ようこそ銀行へ3
新次郎とあさは千代の進路を
考えていた。
あさは、千代にゆくゆく加野銀行で
一緒に働いてほしいと
思っているが
藍の助いうように勝手な
思いだとわかっている。
それで、千代には女学校へ
いって欲しいと
いった。
たくさん学ぶことは
千代にとってこれからの人生
いろんな方向を選択する
チケット(切符)になるはずと
いって、コレクションの
鉄道切符を
新次郎に見せた。
進路ということばの
持つ意味を
あさは考えた。
港があって船がたくさん並んでいる。
今までのおなごの道といえば
お嫁さんになって家を守るか
家業を手伝うか。
芸で身を立てるか
女中奉公ぐらいだった。
今は
家にいて働くばかりの昔とは
違うとあさはいう。
「その船は海に出て
どこへ進むのですやろ?」
「たとえばですが
東京にできた官立の
音楽学校に入ったら
音楽家になる。
師範学校へ行ったら
先生になれる
勉強して
医術試験に合格したら
医者になれるかも
ほかにも・・・看護婦
・・・」
などなどと話をする夫婦の様子を
うめはみていた。
「また、あさの様子がけったいだ」と
千代に言った。
藍の助がきた。
うめはじっと話を聞いて
いた。
あさは、より多くの力をもって
進路の選択をするためには
高等女学校は出たほうが
いいと
いう。
新次郎はなっとくした。
文明開化で時代は変わって
おなごでも仕事を持つことが
できる時代となった。
おなごに向いている仕事だって
あるはずだと
あさはいう。
千代は
顔をしかめてその話を聞いていた。
それほど、多くの選択肢をもって
いる今の時代を
夢のように語るあさに
千代は
口をはさんだ。
「それはお母ちゃんの夢だすやろ!!!」
夫婦ははっとした。
「うちはそんなチケットいりません。
女学校に行く気になどないし
家の仕事もしない」という。
千代は怒って出て行ったので
新次郎はここは自分が話をすると
あさにいう。
「しかし、そんなチケットのない時代の
あさがよく舟を出しましたなと
新次郎が言う。
難破船にならんでよかったな」と
いってでていった。
あさは、「うちが難破船??」
と、驚いた。
うめは
あさに「女だてらに
こぎ出す舟が難破船にならなかった
のは、先代の正吉や新次郎さん
今井のご両親やたくさんの方の導きが
あってのことだ」といった。
あさは、「そうだ」と思って
神棚に手を合わせて
「お父様
五代さま
ようけのお人たち
ホンマ助けてくださって
ありがとうございます。」
千代はおこった。
いまどき
高等小学校を出て学ぶひとなど
ほとんどいないと
いった。
男も進学するのは
20人に一人いるかいないか
の時代である。
藍の助はその20人になりたかったと
いった。
田舎では高等小学校をでただけでも
結構な学歴になる。
しかし、せわになっている
庄屋の息子が高等小学校を
でて
中学に行き
東京の学校へ行った、という。
藍の助はそれがホンマに
うらやましかった。
千代はそれは藍の助が
男だからだという。
「おなごが孔子だの孟子だの、
まなんだからといって
屁理屈ばっかりいうと嫌われる。うちは
おなごだから花嫁修業したいです。
ええお嫁さんに
ええおかあちゃんになりたい。」
藍の助は
「そうかな。
僕はおかあちゃんでも
孔子だの孟子だのの話ができたら
楽しいと思うよ」という。
そして、持ち場に帰った。
千代は藍の助のことを
少し年上だからって
えらそうにというが
新次郎は藍の助の立場を千代に
説明した。
進学したくてもできなかったという
ことだった。
その夜、千代はよのの部屋に行った。
「お祖母ちゃん
一緒に寝ていい?」
そういって寝床に潜り込んだ。
「うちのお母ちゃんて
殿方に好かれるような人ではない
よね」という。
しかし、新次郎とは仲がいい。
よのは、あさは正吉とも
仲が良かったという。
正吉はあさをホンマの
娘みたいに大事に
していたと話した。
あさは夢を見ていた。
あの日、奈良の玉利がいった。
「あんた、五日日本一の女商人
になるで・・・」
そしてあの日福沢がいった。
「あなたはいつか、おなごの社長に
なりなさい。」
あさは、夢にうなされた。
新次郎が
「難破船にならなくてよかったな。」
という。
うめが
「おあさ様みたいに
女だてらに
自由勝手に漕ぎ出す舟なんか
いつ難破船になって海の底に沈んでも
おかしくなかったんです。」
あさは、
「あああああ!!!」
と言って起きた。
新次郎はびっくりした。
あさは自分が
難破船になる夢を見たという。
「これからうちの船は
どこへ行ったらいいのだろう?」
そういって、「おやすみなさい」と
いって
寝た。
藍の助はよく働く。
見込みがある。
しかし肝心の
千代は働きたいと何故言わないのかと
あさはつぶやく。
「おおきに、ありがとうございました」
と、丁稚が抜けたような声で
いうと
あさは、その抜けた挨拶にダメ出しをした。
「さっきの客はこまかくお金を
崩すばかりだった」と丁稚はいう。
「人様のお金を扱っているのだから
丁寧に」と
あさはいった。
そこへ工藤がきた。
大口の客である。
「頭取にお願いがあってきた」という。
「どこぞにええ縁談はないかと
思って」というのだ。
そのころ
和歌山では
あさの手紙がはつに届いた。
藍の助は加野屋にいるというのが
わかった。
惣兵衛は、顔を曇らすはつに
「そんな顔をするな、
あいつの話をきちんと聞いて
やらなかった我々が
悪いんだから」というが・・
はつは
厳しい顔を崩さない。
******************
どこの家でも子供と
親の対立はある。
千代に至っては
たしかに、大人たちの
あさは変わっているとか
あさには、ひげが生えているとか
あさは家のことを何もしないとか
陰口をききながら
育ったものだろうが
一方では、きっといつでも自分の
相手をしてほしかったのだろうと
寂しく思っていたのだろうと
思う。
が・・
もう、千代も年頃で
理屈も通じない。
藍の助にいたっては
男のことなので
もっと
はつには深刻なのだろうと
思った。
新次郎とあさは千代の進路を
考えていた。
あさは、千代にゆくゆく加野銀行で
一緒に働いてほしいと
思っているが
藍の助いうように勝手な
思いだとわかっている。
それで、千代には女学校へ
いって欲しいと
いった。
たくさん学ぶことは
千代にとってこれからの人生
いろんな方向を選択する
チケット(切符)になるはずと
いって、コレクションの
鉄道切符を
新次郎に見せた。
進路ということばの
持つ意味を
あさは考えた。
港があって船がたくさん並んでいる。
今までのおなごの道といえば
お嫁さんになって家を守るか
家業を手伝うか。
芸で身を立てるか
女中奉公ぐらいだった。
今は
家にいて働くばかりの昔とは
違うとあさはいう。
「その船は海に出て
どこへ進むのですやろ?」
「たとえばですが
東京にできた官立の
音楽学校に入ったら
音楽家になる。
師範学校へ行ったら
先生になれる
勉強して
医術試験に合格したら
医者になれるかも
ほかにも・・・看護婦
・・・」
などなどと話をする夫婦の様子を
うめはみていた。
「また、あさの様子がけったいだ」と
千代に言った。
藍の助がきた。
うめはじっと話を聞いて
いた。
あさは、より多くの力をもって
進路の選択をするためには
高等女学校は出たほうが
いいと
いう。
新次郎はなっとくした。
文明開化で時代は変わって
おなごでも仕事を持つことが
できる時代となった。
おなごに向いている仕事だって
あるはずだと
あさはいう。
千代は
顔をしかめてその話を聞いていた。
それほど、多くの選択肢をもって
いる今の時代を
夢のように語るあさに
千代は
口をはさんだ。
「それはお母ちゃんの夢だすやろ!!!」
夫婦ははっとした。
「うちはそんなチケットいりません。
女学校に行く気になどないし
家の仕事もしない」という。
千代は怒って出て行ったので
新次郎はここは自分が話をすると
あさにいう。
「しかし、そんなチケットのない時代の
あさがよく舟を出しましたなと
新次郎が言う。
難破船にならんでよかったな」と
いってでていった。
あさは、「うちが難破船??」
と、驚いた。
うめは
あさに「女だてらに
こぎ出す舟が難破船にならなかった
のは、先代の正吉や新次郎さん
今井のご両親やたくさんの方の導きが
あってのことだ」といった。
あさは、「そうだ」と思って
神棚に手を合わせて
「お父様
五代さま
ようけのお人たち
ホンマ助けてくださって
ありがとうございます。」
千代はおこった。
いまどき
高等小学校を出て学ぶひとなど
ほとんどいないと
いった。
男も進学するのは
20人に一人いるかいないか
の時代である。
藍の助はその20人になりたかったと
いった。
田舎では高等小学校をでただけでも
結構な学歴になる。
しかし、せわになっている
庄屋の息子が高等小学校を
でて
中学に行き
東京の学校へ行った、という。
藍の助はそれがホンマに
うらやましかった。
千代はそれは藍の助が
男だからだという。
「おなごが孔子だの孟子だの、
まなんだからといって
屁理屈ばっかりいうと嫌われる。うちは
おなごだから花嫁修業したいです。
ええお嫁さんに
ええおかあちゃんになりたい。」
藍の助は
「そうかな。
僕はおかあちゃんでも
孔子だの孟子だのの話ができたら
楽しいと思うよ」という。
そして、持ち場に帰った。
千代は藍の助のことを
少し年上だからって
えらそうにというが
新次郎は藍の助の立場を千代に
説明した。
進学したくてもできなかったという
ことだった。
その夜、千代はよのの部屋に行った。
「お祖母ちゃん
一緒に寝ていい?」
そういって寝床に潜り込んだ。
「うちのお母ちゃんて
殿方に好かれるような人ではない
よね」という。
しかし、新次郎とは仲がいい。
よのは、あさは正吉とも
仲が良かったという。
正吉はあさをホンマの
娘みたいに大事に
していたと話した。
あさは夢を見ていた。
あの日、奈良の玉利がいった。
「あんた、五日日本一の女商人
になるで・・・」
そしてあの日福沢がいった。
「あなたはいつか、おなごの社長に
なりなさい。」
あさは、夢にうなされた。
新次郎が
「難破船にならなくてよかったな。」
という。
うめが
「おあさ様みたいに
女だてらに
自由勝手に漕ぎ出す舟なんか
いつ難破船になって海の底に沈んでも
おかしくなかったんです。」
あさは、
「あああああ!!!」
と言って起きた。
新次郎はびっくりした。
あさは自分が
難破船になる夢を見たという。
「これからうちの船は
どこへ行ったらいいのだろう?」
そういって、「おやすみなさい」と
いって
寝た。
藍の助はよく働く。
見込みがある。
しかし肝心の
千代は働きたいと何故言わないのかと
あさはつぶやく。
「おおきに、ありがとうございました」
と、丁稚が抜けたような声で
いうと
あさは、その抜けた挨拶にダメ出しをした。
「さっきの客はこまかくお金を
崩すばかりだった」と丁稚はいう。
「人様のお金を扱っているのだから
丁寧に」と
あさはいった。
そこへ工藤がきた。
大口の客である。
「頭取にお願いがあってきた」という。
「どこぞにええ縁談はないかと
思って」というのだ。
そのころ
和歌山では
あさの手紙がはつに届いた。
藍の助は加野屋にいるというのが
わかった。
惣兵衛は、顔を曇らすはつに
「そんな顔をするな、
あいつの話をきちんと聞いて
やらなかった我々が
悪いんだから」というが・・
はつは
厳しい顔を崩さない。
******************
どこの家でも子供と
親の対立はある。
千代に至っては
たしかに、大人たちの
あさは変わっているとか
あさには、ひげが生えているとか
あさは家のことを何もしないとか
陰口をききながら
育ったものだろうが
一方では、きっといつでも自分の
相手をしてほしかったのだろうと
寂しく思っていたのだろうと
思う。
が・・
もう、千代も年頃で
理屈も通じない。
藍の助にいたっては
男のことなので
もっと
はつには深刻なのだろうと
思った。
