炭鉱の光6
昼寝から起きたら
五代がいた。
「グッドモーニング」という。
いいながら
「いや、モーニングではないな」
といった。
夕方である。
「しかし、あささんの名前は
モーニングだ・・」

ひとりごとをいう。
「夢の中のことなのか」と
あさはつぶやいた。
五代は気に留めず
「夢の中のことだと思って
聞いてほしい。
日本から遠く離れた
南極という氷だらけの所に
ペンギンという鳥がいてます。」

「鳥・・・??」

五代は紙に書いたペンギンの
絵を見せた。

「ペンギンは鳥だけど
空は飛べない。
しかし、水の中を
猛スピードで泳ぐことが
できる。
海の中は
危険がいっぱいだ。
敵や困難が待ち受けている。
そんなとき、群れのために
一番最初に海に飛び込む
勇気あるペンギンを
ファーストペンギンという
んです・・・。」

「ファーストペンギン???」

「ファーストペンギンは
勇敢です。最初にチャレンジする
ものには必ずリスクがある。
鱶に食われて真っ先に死ぬこともある。
誰かがそれをしなかったら
ペンギンたちは永遠に食べ物を見つける
ことができず、前にも進まれない。」

五代は加野屋はすぐにつぶれると
思っていたという。

あさは、「なんてことを」と
怒った。

しかし、五代は「加野屋には
あさというファーストペンギンが
いてた。
恐れを見せず
前を見るものが・・

胸張って堂々と海に飛び込む
のや・・・

それを伝えに来ました。」
と。
あさは、ぼーっと
して紙に書かれたペンギンを
みていたら
五代がいなくなった。

外で馬のいななきが聞こえた。

「五代さま、待ってください」
といって走り出たが
姿がない。

亀助が「五代さまは馬で走って
いかれた」という。

カズも、「あの方は鹿児島の
枕崎にある鹿龍金山に行く途中
で偉い急いでいるといって
いました」という。

あさはそんな忙しい中
寄ってくれたんだと
感謝した。
亀助はあさのもっている
紙を見て「なんだすかそれは?」
と聞く。
「鳥というてたけど
鳥に見えしまへんわな・・」
とあさがいうと
亀助は笑った。

「胸張って堂々と・・・」

あのことばは梨江もいっていた。

「これからのおなごは
あんたのように生きたほうがいい
のかも。
胸張って堂々と。」・・・

「あの方はどこの方ですか?」

とカズが聞く。

「あの方は・・・

うちのフレンド。
お友達どす。」

あさは、「胸張って堂々と」
とのことばをかみしめ
サトシの飯場にいった。
そして、扉のそとから
話しかけた。

あさは、サトシに大阪に
戻るといった。
「もう少しお話ができたら
よかったのですが。
うちの言葉が足りずサトシさんに
不愉快な思いをさして
しましました・・・・そやけど
うちは、この新しい決まりが
この鉱山のためになると信じています。
自信も持っています。
だからもう一度考えてみて
ください。

どうか、よろしく・・・。」

あたまをさげて
扉から離れて戻っていく
後ろから
飯場の中から
サトシがいう。

「新次郎さんは元気ですか?」

あさは、はっとした。

「え?

いま・・なんて?」

亀助が来た。

「さぁ、若奥さん
かえりまひょ。」

こうして、あさは
早朝、鉱山をたった。
サトシは何を思っているのだろうか。

大阪についたあさ。

にぎやかに加野屋の面々が
むかいえた。

「ただいま帰りました。」
「おかえりやす」

「おかえりやす」

「ただいま」と、亀助はふゆにいう。
雁助は
「だれにいうてますのや?」
といった。

あさは、新次郎がどこにいるのか
聞いた。

「ごめんやす
ごめんやす」

といって、新次郎の
いるへやへ
走って行った。

あさは廊下ですわって
「ごめんやす」といった。

新次郎は「あさ!」という。
栄三郎は
「お姉さん」という。
正吉は
「ようやく帰ってきたのかいな」という。
「いろいろすんまへんでした。」

「いろいろ?」

「かえるのが遅くなったし
嫁なのに、長いこと家を空けたし
旦那様のお三味線の会にも
いかれへんかったし。・・・」

栄三郎は。「三味線のことは
お父ちゃんに内緒です」という。

正吉は「何が内緒や」といって栄三郎を
ひっぱって
「邪魔や邪魔や」と言って
さっていった。
「今夜だけは三味線を弾いても
いいで」ともいった。

二人になった新次郎とあさは
しみじみと
見つめ合ったわけです。

その夜、新次郎はあさのために
三味線を弾いた。

翌朝・・・
あさは元気に起きた。

たしか

サトシが

「新次郎さんは元気ですか」と
いった・・・
それを思い出した。


はつのもとに
惣兵衛が帰ってきた。

はつは、驚いた。
「そんなびっくりしなくても
すぐに帰って来ると
いいましたやろ?」
「どこへ行ってはったんだす?」

惣兵衛は
はつの手に
みかんを置いた。

「和歌山や。」

はつはやっと笑った。


加野屋では

番頭二人と
うめ、新次郎とあさ
栄三郎と
よの・・・
皆が集められ
正吉が話があるという。

正吉は
加野屋を引退するという。

「それはいきなり」と
亀助はおどろくが

雁助とよのには相談したので
知っていたという。
正吉は、「自分の代わりに
加野屋を継いでもらう人は
・・・・」と言葉をつづけた。
***************
ファーストペンギンの話は
どこまであさにはいって
いったのでしょうか。
素敵なお話です。
こうして、五代は
あさをしっかりと励ました。

五代にとってあさはどういう存在なの
でしょうか。
五代はあさに
初めて会ったとき
ピストルを
なくしてあさのたもとに
入っていたことがあった。

その、おにごっこのような
追いかけっこが
面白かったといった。
そして、そのご、山王寺屋で
お金を借りに来たとき
店の奥からじっと見ていた
あさをみつけた。
これが二度目。

三度目はロンドンに留学中
自転車に乗って颯爽と走る女性を見て
日本の女性では無理だけど
あのときのあささんだったら・・・

と思ってあさに手紙を書いた。
ラブレターのような手紙だった。
そのご、あさは、結婚して加野屋の
若奥さんとなった。
時は、お金の大革命期で加野屋も
金銀の扱いが変わったことで
大きな節目になっていた。
この時代をどう乗り切るかという
ときにあさは、加野屋のために
働くと言いました。
五代があさの鉱山への思いを聞いたときは
大阪に赴任した官僚だった。

あさは、新政府が何をしてくれたのかと
五代に怒りをぶつけたこともありました。

そんな二人のエピソードが
フレンド・・・以上のものに
なるのは・・・
ないと

思いますが・・・
五代さんが
どう思っているのか・・・
気になる女性がいるという話は
この間、美和と大久保の
お座敷の時に
わかりました・・・。
新次郎はどうでることやら??