最後の御奉公6
いよいよ、銀行の開業の日。
明治21年加野屋の朝だった。
新次郎と千代は
あさの恰好を見て
びっくりした。
洋装で、ドレスを着ている。
これがなかなか
かっこういいです。
きりっとして見えます。
「いつまでも、あそこの奥さん
関取みたいやとか
髭が生えているとか
言われているわけにはいかない」と
あさは、信用されなくなったら
あかんからといって
千代がいつもいっているように
化粧もしたという。
「似合っている?」と聞くと
千代は
「ぜんぜんにあってない」と
いって逃げて行った。
新次郎は
「錦絵の貴婦人みたいや」と
いう。
あさは、「もう、そんな甘いことを
いってくれるのは旦那様だけです」と
いいながら、「これって・・・
歩きやすいですよ」と
そこいらを大股で歩きまわった。
新次郎も
一緒に歩き回った。
さっそうと
大股で店に現れたあさ。
みんな、「ほほーーー」
と感心した。
こうして、加野銀行の開店式と
なった。
よのは千代に
金魚売がとおったので
金魚を買ったという。
いつぞや、千代は金魚が欲しいと
あさにねだったが
「いまはうるおっていても
いつまだ
傾くかわからないので
加野屋の娘がぜいたくしたら
あきまへん」といったという。
よのは「自分の若いときは
大店の娘はきれいにきかざって
なんぼやと言われていたのに
今は違うのか」と
いう。
千代はさっきから見ていた
雁助に気が付き
「どこかに旅に出かけるのですか」と
きく。
雁助は
「はい」といいながら
「千代さんはお母さんが苦手ですか」と
聞いた。
「へ?と千代が驚くと
雁助は自分はあさが苦手だったと
いう。
「ずっとにがてだした。
でも、どこか楽しかった」と
いう。
「お母様の働いている姿を
よく見ていなはれや」という。
そして雁助は出て行った。
店の表は加野銀行とある、
雁助は店に
ふかぶかと
おじきをして
姿を消した。
あさの事は新聞に載った。
渋沢は
「ご婦人が銀行をつくる
時代になったとは、な」と
いった。
和歌山のはつたちも、その新聞を
みて、喜んだ。
あさたちは、銀行の神様
の話の通り
あらゆる努力をした。
客のもとに自ら出向いて
いったり、
応対にも工夫をした。
美和の店では
栄三郎と平十郎と
あさで話をしていた。
あさは、教場を作りたいと
いう。
加野銀行や加野屋で働く
みんなが仕事を終えてから
商いについて学べるところを
作れたらという。
先生は平十郎や、その筋の人を
呼んでくるという。
栄三郎は小さい時から父から
ならったことが
役に立っているという。
あさは、月謝を取らずに
費用は会社で負担をするという。
「けちけちしないで
きっと何倍にもなって
店に帰ってきます。」
栄十郎と
栄三郎は賛成して
先に帰って行った。
美和は、「今女子教育が
必要とかで政府も
その奨励会を作っている」と
あさにいった。
そして、女学校が
どんどんできているという。
新次郎は忙しいようで
なかなか家にいない。
謡の旦那様方が作る会社とは
なにかと思って見に行ったら
また新次郎がその会社の
社長になるという。
新次郎には既に信用が
備わっている。
うらやましいと
あさは、笑った。
珍しいお菓子があると言って
美和は店の奥に入っていった。
店の隅にいた
一組の男女の話声がきこえて
きた。
女性は男性の妻らしく
男性が仕事を辞めたというので
怒っている。
学校の校長をして
牧師の仕事をしている男性は
「其れだと自分の時間が無くなる」と
いって言い訳をする。
そこに新島譲の
名前も出た。
何者だろうか?
そのうちにこの人の正体が
わかるだろうと思う。
そして男性はアメリカに留学をすると
いった。
その男性は婦女子のための教育に
ついて考えているらしく
夢を実現するために
勉強をしたいと言った。
パクパクと食事をする男性を見て
あさは、「気持ちのいい食べっぷり
やこと」といって感心した。
あさとこの男性は数年後にあうこと
になる。
銀行ができて三年後となった。
加野銀行は大阪で10本の指になるほど
大きくなり
別会社の商事会社も経営は
順調に進んでいた。
栄三郎とさちの夫婦にも女の子ができた。
そして店の近くに住んだ。
よのは、そちらにいかずに
千代が心配なので
ここにいるといった。
千代とあさは
仲が悪いのである。
新次郎は
大阪財界の顔になった。
あさは銀行はもちろん
九州の炭鉱にも出向いて
いった。
よくはたらく奥様である。
世間の人たちは
あさをほめまくった。
しかし千代は
反発をする。
あんなおなごは
どこがいいのかと
千代は言う。
「同じおなごとして
あんなおなごにはなりたくない」と
いった。
それを聞いたあさは
「それはよろしいな。
千代がどんなおなごはんになるのか
楽しみでたまりまへんわ」といった。
よのは、「またはじまりました」と
いう。
新次郎も
間に入るが
どうにもならない。
娘と母の対立は続く。
*******************
こうして、新しい時代がまた
はじまった。
女性の手による銀行である。
あさは、ドレスに身を包み
さっそうと大阪の街を
あるく。
もともと大股で歩くという
ことでよく注意をされていた
が、洋装になると
大股で歩くほうが
かっこよく来まる。
まさにあさにうってつけの
恰好だった。
千代はそれでもあさを
尊敬に値しないと
いう。
いろんな部分で
他の家の母親と違う
ことに、
また、世間でいう所の
普通の女性ではないことに
反発をする。
ひっくり返せば
それは
あさに対する嫉妬である。
あんな生き方はできないと
いう敗北感である。
それを素直に認めたら
きっと
理解しあえると
思った。
いよいよ、銀行の開業の日。
明治21年加野屋の朝だった。
新次郎と千代は
あさの恰好を見て
びっくりした。
洋装で、ドレスを着ている。
これがなかなか
かっこういいです。
きりっとして見えます。
「いつまでも、あそこの奥さん
関取みたいやとか
髭が生えているとか
言われているわけにはいかない」と
あさは、信用されなくなったら
あかんからといって
千代がいつもいっているように
化粧もしたという。
「似合っている?」と聞くと
千代は
「ぜんぜんにあってない」と
いって逃げて行った。
新次郎は
「錦絵の貴婦人みたいや」と
いう。
あさは、「もう、そんな甘いことを
いってくれるのは旦那様だけです」と
いいながら、「これって・・・
歩きやすいですよ」と
そこいらを大股で歩きまわった。
新次郎も
一緒に歩き回った。
さっそうと
大股で店に現れたあさ。
みんな、「ほほーーー」
と感心した。
こうして、加野銀行の開店式と
なった。
よのは千代に
金魚売がとおったので
金魚を買ったという。
いつぞや、千代は金魚が欲しいと
あさにねだったが
「いまはうるおっていても
いつまだ
傾くかわからないので
加野屋の娘がぜいたくしたら
あきまへん」といったという。
よのは「自分の若いときは
大店の娘はきれいにきかざって
なんぼやと言われていたのに
今は違うのか」と
いう。
千代はさっきから見ていた
雁助に気が付き
「どこかに旅に出かけるのですか」と
きく。
雁助は
「はい」といいながら
「千代さんはお母さんが苦手ですか」と
聞いた。
「へ?と千代が驚くと
雁助は自分はあさが苦手だったと
いう。
「ずっとにがてだした。
でも、どこか楽しかった」と
いう。
「お母様の働いている姿を
よく見ていなはれや」という。
そして雁助は出て行った。
店の表は加野銀行とある、
雁助は店に
ふかぶかと
おじきをして
姿を消した。
あさの事は新聞に載った。
渋沢は
「ご婦人が銀行をつくる
時代になったとは、な」と
いった。
和歌山のはつたちも、その新聞を
みて、喜んだ。
あさたちは、銀行の神様
の話の通り
あらゆる努力をした。
客のもとに自ら出向いて
いったり、
応対にも工夫をした。
美和の店では
栄三郎と平十郎と
あさで話をしていた。
あさは、教場を作りたいと
いう。
加野銀行や加野屋で働く
みんなが仕事を終えてから
商いについて学べるところを
作れたらという。
先生は平十郎や、その筋の人を
呼んでくるという。
栄三郎は小さい時から父から
ならったことが
役に立っているという。
あさは、月謝を取らずに
費用は会社で負担をするという。
「けちけちしないで
きっと何倍にもなって
店に帰ってきます。」
栄十郎と
栄三郎は賛成して
先に帰って行った。
美和は、「今女子教育が
必要とかで政府も
その奨励会を作っている」と
あさにいった。
そして、女学校が
どんどんできているという。
新次郎は忙しいようで
なかなか家にいない。
謡の旦那様方が作る会社とは
なにかと思って見に行ったら
また新次郎がその会社の
社長になるという。
新次郎には既に信用が
備わっている。
うらやましいと
あさは、笑った。
珍しいお菓子があると言って
美和は店の奥に入っていった。
店の隅にいた
一組の男女の話声がきこえて
きた。
女性は男性の妻らしく
男性が仕事を辞めたというので
怒っている。
学校の校長をして
牧師の仕事をしている男性は
「其れだと自分の時間が無くなる」と
いって言い訳をする。
そこに新島譲の
名前も出た。
何者だろうか?
そのうちにこの人の正体が
わかるだろうと思う。
そして男性はアメリカに留学をすると
いった。
その男性は婦女子のための教育に
ついて考えているらしく
夢を実現するために
勉強をしたいと言った。
パクパクと食事をする男性を見て
あさは、「気持ちのいい食べっぷり
やこと」といって感心した。
あさとこの男性は数年後にあうこと
になる。
銀行ができて三年後となった。
加野銀行は大阪で10本の指になるほど
大きくなり
別会社の商事会社も経営は
順調に進んでいた。
栄三郎とさちの夫婦にも女の子ができた。
そして店の近くに住んだ。
よのは、そちらにいかずに
千代が心配なので
ここにいるといった。
千代とあさは
仲が悪いのである。
新次郎は
大阪財界の顔になった。
あさは銀行はもちろん
九州の炭鉱にも出向いて
いった。
よくはたらく奥様である。
世間の人たちは
あさをほめまくった。
しかし千代は
反発をする。
あんなおなごは
どこがいいのかと
千代は言う。
「同じおなごとして
あんなおなごにはなりたくない」と
いった。
それを聞いたあさは
「それはよろしいな。
千代がどんなおなごはんになるのか
楽しみでたまりまへんわ」といった。
よのは、「またはじまりました」と
いう。
新次郎も
間に入るが
どうにもならない。
娘と母の対立は続く。
*******************
こうして、新しい時代がまた
はじまった。
女性の手による銀行である。
あさは、ドレスに身を包み
さっそうと大阪の街を
あるく。
もともと大股で歩くという
ことでよく注意をされていた
が、洋装になると
大股で歩くほうが
かっこよく来まる。
まさにあさにうってつけの
恰好だった。
千代はそれでもあさを
尊敬に値しないと
いう。
いろんな部分で
他の家の母親と違う
ことに、
また、世間でいう所の
普通の女性ではないことに
反発をする。
ひっくり返せば
それは
あさに対する嫉妬である。
あんな生き方はできないと
いう敗北感である。
それを素直に認めたら
きっと
理解しあえると
思った。
