大阪一のお父様2
炭鉱から帰ってきた亀助が
みんなの前で話さなかったこと
とは・・

納屋頭のサトシが逃げ出したこと
だった。
あさと新次郎、栄三郎
が亀助の話を聞いた。
雁助が炭鉱について
サトシと話をし始めたという。
それから、何日かして
サトシが
荷物をもって
いなくなったという。
その話を聞いたあさは
おどろいたが
新次郎は、思いつめた
顔をしていた。
あさはそれが気になった。

それに、炭鉱の後始末が
てまどっているという。

岩盤が落ちたところは
弱くなっているし
またあたらしい坑道をつくる
のはもっと
難しい。

費用は、思っていた以上に
かさみそうだという。

栄三郎は事故の後始末がついたら
あの炭鉱を売るという。
「元に戻すまでに手をかけて
いたら、いま、店にあるたくわえを
全部切り崩したかてたりまへん。

だからここで手放すのが一番やと
思います」と栄三郎は言う。

あさは、反対した。

「炭鉱のおかげで・・・」

栄三郎はあさの言葉を
つないだ。
「炭鉱のおかげで一時店が潤って
いたのは確かです。
だが。雁助がいうてたとおり
両替商が炭鉱を営むのは
しょせん無理な話だったのです」
といった。
こうなったのもそのせいだと
栄三郎は力説した。
あさは首を振る。

あさは、「前の持ち主の櫛田さんに
あの山を宝の山にすると
いったし
石炭を売ってお金にしない限りは
加野屋は銀行だって作れない。
銀行になれなかったら
時代に取り残されます」というと
栄三郎は
大きな声で
「お姉さん!!!」
といった。
「もう銀行どころやおまへんのや。
加野屋は、一から出直しだす。」
栄三郎は立ち上がって去って
いった。

あさも新次郎も
暗い顔になった。

「なんでだす?
なんでこんなことに・・・」

五代が言っていた
落盤事故は火薬がのこっていた
ことから誰かが
作為的に計画した
ことかもしれないという
言葉が残った。

翌日から
亀助が番頭台に座った。
「太政観札に
政府紙幣・・・
政府金属貨幣に
国立銀行券・・・って
どんだけお金が変わったら
落ち着くんやろ・・」

亀助は
ため息交じりに言った。
栄三郎は

「政府もどうしたいいのか
わからないのだろう。
今の戦もたくさんお金を使って
いるだろうから」という。

「はぁ~~~
いくさなんかにお金をつこうて
もったいないことだす。
ちょっとは分けてもらいたい
ぐらいだすわ。」

あさは、語気を強く言ったので
栄三郎は、あさをにらんだ。
あさは、ふんと横を向く。

亀助は
「ほんまだすな。
政府にも困ったものだすな」

といいながら

そばにいたうめに

「困ったのはあの二人だす。
あんな険悪な雰囲気・・」といった。


うめはあさがあんなにぶうたれた
顔をしている間は
折れないといった。

弥七は「ところで今の戦って
何ですか」と聞く。

亀助は
「薩摩の西郷隆盛さんが
政府を倒そうとしている
戦だ」という。

「そういえば」とあさはいった。
「五代さまも
薩摩だった・・・。」

そこへかのが
「今日は土曜日だから
お昼ごはんだす」といった。

土曜日は客が少ないのは
土曜日が半休だからといった。
しかも日曜日が休みという事
に亀助は驚いた。
いろんな制度が変わっていく。

あさはたくさんの支出に驚いた。

そこへふゆがやってきて
店にむかっておかしな男が
にらみつけているので
怖くなったという。
あさと亀助と
うめは
外へ出たが誰もいない。
「年は。身長は?
どんな格好やった?」
と聞くが
取り立てて目立つことはないという。

亀助は走り出した。

あさも追いかけたが・・・

「気になるな~~」と
立ち止まっていった。

千代とよのが遊んでいた。
そんな中でも
新次郎は
顔色が悪かった。

雁助から
正吉と新次郎に手紙が来た。
雁助は
「大旦那様が言った通り
サトシは松造だった。
抗夫たちの話だと
加野屋がこの炭鉱を買った
ことを快く思ってなかった」
という。
「坑道に爆薬を仕掛けた
のも
松造の手下だった」と
いった。

「また、松造を取り逃がしたことは
残念で、今すぐにも探しに行きたいが
炭鉱の立て直しに手間がかかっている。
このことはひとまず警察にまかせる」と
いった。
「治郎作は、どうか許してやってください。
サトシは根は悪い男ではない」と
いったという。
「修復作業の計画と予算を書いているので
よろしく。
カズからは若奥さんに、赤ん坊を連れて
来てほしい」とのこと。
雁助は「まだ九州の水はあって
ないが、店のために役に立つように
がんばります」とのことだった。

「では、遠く北九州の地より
加野屋の繁栄を心よりお祈り申し
上げております。雁助」

栄三郎は正吉の部屋でそれを読みあげた。
あさは、雁助の書いてくれた書類をみて
感心した。
「きっちりまとめてくれました。
炭鉱のことなど何一つ
わからないと言っていたのに。」
あさは、
そう喜んでいるのに
新次郎は顔色が暗い。
旦那様?

新次郎を見て行った。

「まさか、松造が生きているとは」
と正吉はいう。
「皮肉な巡り合わせや・・・」

新次郎はあさに、話をした。
「松造はわての幼馴染だす。
あの松造がまさか
九州にいてて炭鉱で働いて
いるやなんて
思いもしなかった。

小さいとき
幼馴染がいてた。
大番頭の息子だった。
のれん分けで店を持ったが
うまくいかなかった。
父親は死に・・・
母親とそのこは散々みじめな思いを
したあげく
町を出て行った。

あのとき松造はわてにいうたんや。
人殺しってな。
あんだけ仲がよかったのにな・・」

あさは、「え?」と驚いた。
***************
やっぱり、サトシは新次郎の
幼馴染だった。
なにをどうしてどうなって
今に至るのかわからない。
しかも、松造のことで
新次郎は、商売をするのを
いやがった。
それで、分家となった。
二男なので問題はないが
長男がなくなったことで
年のわかい栄三郎が店を継ぎ
新次郎は、商売から
さっていくことになる
はずだったが、あさの商売っ気
のおかげで正吉に大事にされて
店で仕事を任されている。
その松造はいったい、なにを
思って、加野屋を憎んでいるのだろうか。
お金の商売はどんなに誠実にやっても
どこかで誰かに恨まれる
仕事ではある。