新春 恋の行方5
翌日のこと
ふゆの父親と山本が
加野屋に怒鳴り込みに来た。
あさは、「ふゆの思い人のことを
考えるとどきどきする」というし
うめは、それが新次郎なので
あたふたと
「誰ですやろな?」
ととぼける。
店のほうでは、ふゆの父親の彦三郎は
山本がふゆがこちらの若旦那と
逢引をしているのを見たと
いうので怒鳴り込みにやってきたのだ。
山本の話によるとそれは
新次郎とふゆのデートの件である。
彦三郎は「あの若旦那か
どうりでスケベそうな顔している」と
いった。
あさは、その声を聴きつけて
「だれがスケベそうな顔やて?」
と店に現れる。
彦三郎は
「あんたが、新次郎の嫁はんか。
あの炭鉱を買ったという
悪名高い嫁なんや。
どうりで。」と
意味深に言って
「はよ、ここに若旦那とふゆを呼べ」と
いった。
場所を移し
座敷では
「つまりその・・・」とよのがいう。

山本が
ふゆをつけていったら

ふゆと新次郎が寄り添っていた
というのだ。
「ふゆをこっそり見るのが好きな
お方ですな」と女中が陰で見ながら
いった。

山本は続けた。
「そのあと若旦那がいなくなった
ら番頭さんがやってきて
その番頭さんにも
ふゆが泣きついていた」という。

亀助はあわてて女中たちに
「違う違う」という。
山本は「そんなしりの軽い女を
嫁にする気はない」と
いった。
つまり彦三郎は
「嫁入り前の娘を寄ってたかって
傷物にして、縁談を破談にさせて
どないしてくれるんや」と
怒鳴る。

栄三郎は
「スミマセンでした」と謝った。

山本は「もういい、ここにはようはない。
尻の軽い女は嫁にはしない」と言って
立ち上がった。

番頭は「待ってほしい」と言って
みんなの前に飛び出したものの
なにをどういうていいのかと
とまどう。
しかし、ふゆは尻の軽い女では
ないというのが精いっぱいだった。

そこへふゆがやってきて
「自分が悪いんだ」といった。

そして父親に謝った。
彦三郎は
ふゆにちかづき、「このあほが!」
と怒鳴りながら
ふゆをたたいた。

一同、声を上げた。
あさは、「なにしはりますのや!」
と怒鳴ってふゆのそばに
よって守った。

「恥かかせよって
男に媚を売ることばかり
おぼえよって
これやからおなごは
あかんのや!!!」

彦三郎はふゆの襟首をつかみ
どなった。
「せっかく親が見つけてきた縁談をなんて
ことをしてくれたんや。
この親不孝者目が!!」
彦三郎はたちあがって
ふゆを足でけった。
「やめとくなはれ!!」
あさは、ふゆをかばった。

「なんで、こんな乱暴なことを
するのですか

怒鳴っても
たたいても
人の心にはとどきません。
本当にその人を思う心しか
届きません。」

「やかましい!人の家のことに口出し
すな!このあほ!!!」

と彦三郎は、ふたたび立ち上がって
ふゆの襟首をつかんで
なぐろうとした。

「やめんかい!!!」

大声で怒鳴ったのは亀助だった。

一同ははっとした。

「やめとくなはれ。
ここはあんさんの家やあらへん。
加野屋の屋敷だす。」
「はぁ????」
彦三郎はふゆを突き飛ばして
亀助に向かって
歯をむきだしにしていった。

亀助は「あんさんもあんさんだす。」
と、山本にいう。

「一度は嫁にしようと思ったおなごが
こんなことになっているのに
なにもしないでぼーっと
つったっているのだすか?」

「それはそっちがわるいんで・・・」

という。

「あんさんが惚れたというのはその
程度のことなんか。わては
惚れたおなごのことは
どんなことがあっても
守ります。
親にかて
誰にかて
決して手ぇなんか
あげさせへん!」

「そんなこというても」

「男とはそんなものです。
それぐらいの覚悟がないなら
嫁をもらうなどやめたら
よろしい!!!」

山本は
「もう帰る!!!」
といった。

彦三郎は
「山本さま~~~~」と
ひきとめる。
「あんた、なんてことを
いうねん!!」

亀助は負けない。
「あんたこそ、うちの店の者になにして
ますのや!
もう金輪際ふゆには指一本
ふれんといておくれやす!!」

亀助の渾身の叫びだった。
「はぁ?
おれは親やで????」
彦三郎は亀助のいうことがわからない。

「頭下げているか弱いおなごに
手をあげるなんて
そないなもん
親でも
身内でも
なんでもあらへん!!

ふゆは・・・

だいじな

わてらの
身内だす。

どうか

帰っておくれやす!!!」

「番頭さん・・・」ふゆがいう。

「誰が帰るか!!」

彦三郎は上着を脱いで
「ええかっこうしおって

この


あほ!!!!」

彦三郎は
亀助をなぐった。

ひめいがあがる。

亀助は

「今日のわては負けしまへんで!!」

といって
彦三郎にくらいついていった。
大騒動となった。

「こらこら
何をしてますのや」

新次郎が帰ってきた。

「旦那様
早よ止めとくなはれ!!」

あさがいう。


騒動が終わって台所で
ふゆは、亀助の怪我の手当てを
した。

亀助は
ふゆに父親にひどいことを言ったと
謝った。
ふゆはこれでよかったんだと
いう。
「破談になってよかった。
おおきに。
でも、ここにはいてられない。
うちにあんなによくしてくれたのに
恩をあだで返してしまった。
奥様にも
おあささまにも
申し訳ない。」

そういってふゆはここを出て
いくという。
亀助にもらった言葉が
自分の宝だと言った。
「『大事な身内だ』というてくれた
あの言葉でどんなことでも
やっていけれます。
ほんまおおきに
ありがとうございました。」

ふゆは去っていこうとした。

亀助は

「よ・・・・!!!」

と大きな声で言った。

また

「よ・・・!!!!」

といった。


「よ?」
ふゆがきく。

「よめになってくれへんか???」

亀助は
ふゆのもとにはしって言って
「わての嫁になって欲しい」という。
「自分は見た目もいいわけではないし
家も持っていない。
そやけど
あんたを思う気持ちだけはだれにも
まけしまへん。

わてと

一緒になってくださいっ!!!」

「そんな、

うちなんかが・・・」

「そやけど
けんかも弱いわてやし頼りないかな」と
亀助は
照れながら言った。

ふゆは

「おっ!!!」

と大きな声を出した。

亀助は

はっとした。

「お・・・・・

お嫁さんに

してくださいっ!!」


「ええ?」


「うち、亀助さんのお嫁さんに
なりとうおます。」

「おふゆちゃん・・・」


この様子を陰から見ていた
のは、
よの、あさ、新次郎だった。

「どきどきや~~~」とあさ。
「あの嫁入り道具、使えますな」とよの
「はぁ、それよろしいな…」と新次郎


二人が抱き合った。

こうしてふたりの結婚が決まった。

あさと新次郎が仲人である。
この、ふゆと亀助の
良き日に・・・
あの男も帰ってきた。

雁助である。

「うめさん

ふゆ、支度ができたみたいですわ。」
うめは振り向いて、返事をした。
「へぇ・・・。」
***************
大騒動があって
この結果です。
よかった
よかった。

なにごとも
やはり、体当たりで当たらねば
本当のことがわからない。
山本は
金持ちかもしれないけど
そっと
覗きをする
陰険で自分本位な男だったと
わかった。
そして
父親のひどいこと!!
おんなを犬猫以下にしかみていない。
娘を怒鳴って
なぐって
どうなるというのだろうか。
ふゆがかわいそうだ。
亀助の
『「頭下げているか弱いおなごに
手をあげるなんて
そないなもん
親でも
身内でも
なんでもあらへん!!
ふゆは・・・
だいじな
わてらの
身内だす。
どうか
帰っておくれやす!!!』
これは
すばらしい、セリフです。
親の虐待を受けている子供がいたら
夫に虐待されている女がいたら
本当はこうなんだと
いうセリフです。

弱いものを守ることは
男の愛情だと
亀助はいいきります。
かっこいいですね・・・
やっとお兄ちゃんから
脱皮しましたね・・。
お兄ちゃんで言い訳ないでしょ。
本当は、夫になりたかったくせに。
と、おもいました。

ふゆがこれで幸せになれる・・・
あさも、ホッとしたと思います。

が・・・

夫婦初めての
仲人・・・・

大丈夫かな?