大阪一のお父様6
正吉の葬儀はお寺で行われたあと
加野屋に大勢の人が集まった。

そこでお焼香がはじまる。

(女性の身内は白い着物を着て
いるのがこのころのしきたり
なのでしょうか)

大勢のお客が帰った後
五代が来た。

東京にも貿易の会社を作って
いるので大阪と東京をいったり
きたりしているという。
正吉の葬儀に間に合わなかったことを
新次郎にわびた。

「ご家族の方はいかがされてますか」と
新次郎に聞く。
新次郎はよのの話をした。
よのは、伊勢参りをしようと
思っているらしい。
正吉が行きたくて叶わなかった
ので一人で行くという。

「他のご家族は?」と五代が聞く
ので、「あさのことですか?と
新次郎は先手を打った。
あさは、三日間泣きとおして
そのあとケロッとして
仕事のことに励んでいる。

ところがその仕事であるが
炭鉱へ行くというのだ。
行くときには千代も連れて行くと
いった。

すると、家族・・・というか
特によのから
猛反対を受けた。
「一歳の赤ん坊を
あんな遠いところまで連れて
いくのは、母親の資格がない。」
という。
新次郎も反対した。
「世間では加野屋の若奥さんは
赤ん坊を連れて昼も夜も出歩いて
いると評判だ」とよのがいう。

新次郎は、「昼はともかく
夜は千代が夜泣きをするので
正吉が寝付けなかったら」と
あさが気をつかって
連れ出していたと
フォローした。

とにかくよのは
「千代はおいていきなはれ」と
あさに強く言った。

あさは、承知した。

あさは千代に話しかける。
「お母さんは九州に行くから
わかってね」といった。

うめは「先ほどは肝を冷やしました」と
いった。
「おなごの仕事は子育てだす」というが
あさは、「なんでだす?なんでおなごは男の
していることをしたらあかんのだすか?
って、昔お父様にいいましたね・・」

あさは、うめに櫛田のことをいった。

「あのひとはこれからの女性は
うちにいるのではなく
あなたのように外にでて
仕事をする時代になるでしょうね」と
いった。
炭鉱をするようになって気が付いたことが
あるという。
「おなごであることに甘えたらあかんと
思った。
おなごでも男と同じように仕事をして
仕事ができないといけない。
それが大事なことだと。
今井の父はおなごはひっこんどれと
いったけど
あれはあれで自分のことを
思ってのことだったのだと
わかった」という。

うめはあさに
「働くのはつらいと思っている
のですか」と聞く。

あさは、笑って首を振った。

「いいや・・・・
うちは気が付いた。
今まではお家のためや
お金のためと思ってきた
けど
それだけでは、あらへん

うち、
働くことが好きなんだす

商いが好きなんだす。

今は手探りだけど
これからおなごの商いを
広げていきたい。
ピストルをもって男の
真似をするのではなく
おなごのやり方があると

思う」といった。

うめは、「けったいなことを
思っている。
今井のご両親に報告できません。」
といった。

あさは、「ほんまやな。
このいばらの道を
おなごの足で突き進むしか
あらへんのや。」

「そんな嬉しそうに・・・」と
うめはあきれる。

それもそうなったのも全部、正吉
あってのことだった。
あさは感謝した。

『びっくりな~~~かっぱ~~』
と、ビックカンバニーに話を五代に
聞きに行ったとき
あさも一緒だった。
『あさちゃんなら
できるかもしれまへんな・・・』

『私な、あんたを信じて行く。そう決めました
のや。』 

『みんなでこの加野屋ののれんを
大事にしてな。』


「千代
けったいなお母ちゃんでかんにんな。

でもうちは負けへん
がんばりまっせ。」

あさは笑って言った。

よのは、初めてあさに意見をした
ので
店にある招き猫の張りぼてに向かって

「うちが
いいすぎましたのやろか・・・
そやけどな・・・
打ち勝て心配するからこそ・・

あ。そう出すな
へ、わかってます

これからはうちが
おまえ様の代わりに
あささんを助けてやらな
あきまへんのやな??」
とつぶやいていた。
のれんのむこうに以前弥七が
みた不審者がいたのを弥七が見つけた。

そして、「待て!!」といって
追いかけた。
台所でうめとかの、亀助とあさが
話をしていた。
あの話の八ちゃんは
じつは、所帯持ちで
ふゆを好きだというのは
がせねただった。

うめは「よろしおしたな。
いきな男はんが相手やったら
分が悪いものね」と
亀助にいった。
「へ?そうやろか?」
「そうだすがな
おふゆはめんくいやで。」

「めんくいか~~~。」
亀助はそういって
袂から手紙を出した。
炭鉱からうめさんあてに
手紙が来たという。

「だれからやろ?」
「雁助さんかな?」

・・・
「ちょっと失礼」と言って
離れたほうへ行き
嬉しそうに手紙を読む
うめだった。



やがてあさは
大阪と九州をいきき
する毎日を送っていた。

帰ってきたあさは千代に
「ただいま===
ええ子にしていたか~~~」

と聞くが、
うめが「お着替えをして奥様に
ご挨拶を」とせかした。

栄三郎が、「お姉さんお帰りなさい」と
という。

ちょうどさっき
新次郎は出かけたばかりだという。

相手は五代だった。
大事な話があるといっていたという。

あさは、五代の寄合所にいった。
いつもの部屋で
五代が新次郎に話をしている。

「実は

私は
あささんを

東京に
お連れしたいのです。」

新次郎は
驚いた。

「東京に???」

「はい。」

「へ?うちが東京に???」
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あさを励まして、応援してくれた
正吉が亡くなった。
正吉の遺言をむねにあさは自分は商売が
すきなんだと
自覚することができた。
おなごだから男のようにはできないと
あきらめることなく、互角に仕事が
できて当たり前と思わなくてはいけないと
いう。
よく世間では女であることに甘えるなと
いわれる。
ちょっと、注意をしたら
めそめそとないたり、
翌日休んだり・・・
仕事に励めなかったり・・
プロなら、しっかり泣くことなく
働かなければならない。
そういうことを
あさは言っているのだろう。

どうせ、結婚したら辞めるのだから
とか、コドモがいるから、残業はできない
とか・・
それは世間一般のことであって
与えられた環境でどれほど
頑張れるのかが
大事である。
女性が単純に仕事をするという
ことだけではなく、
女性の力をどう発揮して
社会へ還元していくか

あさは、考えている。

これこそが
女性解放のルーツではないかと
思う。