大阪一のお父様1
加野炭鉱の落盤事故は
事件かも、と五代がいう。

正吉は雁助に「炭鉱を手放すな
そして、見に行ってくれ」と
頼んだ。
「それが最後の頼みだ」と。

雁助が炭鉱へ旅立った後
正吉が倒れた。

しかし、

気が付いた正吉は

「まだ生きていたんかいな」と
いう。「そう簡単に死なれたら
たまらない」と新次郎。
栄三郎は父親がここまで健康状態
が悪いことを初めて知った。

「ご一新から10年。
よう生きていたなと思う」
といい、「この店もよう生き延びてきた
もんだ」と
正吉と新次郎は言う。
正吉はよのに自分はどれほど寝ていたかと
きくと3日間という。
くすりがよくきいて
寝ていましたよと。
正吉は皆にえらい心配かけて
しまったという。

あさは
川口に心臓によく聞く新薬があると
聞いてすぐにでかけたとよのはいう。
あさは、出かけるときはできる限り
千代と一緒にでかけた。
背中にオブって
大阪の街を歩いた。
おいしそうな人参を見つけて
おじいちゃんに買ってあげようという。
また、大阪の町にもおか蒸気が走り
文明開化が進んで行った。

「今日はどんなお話が聞けるかな」と
あさは五代の寄合所にいった。
旦那衆が
あさをみつけて
「こんなとこにいていいのか」と
聞く。
炭鉱の事故の話である。
「いま立て直しをしています」と
いうと
旦那衆は
まだやるき、かいな?」
「女だてらに炭鉱なんかに手を付けるから」
とか
言いたいことを言う。

山屋は「加野屋はつぶれるのかなと
言われている」と
いった。
そこで千代が泣き出したので
あさは帰ろうとした。

旦那衆との一件を五代がみていた。

彼はあさに声をかけた。
あさは、炭鉱でのことを感謝した。
五代は「前から気になっていたことだが」
と、「あなた本当は炭鉱に爆薬を仕掛けた
犯人の検討をつけているのではないですか?」
と聞く。

あさは、「誰かを疑うようなことは
できません」という。
「それはいいことだが
人の上に立つ人はときに非情に
ならなければいけない。
偽善者ではあかんということです。
これは赤ちゃんをおんぶした人に
話すことではなかったですね。」
といった。
「とにかく会えてよかった」と言って
去って行った。

ときは明治10年
西南戦争がおこっていた。
五代も大久保も
自分の故郷の人たちと敵対
しなければいけない
複雑な立場にあった。

『大久保利通殿
貴殿の心中察するにあまりあり・・』

そうかいて
五代はやぶった。

机の上の砂時計・・・

ため息をつく。
(この砂時計はどういう意味だろう?)

「偽善者か・・・・」
あさは、帰る道々
五代が言った言葉が気に
なった。
そこへ
「若奥さ~~ん」と
あさを呼ぶ声がした。

なんと

散切り頭にした
亀助が九州から
帰ってきた。

「ただ今帰ってきました」と
店に入る。
みんなが亀助を迎えた。
「番頭さんお帰りなさいませ」
「おふゆちゃん・・・ただいま・・
あの、字は・・・」

栄三郎は「ふゆと話す時間はあとであげる
から、話を聞かせてくれ」と
いった。

亀助は
治郎作の怪我の回復の速さを
かたった。
あさと栄三郎と亀助が話をしている
ところへ正吉がやってくる。
「雁助はどうだ?」

「向うでなじんでます。」

正吉は「ただ寝ているだけでは
面白くない」と言って「雁助は?」
というと
「みんな雁助をしたっている」と
いった。
宮部が最初亀助がいなくなると
誰を頼りにしたらいいのかと
いっていたが
雁助の人柄に触れて
さすが、加野屋の大番頭
さんだと喜んでいるという。
栄三郎は
「そんな日和見な男で大丈夫なのか」と
きくと
新次郎は
「宮部はあさに相撲で投げ飛ばされた
から、(かえって雁助のほうがやりやすい)」
といった。
これにはみんなあっけにとられた。

かの、よの、うめ・・・
「まさか」
「おあさ様!!」

「一回だけです」というが

「楽しそうだったですよ」と新次郎

「右よつから下手投げでした」と亀助。

みんな大笑いでした。

正吉とよのは二人で話し合った。
「心配しなくても
若い者に任せたらいい」とよのはいう。
「久しぶりにお伊勢参りにいきたいな
暗峠をこえて奈良へ出て
奈良から榛原までいったら
後はお伊勢さんまで一本道や。」

「お店がたくさん出ていて
にぎやかでしたね」

「いきたいな。
あんたと二人でもう一度あのみちを
あるけたら
もう心残りはありませんわ」と
正吉が言う。

「そんなこと言わないで。
いつ行きましょ?」
よのはそういいながら
そっと正吉に背中を向けて
泣いていた。

よのにはもう
正吉が旅ができる体では
ないことが
わかっていた。
そして
正吉も・・・

その夜、亀助はだれにも言えなかった
ことをあさと新次郎に話をした。
その声を聴いて栄三郎が横に座った。
実は
納屋頭のサトシが
炭鉱から逃げ出してしまったという。

あさはびっくりした。
****************
偽善者という言葉が
あさの心に経営者としての
在り方を問いかけたのではないだろうか。
炭鉱に爆薬を仕掛けて
爆発させるなんて
とんでもないことである。

その罪を問うことが大事なことでは
ないかと
思うが、
犯人探しはしたくないというのは
ちょっと経営者として
甘いと思います。

五代のあの砂時計を見て
ため息をつくのは
なぜかと
思う。
まさか、このひとも寿命が
迫っている何かが
あるのだろうか?

気になるのはサトシのことである。