最後の御奉公3
早朝のある日
あさは、ふと
雁助が野良猫をひろって
台所で
うめに餌をもらっている
のをみた。

そして、雁助がうめに言っていた
ことば、自分と一緒に
この家を出ないかと
いったことを
思い出した。

銀行に先駆けて
加野屋は炭鉱部門を中心と
して加野商店の営業を
勧めて行った。

炭鉱で売り上げはよくあがった。
出炭量は今までの5倍と
なった。

あさはペンギンの絵を見る。
『加野屋にはあなたというファースト
ペンギンがいてた・・
恐れを見せず前を
歩むものが!』
五代の言葉を思い出す。

そして大阪の発展を
いつも願っていた五代の
心をついで、大阪港の
発展に3500円という
大金を寄付した。

いよいよ銀行が来年開業する
はこびとなった。
あさは、役所への届けなどで
多くの書類を用意した。

山崎平十郎にそれを
見てもらうと
まだまだこれからだと
いった。
つまり、銀行は開いただけでは
だめで
客の預金高を
集めることや
貸し出しの融資先を
探すこと
そして、多くの株式や
債権
田銀行への為替の
用意などへの
手を打っていかなければならない。

あさは、闘志を燃やした。

山崎はこうなると「へぇ」だけでは
なく、よくしゃべる。
新次郎はそれをみて
「竹屋の火事」といった。

その心は・・・
「ぽんぽんいうてる」という。

「そんないうなら
私の言葉なんか
やもめの行水ですわ」と
山崎は言った。

その心は???

「勝手に
湯・・・とれ


いいましてね・・。」

あさは、この会話には
ついていけないと
いった。

それから
新次郎とあさ
千代は
東京へ行った。

あさの父の
今井忠興の祝賀会に
招待されたからだ。

銀行の祝賀会というと
おおきな集まりだろうなと
留守番の白岡家は
そんな話をした。

いまや、今井は御一新いらい
独り勝ちと言われている。

栄三郎は
あさが、自分のことを
頭はいいし
商売熱心やし
自分の弟の
久太郎と比べたら
まったく違う。
立派やといったが

「弟の忠嗣さんいうたら
銀行の跡取りということだけ
ではなくて
鉱山最大手の社長さんだ。
かなうわけない」と
栄三郎は言う。

よのは「何を弱気なことを
あんたかてもうすぐ
頭取ですがな」と
いうが・・・

そこへかのが
口をはさんだ。
「どうもこのところ
雁助に手紙がよく来る」と
いう。
それも、相手がよくわからない
という。
「それで雁助がここをやめて
出て行く支度を
しているのではと
噂になっている」と
いった。
栄三郎はあわてて
ご飯の箸をおいて
弥七に話を聞きに行った。

弥七は「かのさんやな、おしゃべるや」と
いうが、弥七も大概おしゃべりで
ある。
栄三郎はその手紙の正体は
何か気になっていた。

だが、弥七はよくわからないと
いうので、頼りない噂やと
栄三郎は言う。
それを聞いていた山崎は
「それはいけません」と
いった。
「つまり、
雁助さんは加野屋にとっては
財産だ」という。
「失うとそろばんでははじききれない
程の損失になります。
そればかりか
自分の右腕となる
有能な働き手を連れて
一緒に辞めることも考え
られる」といった。

栄三郎は考え込んだ。


それから数日後のことだった。
あさたちは東京から帰ってきて
東京での話を座敷でしていた。
聞くのは雁助、栄三郎とよの。
山崎そして新次郎だった。
あさは、パーティでは
井上馨さまや大蔵大臣の松形正義様
など大物やたくさんの人とご挨拶を
させてもらったと
うれしそうにいう。
あさは、どんどん挨拶に行くので
新次郎は追いかけるのに必死だったら
しい。
今井忠興にも挨拶ができたが
忙しくて
話しもろくにできなかったと
いう。
しかし、千代だけはみせることが
できたのでとあさは
その時の話をする。

千代を初めて見た忠興は
驚いた顔をしていた。

千代を見て

「あさ・・・」と
呼んでしまった。

千代があさに見えた。

目をこすった。
よく見ると
あさではない。

千代は

「おはつにお目にかかります。
千代でございます」と
挨拶をした。

「なんと・・・」
今井はびっくりした。

立派な挨拶だったと
新次郎はいった。

「あささんが初めてうちに来たときの
挨拶というたら・・・」
とよのは笑う。
『加野屋さんのために。
その・・・・・えっと・・・
ええお嫁さんになれるように・・
え・・・

なれるやろか・・・

その・・・』


「なつかしおますな」と
雁助が言う。

そして、くしゃみをした。

「風邪の治りかけだす」と
雁助が言う。

栄三郎は新次郎に話があると
いって外に出た。」
あさは、東京での話の続き
をした。
その席で
「伊藤さまから本気で銀行をやるなら
渋沢栄一さまに教えてもらうように
と言われた」という。

山崎は、「渋沢というとと
西の五代、東の渋沢というほどの
銀行の神様と呼ばれた人で
自分のもと上司だった」という。

伊藤さまの紹介でさっそくあいに
いったが忙しい方なので
会えなかったとあさが言う。

よのはそれやったら新次郎も千代も
くたくたになるわなと笑った。
雁助は「伊藤さまって内閣総理大臣の
伊藤博文閣下ですか」と
聞いた。

あさは「そうだ」という。
「すごく親切で朗らかなお方です」と
いった。

雁助は「さすがおあさ様だ」と
感心した。

あさは、「まずは渋沢に会えるように
お手紙を書きます」と
いった。

千代は自分の部屋で鏡に
むかって髪の毛を
なおしていた。

よのは、「今井のおじいさんに
あうことができたんやてな?」
と千代に話しかけに言った。

千代はあまりにも今井忠興が
りっぱなので、驚いてしまって
けったいな子だと思われたのでは
という。
よのは、「あのお母さんを育てた
人だから
ちょっとやそっとでは
驚くはずはない」といった。
「こんなかわいい子だし」と
いう。
千代はうれしそうに、よのに
お土産を買ってきたという。
日本人形だった。
よのはうれしそうに人形を
うけとった。



あさは、渋沢に手紙を書いた。


そこへ新次郎がやってきた。

「雁助はまだ、迷っているらしい。
だれか、連れて行くのかもしれない」と
いうので、あさは、うめがきになった。

新次郎は「雁助は出て行くことを
決めているのではと思う」といった。

あさは、悲しくなった。
その顔を見て新次郎は
「何事だ」という。

あさは、このときつらい
決断をした。
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気になるのは栄三郎と
さちの仲はいいのか悪いのかで
ある。
まだ子供がいない。

さちは、千代が
乳呑児の時代から
千代を育てている。
いま千代は10歳だから
さちはそこそこ年は取っている。
そして、栄三郎が
今井の一人勝ちとか
忠嗣さんは自分よりずっと偉いと
かいうので
気になっている様子。
それをよのが、あんたかて
もうすぐ頭取やと
いうが、
栄三郎は商売にあっては
あさの影響を受けながら
やってきたようなものだった。

忠嗣は、海外留学もして
東京で腹を決めて
商売をしてきたので栄三郎は
かれと比べるとつらいらしい。
それを敏感にさちは感じている。

だが・・・

こどもがいない。

これは

どういうことなのだろうか??

やはり

千代が

養子をとるという
流れなのだろうか?
また・・・
あさは、うめとの別れを覚悟して
いるのだろうか?