東京物語6
五代はあさから離れた。

「失敬・・・」

力なくいった。

そして椅子に座って
「このウイスキーは大久保さんとともに
飲もうと思っていたウイスキーだから
つい、飲みすぎました。」

と、さみしそうに言った。

あさは、じっとみていて

「五代さま・・・うち・・
うちかておなごだす。
殿方に来ないなことされたら
驚きます。

今後こんなことあったら
びっくりぽんやというて
投げ飛ばしますよ。」

といった。

五代は、「投げ飛ばす??」と
聞き返した。

あさは、「うちはこう見えても
子供のころから相撲は強かったんだす。」

そういって四股を踏むと
「ふふ・・こら、強そうや・・・」と
めんくらって五代は言う。
そして
「すみません。
2度とこのようなことは致しません。」
といった。」:

あさは、「もし五代さまがうちを男とか
女とかの隔てなく友として少しでも
頼ってくれはったとしたらそれは
うれしいことだす。」と。

「え?」
「これからはうちがいてますさかい。
大久保さまのようには一生なれませんが。
五代さまの心の友になれたら
なんかお役にたてたら・・」

五代は、「おおきに・・・・・」といって
真剣な顔で
「そうだ、献杯しましょう。」
グラスにあのスコッチをついだ。
「献杯?」あさは驚いた。
「永遠のわが友
大久保利通卿に。
そして新たなわが友、あささんに・・
チアーズ!!!」

そういってぐいっと
グラスを開けた。

あさは、それをみて
まねして、ぐいっと
やってしまった。
もちろんスコッチなどあさははじめて
だった。
つい、むせてしまった。

五代は驚いて
「そない一気に飲んだら・・・」

と、いったが
時遅し。。。
あさは、

「うっ!!!!!」


と、詰まらせてしまった。

「大丈夫ですか?あささん?」
「何だす??これは・・・

うぇへ・・・・・・」
「うえって・・?」
五代はあきれた。

「お酒ってお父様や旦那様がいつも
おいしそうに飲んでいるのでどんなに
おいしいものかと思いましたけど
ちょっともおいしいことなんか
あらしまへんなぁ。

殿方はなんでこないなもの、おいしそうに
のまはりますのやろか??」

そういって、グラスをクンクンとかいだ。

五代は、それをみて
ついわらってしまった。

「こんな時でも笑わせてくれるなんて。
やっぱりあささんは不思議な人です。
私は今まで生きてきて
いろんなものを見てきたつもりです。
それでもあささんといると
いつもびっくりさせられる。
自然に笑顔になれる・・」


「そうだすか?」
といいながら
あさははっとして
「もう帰らないといけない」と
いって立ち上がった。

が、お酒がまわってふらっとした。

五代は「お水を」といって
水を汲みに立ってくれた。

あさは、つぶやいた。

「うちはこれほど五代さまと話をしている
のに、あまり五代さまを存じ上げません。
今までどないなことをしてきはったんですか?
教えとくなはれ。。」


「人を喜ばせるような
ロマンチックなものは一つも
ありません。
薩摩や政府にいてた頃は
やりがいもありましたけど
目を覆いたくなるようなものもたくさん
見てきました・・」

あさは、うつらうつらと
してきた。

「それでも・・・そんななかでも
あささんにあえた。
私は
あなたにあえてなかったら」

五代は言葉をきって
あさをみた。

このくだりは
告白ですよ。

告白なのに・・・
あさときたら・・・

寝てました!!!
それでよかったのかも。

五代はあさのそばによった。

そして
あさの寝顔をじっと見た。

「でも・・・」英語でつぶやいた。

「あなたは一番出会うべき人に
もうすでに出会っている・・・」

そういってため息をついた。

大阪では
とあるレストランで
新次郎は亀助とビールを
飲んでいた。

この店は、美和の店だった。

新次郎が五代とビールを
紹介してもらったので
この店を開いたという。

「ちかごろお外に御三味線に
いかないのはこういうこと
だったのか」と亀助は言う。
今度あさも連れてくると新次郎が
いう。
客は旦那衆ばっかりで
あさをつれてくるのは
おかしいと亀助は言う。

新次郎はふゆの縁談が決まった
わけではないので
あきらめるなという。

亀助は自分のことより新次郎が
あさがいないのでじりじりしている
といった。

じりじりしていないと新次郎が言う。
「お金儲けは嫌いだけど
あさが走り回っているのを見ていると
なんかしらんが
かわいらしくてなぁ~~」と
いった。

亀助は「それはえらい
けったいなこのみだすな」

とあきれた。

「あさが頑張っている姿をみていたい
だけだす。
それにいまはもう船のなかだす。」

とうれしそうにいうが・・・・

新次郎は亀助に
「自分がじりじりしているからって
ひとまでじりじりしていると
思ったらあかん」といった。

「していません。」

「してるがな・・」

「していません。」

「じりじり、男のくせに」


美和は「かわいらしい殿方
だこと」と
言って笑った。

そして、東京でもう一晩を過ごしてしまった
あさに朝が来た。

あのまま

あのままのかっこうで

あさはねていた。

はっとして
目が覚めると

うめがいた。
「うめ?」

「うめではありません。
なにをしてはりますのや?」
「五代さまは?」

「もうとっくの昔に出ていかはり
ました。うめはびっくりしました。
走って走って
やっとの思いでここまできたら
おあさ様はお酒を飲んで寝てしまって
いて、
五代さまが介抱されていた
なんて・・・」

と怒る。

あさは
「確かに・・・・・」思い出しながら

「飲みましたな
飲みました・・・

うちいつのまにねてしもうたんやろ?
あかん、思い出せれへん。」

「ほんまにもう!」

あさは、「思い出している場合や
あらへん。
行こう!!!」

うめをせかして、大阪へ帰る汽車に
のるべく走っていく。

しかし、
あさは、
振り向いて東京に挨拶をした。

「おおきに、東京はん
おおきに 大久保さま
おおきに・・・」

あさは、一礼をして

東京から去って行った。


あさが
「ただいまぁ~~~~」

と家に入ると
千代がいた。

「千代~~~
上手に歩くように
なりましたな?」

新次郎は「最初の予定より
遅いのでは」と聞く。

あさは、「蒸気船に乗り遅れて
しまったので」といった。
「何があったんだすか?」

と聞く。

そのころ、三坂がロンドンの新聞に
載っていた、大久保暗殺の事件の
報道で日本にとって惜しい人を失くしたと
の論調があると
五代に話をしていた。

五代は、「皮肉なものや」という。
「日本人より外国人のほうが大久保さん
の値打ちをようわかっている。」

五代は大久保が言ったことを
想いだした。

『五代
おはんにはますます気張ってもらわな
ならん。
外国に負けない強い国だ。』」

五代は気を引き締めて立ち上がった。
その視線は
壁に飾った、一羽のペンギンの絵だった。

ファーストペングイン・・・
道を切りひらくものは、勇気の
あるものであると・・・
いつかあさにいった。

時は明治11年。
日本にも東京にも
加野屋にも
大きな変化が訪れようとしていた。

「で・・・・・・・」
新次郎はなぜあさが遅れたのか
知りたい様子だった。

「五代さまの所へ駆けつけて
どうしたのですか?」

「もちろん、できるかぎり
お慰め申し上げました。」

「はぁ?慰めるやて????」

「はい、でもうちはよその殿方の
涙って初めてみましたさかい
どないしようかと思って・・・」

「そら辛かっただろうけど
なにもあさが慰めなくても。」

「何、心の狭いことをいうてはるんだすか!」
と怒るあさ。
「へ?」
新次郎は驚いた。
「さっきからその話ばっかりして!
もっと鉄道やレンガや
ガス灯や牛鍋の話も
きいてください。

牛鍋やであったけったいなひと
のことも

でも
やっぱりガス灯だすな。

あのキラキラと並ぶ明かりは
きれいですよ。千代にも
見せてあげたいわ。」

そして、

あさと新次郎もかわろうとして
いました。
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ちょっとドキドキしましたが
ファーストペングインのことですが
あれはあさにたとえたものでは
ありますが、
五代は、昔外国へ留学を
していたので、
そのとき、きっと
だれからか聞いたのではと
おもいます。

留学も普通ではなかった時代
さきがけのように外国へ行って
日本の将来にために
なるようにと
勉強をしたと思います。

が、
そのころの外国とは
もちろん先進国で
たとえばイギリスとか
は、世界の大国で
日本など野蛮で
低俗な国としか
思っていなかったのではと
思います。
それでも日本が外国に負けない
強い国にしようと
五代は留学をして
英語もぺらぺらになるのですね。
いわれなき差別にも苦しみ
文化の違いにも苦しみ
悔しい思いをしながら
人の倍も
何倍も努力をしたのではと
思います。

そして自分をファーストペングインと
言い聞かせたのでしょう。
道を切り開くものはそのリスクと戦い
そして、切り開いていかなくては
群れのなかのほかのペンギンたちが
生きていけなくなる・・・。
そのような大きな使命を
になって外国へ留学した
わけです・・
きっとね。

あさとは、結ばれる間では
なかったものの
あのピストルがなくなったという
追いかけっこで
あさと知り合い
その印象を強く持っていた
ひとで
五代はイギリスに留学したときあさに
手紙を書いています。
でもあさは、とんと
そのような気持ちはなく
時代が変わるということしか
興味がなかったわけで・・・。
五代はあさに恋心をもっていたので
しょうか?
あさは??

と、
来年はそんな恋心の話らしいですね。