みかんの季節4
千代がみた同室の宣の
机の前には
巴御前のイラストと
白岡あさの特集の雑誌記事の
切り抜きが貼られてあった。
どうやら、宣の尊敬するひとは
巴御前と
白岡あさらしい。
宣はあさをあさ先生と呼んだ。

あっけにとられる千代に
宣はあさについて話を始めた。

千代が「聞きたくもない」というのに
勝手に話しを始めるのである。

「この人はあのご一新の大変な
時代に傾きかけた両替屋を
盛り立てた神様のような人だ」と
いう。

千代は、驚いた。

「(あの母が)神様???」

「この加野屋という両替屋が
最悪で
三味線や謡三昧の趣味人の
旦那さんとまだまだ幼い跡取りだった」
という。
「そこに男顔まけのあさがやって
きて旦那たちを追いやって
店を取り仕切り始め
たんやて。

ホンマに肝のすわった
お方で鉱山へ行くときは
拳銃を持っていて
働かけん男は
これでといって
ずどーんやて。
そのがんばりで
とうとう勢いを
取り戻したのが
あの大阪の加野銀行や。
商社まで手を広げて
おんなだてらに
頭取になってはるのやて。
座右の銘は七転び八起き。
それに常に優雅に洋服を着て
・・・・・」

千代は、宣のことばを
制していった。

「あのなぁ!!
なに威張って言うてんのか
わかりまへんけど

そのあさ先生というひとは
ちょっとも
そないなおなごでは
あらしまへん。」

そこへ、大阪からよのの
お付の女中かのと
うめがやってきた。
大阪と京都には
汽車が走っていて
便利になったと
話をしていた。

どうやら、よのは年のせいか
足が悪くて来られなかった
らしい。
千代のためにつくった
着物をかのに託したという。

ふたりは、部屋の中から聞こえる
声にはっとした。
千代の声だった。

「あんたの話はみんな
でたらめだす!」

「はぁ?でたらめやて??」

ふたりは、千代の声がした
部屋をのぞいた。

どこがでたらめかというと
「頭取は
あさ先生ではなく
八代目加野屋久左衛門
白岡栄三郎だす。
それに、加野商店の社長は
その兄の白岡新次郎。
二人とも頼りないどころか
大阪実業界の顔だす。

それにあさ先生と言う人は
一度ピストルを暴発させた
ことがあるので
一生ピストルは持たないと
言うてはりました。」

宣は驚いて自分が読んだ
本にはそう書いてなかったと
いいかけた。

千代は怒りにまかせて
「うちは子の耳で聞いています。
それに

洋服を着こなすと言っても
たまに写真を撮るときだけ
だす。
普段は化粧もせんと
スカートバサバサさせながら
銀行の中を大股で
歩いている。
髪の毛も髪結いさんへいかずに
じぶんでくるくるっと
まるめて
かんざしをぶすっと刺した
まま。

優雅どころかずぼらそのもの
だす。
座右の銘も七転び八起きどころか
九転び十起きだす。」

宣は・・・厳しい顔になって
千代に聞く。

「あなた名前は何?
ひょっとしたら
ただのあほで不真面目な女
ではないのと違う?
着物しか興味のない顔をして
そんなにいろんなことをしって
いるやなんて・・・」

「あんたこそ、いつも何を読んで学を
積んでいるのかしらへんけど
頭でっかちにならずにこんどからは
その眼で見たものを信じたほうがいい」と

千代はきつく言って
部屋を出た。


「なんでうちはこんなにむきに
なっているのだろう」と

つぶやいて
去って行った。

その様子を見たかのとうめは
あの声は
あさそっくりだと言って
わらった。


宣は
千代を追いかけた。

「九転び十起きって
何という名言!!!」

和歌山ではあさが靴ひもを結んでいた。
今日ははつの家を出て
大阪へ帰る日だった。

あさは、養の助にいった。

「あんたもしっかりな。
兵隊へ行ったらご飯がたくさん
食べれるというが
大事なのは家族だといった。
いつも藍の助と比べられて
腐っているかもしれないけど
あんたには
いいところはあるし。」
といった。

新次郎がやってきて
帰る様子となった。

はつは、これもらってといって
洋装のドレスの肩にかける
小さなコートを
作ってくれていた。
それをかけると
くびから肩から
あたたかい。

はつがいつの間に造ったのかと
あさはびっくりした。

はつは、洋服はあまりわからない
のでというが
あさは、温かさに喜んだ。

はつは、あさに感謝をいおうとして
口ごもったが
あさはそれを遮った。

「あのな、おねえちゃん
うちの千代はおねえちゃんみたいに
なりたいんやて・・」といった。


新次郎は藍の助に
「まってるで」といって
眉山家をさった。

帰り道
新次郎は
本当は自分がゆっくりしたかった
という。
あさは、新次郎に感謝しながら
もう一泊しましょうと
いった。
温泉へ行こうといい
ふたりで竜神へいくことに
した。

こうして
ふたりきりで
旅を満喫して
大阪に帰ってきた。

どうやら千代も帰っている
らしい。

みかんをもって千代の部屋に
いったが
千代はいない。

「いてへんの?」
と入ったら
千代がやってきて
「勝手に入らないで」という。

あさは、「おかえり」といった。
千代は「ただいま」といって
みかんを受け取った。
「また随筆の依頼が来たので
国語の教科書を
貸してほしい」とあさは
いう。

「ちゃんとしたことを書いて
な、誰が読んでいるのか
わからないから」と千代が
いうと
あさは・・・
「???」

とおかしな顔をした。

千代は「何でもない」といった。

国語の教科書を
めくると
いい奥さんとは
山内一豊の妻だと
かいてあった。

良妻賢母の見本だと
千代は言った。

こう言う人がいい奥さん
というのかと、あさは
つぶやく。

千代は自分の友達は
巴御前がいいという
変わり者だと話した。

あさは、何気に聞いていたが

千代に女学校の友達
がいることが
わかって、大喜びを
した。そして
そのこのことを教えてほしいと
千代にいった。

翌日
店に酔っぱらいの客が来た。

新次郎は「人相が変わっているけど
あれは
萬谷さんだ」という。

自分の人生がかかっている
いい儲け話がやってきた
ので
金を貸してくれと
新次郎に言った。

しかし、アル中ゆえに
お茶をひっくり返して
大騒ぎとなった。

「酒をくれ
酒があれば大丈夫だ」と
いうと

あさは、「うちは銀行だす。
お酒は置いていません」といった。

「またおまえか」と
腐る萬谷だった。

自分はこれから新しい
儲け話の
事業をする。
元手がいるので
それを応援するのが
銀行だから
金を貸してくれと
いう。

あさは、それは信用があって
事業に伸びる希望があって
返済もできる可能性がある
場合に、お金を
用立てできるので
いまの萬谷さんにはそれは
無理だろうから
お金を貸すことができない
といった。

萬谷は「おなごは黙ってろ」と
叫ぶ。

あさが、「萬谷さんには
丁重にお帰りになってもらって
下さい」と店の者にいったために
つまみ出された。

そのさい、
「おれはお前のことを絶対ゆるさへん
からな」と萬谷はいった。

平十郎は
「だれがあの人を
店に通したのだ?
来たら困る人の名前をかいて
いる閻魔紙はどうした」と
みんなにいった。
銀行では
閻魔紙を
そっと机の恥に
はっているのだった。

あさは、閻魔紙をみて
「これは便利だすな」と
いうが

その名前を顔のイラスト
いりの閻魔紙には

「え?」

と思うほどの
意外な人の名前が書いて
あった。
***************
ほんまに・・・

感想がなかなか描けずに
たまりにたまって
います・・・

笑うしかないですね・・・

千代は母や華族のことを
正しく理解していない
宣が気になったことに
自分で驚いたのでは
ないでしょうか。

いつもは勝手な母を
非難する側だけど
宣が、まちがった記述を
信じているので
ムカッとしたのかも知れま
せん。

たしかに
活字をうのみにしてはいけないと
思います。
自分の目で耳で確かめることが
一番大事なことだと
思います。