みかんの季節5
その閻魔紙には
ひとりめ
萬谷与左衛門
一番の要注意人物である。
ふたりめ
山屋の与平・・・
このひとは
代替わりがやっとできた。
が、寄合所にもいくことがなくなり
家にいてたら跡取りや奥さんに
邪魔扱いされ
居場所がないのか
一日中加野銀行で油を売っている。
ときには
仕事の邪魔になる。
新次郎は気の毒だと言って
山屋さん宅に遊びに行った。
三人目は
工藤さんである。
一番のお得意様であるが
娘の仕事ぶりが心配なのか
ずっと店にいることが多いらしい。
そして、サカエの様子を見はって
いる。
四人目は
ふやけたわかめという。
名前はわからないが
わかめがふやけたような着物を
きて、おなごの働き手だけ
をじっとみているという。
汚い恰好なのに
眼だけはぎらぎらさせているという。
平十郎が声をかけると
「この銀行は実に生き生きとして
いる。女子がこんなにも
働いているとは。
この指導はだれが」と聞く。
平十郎は
「御用件は?」と聞く。
「融資はこちらで
新規の口座開設はこちらです。」
その男は
「預ける金はありませんといって
出て行った。
あさは、気になるなという。
和歌山では
藍の助が大阪に旅立つときと
なった。
ミカン山の道を一緒あるく
はつと藍の助。
あれこれと忘れ物はないかと
はつがきくが
藍の助は
大丈夫だという。
「船賃は?
お財布は持った?」
「あ、」と
藍の助は荷物の中を見る。
はつは、自分の財布をわたした。
藍の助は
小さく
「ありがとう」といった。
心配そうなはつの顔を見て
藍の助は
「もう、ここでいいから」と
いった。
はつは
「そうやな」といった。
「大きくならなくても
地に足をつけて
しっかり働いたら
それでいい」という。
藍の助は
「おおきに」
といって
さっていった。
その後ろ姿を
はつは
じっと
見送った・
子供の旅立ちは嬉しいが
・・・
こうして
藍の助は
加野銀行で
行員見習いとして
働くことになった。
あさは
通りを子供たちが
兵隊さんごっこで
走り回っているのをみて
日清戦争の盛り上がりを
感じた。
戦にはかかわり合いたくないが
始まれば、盛り上がるのだ。
炭鉱でも同じだ。
景気もいいらしい。
東京では缶詰やがもうかっている。
新次郎の紡績工場では
女工が足りないくらいだという。
この景気の良さは
いつまで続くのか
疑問だとあさはいう。
ところが、
新次郎は
尼崎の紡績会社の
社長を辞めたという。
あさはびっくりした。
この先どうなんだろうと
新次郎は疑問に思った。
「自分がいなくても十分
やっていけれるので。
家業に専念させていただきます。」
そういった。
閻魔紙は、増えて行く。
景気がいいと
加野屋がもうかっていると思って
ずうずうしいことを頼みに
来る客が多いという。
そこへあのふやけたわかめの
青年がやってきた。
「あさに会いたい」という。
平十郎は「いない」といった。
「昨日もそういわれたが
朝五時からずっと店を見張って
いた」と青年が言う。
「そのような人は店から出たのを
みていないので隠して
いるのでは」と
いった。
困難があればあるほど
奮起するタイプだと自分のことを
いって、これで
あきらめたと思わないでほしいと
いった。
身なりが貧しい割には
前向きの人だなと
栄三郎は笑った。
そこへ何も知らないあさが
奥から出てきた。
いつもと変わらない
ブラウスとスカートのいでたちだった。
ちょっとそこまで出かけてくると
いう。
あの恰好だったら
だれもあさだと分からないと
平十郎が言うが
わかめの男は
あさを見つけて
「白岡あささんですね」と
声をかけた。
「わたくし
成沢泉と申します」といって
握手を求めた。
あさは、
「あら
久しぶりの
シェークハンドや」
といって
応じた。
こうして
成沢は
あさと話をするに至った。
そこへ
サカエが
お茶を持ってきた。
「おお、うまい」といって
成沢は
飲み干した。
「ご職業は」とあさが聞く。
「無職です」と答える。
この出会いが
実は運命の出会いだった
のだが・・・
あさにとっては
おかしな男であり
迷惑な男だったのだろう。
*****************
新しい出会いと
悲しい別れが
あった。
ひとつは
成沢泉との出会いと
ひとつは
はつと藍の助の別れだった。
子供はいい。
親の元を旅立つ不安はある。
しかし
それ以上に夢がある。
親は
夢ではなく
不安と寂しさが
ある。
親の親たるゆえんだろう。
この春、
親の元を旅立つ若者が
多いと思う。
感謝と
なお一層の
努力で
親を
安心させてあげてほしい。
何の見返りもなく
わが子を
育て
慈しみ
大きくして
世の中に出していく
尊い親の心である。
どうか
そんな気持ちを
大切に受け取って
いつの日か
返してあげてほしいと
思う。
その閻魔紙には
ひとりめ
萬谷与左衛門
一番の要注意人物である。
ふたりめ
山屋の与平・・・
このひとは
代替わりがやっとできた。
が、寄合所にもいくことがなくなり
家にいてたら跡取りや奥さんに
邪魔扱いされ
居場所がないのか
一日中加野銀行で油を売っている。
ときには
仕事の邪魔になる。
新次郎は気の毒だと言って
山屋さん宅に遊びに行った。
三人目は
工藤さんである。
一番のお得意様であるが
娘の仕事ぶりが心配なのか
ずっと店にいることが多いらしい。
そして、サカエの様子を見はって
いる。
四人目は
ふやけたわかめという。
名前はわからないが
わかめがふやけたような着物を
きて、おなごの働き手だけ
をじっとみているという。
汚い恰好なのに
眼だけはぎらぎらさせているという。
平十郎が声をかけると
「この銀行は実に生き生きとして
いる。女子がこんなにも
働いているとは。
この指導はだれが」と聞く。
平十郎は
「御用件は?」と聞く。
「融資はこちらで
新規の口座開設はこちらです。」
その男は
「預ける金はありませんといって
出て行った。
あさは、気になるなという。
和歌山では
藍の助が大阪に旅立つときと
なった。
ミカン山の道を一緒あるく
はつと藍の助。
あれこれと忘れ物はないかと
はつがきくが
藍の助は
大丈夫だという。
「船賃は?
お財布は持った?」
「あ、」と
藍の助は荷物の中を見る。
はつは、自分の財布をわたした。
藍の助は
小さく
「ありがとう」といった。
心配そうなはつの顔を見て
藍の助は
「もう、ここでいいから」と
いった。
はつは
「そうやな」といった。
「大きくならなくても
地に足をつけて
しっかり働いたら
それでいい」という。
藍の助は
「おおきに」
といって
さっていった。
その後ろ姿を
はつは
じっと
見送った・
子供の旅立ちは嬉しいが
・・・
こうして
藍の助は
加野銀行で
行員見習いとして
働くことになった。
あさは
通りを子供たちが
兵隊さんごっこで
走り回っているのをみて
日清戦争の盛り上がりを
感じた。
戦にはかかわり合いたくないが
始まれば、盛り上がるのだ。
炭鉱でも同じだ。
景気もいいらしい。
東京では缶詰やがもうかっている。
新次郎の紡績工場では
女工が足りないくらいだという。
この景気の良さは
いつまで続くのか
疑問だとあさはいう。
ところが、
新次郎は
尼崎の紡績会社の
社長を辞めたという。
あさはびっくりした。
この先どうなんだろうと
新次郎は疑問に思った。
「自分がいなくても十分
やっていけれるので。
家業に専念させていただきます。」
そういった。
閻魔紙は、増えて行く。
景気がいいと
加野屋がもうかっていると思って
ずうずうしいことを頼みに
来る客が多いという。
そこへあのふやけたわかめの
青年がやってきた。
「あさに会いたい」という。
平十郎は「いない」といった。
「昨日もそういわれたが
朝五時からずっと店を見張って
いた」と青年が言う。
「そのような人は店から出たのを
みていないので隠して
いるのでは」と
いった。
困難があればあるほど
奮起するタイプだと自分のことを
いって、これで
あきらめたと思わないでほしいと
いった。
身なりが貧しい割には
前向きの人だなと
栄三郎は笑った。
そこへ何も知らないあさが
奥から出てきた。
いつもと変わらない
ブラウスとスカートのいでたちだった。
ちょっとそこまで出かけてくると
いう。
あの恰好だったら
だれもあさだと分からないと
平十郎が言うが
わかめの男は
あさを見つけて
「白岡あささんですね」と
声をかけた。
「わたくし
成沢泉と申します」といって
握手を求めた。
あさは、
「あら
久しぶりの
シェークハンドや」
といって
応じた。
こうして
成沢は
あさと話をするに至った。
そこへ
サカエが
お茶を持ってきた。
「おお、うまい」といって
成沢は
飲み干した。
「ご職業は」とあさが聞く。
「無職です」と答える。
この出会いが
実は運命の出会いだった
のだが・・・
あさにとっては
おかしな男であり
迷惑な男だったのだろう。
*****************
新しい出会いと
悲しい別れが
あった。
ひとつは
成沢泉との出会いと
ひとつは
はつと藍の助の別れだった。
子供はいい。
親の元を旅立つ不安はある。
しかし
それ以上に夢がある。
親は
夢ではなく
不安と寂しさが
ある。
親の親たるゆえんだろう。
この春、
親の元を旅立つ若者が
多いと思う。
感謝と
なお一層の
努力で
親を
安心させてあげてほしい。
何の見返りもなく
わが子を
育て
慈しみ
大きくして
世の中に出していく
尊い親の心である。
どうか
そんな気持ちを
大切に受け取って
いつの日か
返してあげてほしいと
思う。
