかけるあさの様子をあの萬谷
が、じっとみていた。
大隈の私宅についたあさ。
大勢の客が来ているらしく
玄関先にはきものがちらばっていた。
あさは、「ごめんください」と
いいながら、そのはきものを
きちんと片づけた。
そこへ大隈の夫人綾子が
やってきた。
あさの名前を聞いて
大隈はあさが来るのを楽しみに
していたという。
あさは、びっくりした。
楽しみにしていたとは?
約束も何もしていないのに?
である。
大隈のサロンでは大勢の男衆が
話をしながら笑っていた。
あさは、入り口で
「おんなだてらに大隈先生と
お話ですか?それは緊張
されるでしょうね?」と
見知らぬ男に声をかけられた。
あさは、どうしたらいいのかと
思っていると綾子が「そんなところに
いたらいつまでたっても
お話ができませんよといって
手を引いて大隈に紹介して
くれた。
大隈は「あなたがおんなだてらに
金儲けをして銀行を作ったと
いう例の女の人ですか。
これはお目にかかれて光栄です。」
という。
あさは、「白岡あさです。
こちらこそ、お目に
かかれて光栄です」といった。
大隈はいならぶ男衆に
「このひとは女子にも大学校が
必要だと
先進的なことを考えている
大阪の偉大な実業家さんです」と
紹介した。
あさは、その時気が付いた。
自分こそがみんなにとっての
お猿さんではないかと。
元気よく、あさは答えた。
「へぇ!この白岡あさ、この日本にも
おなごの大学校をとそう願いまして
大隈さまにご意見を伺おうと
大阪からこの東京早稲田に
やってまいりました。
皆様
どうぞよろしゅう!!!」
「これは恥ずかしからぬ男ぶり
いや、女ぶりであるなぁ~」と大隈は
立ち上がってあさのそばにいった。
そして大隈は言った。
「白岡夫人。確かに日本には女子を軽んじる
風潮があった。
しかし、明治になって以降この国の女子教育は
一気に進んだ。
そして、我輩はこの国の現在の女子教育
の指針
おなごの主たる天職は
賢母良妻であることに間違いないと
思うものである。」
あさは、はっとおもった。
「将に綾子夫人のことですな。」
と誰かがいい
やんやと喝采された。
綾子は「みんなおだてて」というが・・
大隈は
「そのとおりだ。
確かに女子教育についてわが国は
外国に後れを取っておる。
しかし、我輩は今の女子の教育は
その賢母良妻をつくるには十分に
値すると考えるものである。」
あさは、「賢母良妻」と、不満そうに
つぶやく。
大隈はまだ女子の大学校開設は
早すぎやしないかと思うという。
あさは自分の考えを述べた。
自分も賢母良妻にあこがれて
いること。
今は自分の小さいころと違って
女子の教育が普及して
いること。
それらを
ただただうらやましいと
思うばかりだといった。
これで充分だと思った。
しかし・・・
「うちはなんてあほやったんやろと
思います。」
大隈は
「あほ?」
と聞く。
綾子も
「あほ?」と聞いた。
「はい、さながら道の向こうで
小さいころからあこがれていた
宝玉があるかもしれないのに
近くに落ちていたビー玉を拾って
わぁっと喜んで帰ろうとしていたただの
こどもです。
うちは政府が打ち出したおなごはこれで充分
だろうという考えにまるで流されていたんです。
今においても
男子と女子の教育はまるで違って
います。
男子は学ぶ気さえ合ったら
中学校、高校、大学校と
道が開けていますが
おなごはせいぜい
女学校
師範学校しかあらしまへん
しかも、学べる年月は
ずっと短い。
また教科書を見ましても
女学校は婦女の道徳に重きを
おかれ過ぎて
世に出て役に立つ実学が男子に比べて
あまりにも少ない。
はじめから教育の目指すところが
男子は学問
おなごは花嫁修業と
明らかにちごうてしもてんだす!
おなごに学問なんかいらん。
学ぶ場さえ用意していたら
それで充分やろいうそもそもの考えが
今日のおなごの高等教育の
大きい足かせになっているのでございます。
うちは大隈先生のおっしゃる
賢母良妻がおなごの主たる
転職だというお考えに異論は
ありません。
そやけど
そのことのために学ぶことは必要だす。
芸事や実技も大事だすけど
世の中の動きに疎いおなごだけでは
あかん。
賢母良妻になるためにかて
男女の教育に区別をすべきや
あれへんのだす。」
ここまで一気に話をした。
大隈はじっと聞いていた。
すると群衆からあさに忠告がでた。
「キミ、大隈先生に失礼だろ。」
「そうだ、そうだ。」
「いいや、どうか最後まで聞いとくなはれ。
おなごもまた社会の一員となり
生きるすべや
人を助けるすべ
をみにつけ
しあわせを感じ社会のためになること、
これこそがおなごに
高等教育が必要な理由だす。
今すぐにでも100年先を見据えて
大きい目で見て
方針を定めるべきだと」
一気に話したので
空気を吸い過ぎて
咳き込むあさ。
咳き込みながらも
「すんません、これは病や
あらへん。
これを読んでほしいのだす」と
いって成沢の趣意書を出した。
綾子はあさに、お水を飲ませた。
「あんなに息をつかないでお話になる
なんて・・・ほほほほ」
「あなた?」と綾子は大隈に言った。
すると黙っていた大隈は驚きを表しながら
いった。
「いや
これは見事也
見事なプレゼンテーションだった。
反論もしないで聞いていたのは
ひさしぶりだった」という。
「これは驚いた。
今日この館で我輩にあったことより
白岡夫人にあったことが
すばらしいことだ」と
居並ぶ男衆に向かって
大隈は言った。
そして「午前の部はこのくらいに
してお昼にしよう」といった
ので綾子は「承知しました」と
いった、男衆はさっさと
部屋から出て行った。
大隈はあさに言った。
「白岡夫人
あんた・・・
いやぁ~~
大した女の人だであるなぁ。
」
あさは「勢いに任せて政府の
批判などしてすみません」と
いうと
綾子は「いいのではないですか」と
いう。
「この人は今は政府の人では
ありませんし。
あなたの手紙を読んで本当に
楽しみにしていたのですよ。
どんなお顔か
どんなお声かって。」
「あんたの弁舌は愉快だった。
老いも若きも
男も女も
民が学べば
国もそだつ。
しかし男子の教育概念が確立
されていない。女子は後回しだ。
今は大臣でもない我輩だ。
なにもできない。」
あさは学校を作った先輩である
大隈に会えたことが
うれしいといった。
大隈は「爆弾を投げつけられた
我輩だ。あんなに客がいても
本当の味方は一人もいないのかも
しれない。」とつぶやく。
「ほんまですね。事業といい、
政治といい
どこかせち辛いところが
ありますね。
その点、教育は違いますね」
「結局二心がなくこの世に
残せるものは教育しかないだろう」
と大隈は言う
そして
「ああ
白岡君」
「はい?」
「この大隈できる限りの協力をさせて
いただきますぞ。」
「おおきに
おおきに
ありがとうございます。」
あさの行動は実った。
その頃大阪では
千代が休暇で親友の宣とともに
大阪に帰ってきた。
「ここがあさ先生の銀行か~~
りっぱなもんやな~~」
と
宣はいう。
新次郎が出迎えて
「これこれ
おそろいで」といった。
宣は頭を下げた。
***************
あさの行動が大隈の心を揺さぶった。
明治の教育が女子にもこれでよしと
するものだというのが
大隈の見解だった。
しかし、タミが真鍋は国が育つと
いった。
まさしくあさのいうとおりだと
大隈は納得した。
最初は憲吾良妻こそが
女子教育だといっていたのに
この方向転換である。
ほんとうに驚く。
あさの力である。
そのあさの力の及ばない
人が・・・
千代である。
母のことを身近にみていて
いいも悪いもみんな知り尽くして
しかし、母の本心はまだわからない
という反抗期の千代に
なかなかあさの特異なプレゼンは
通じない。
さて・・
今度はどんな騒動になることでしょうか。
