炭鉱の光3
あさは、亀助に話をした。
「本当は人並みに
旦那様のそばにいて
お世話をして
いつかややこを育てて見たい
と思うことがある」と
いった。

亀助は
驚いた。

「でも、今は気張れば気張るほど
旦那様から離れて行くみたいだ・・

旦那様は一つも悪いことはない
うちが旦那様の優しさに
甘えているのや。
おかあはんは胸張って生きと
いうてくれたけど
このままやったら
このままやったらうち
嫁失格やなって・・・」

亀助は深刻な顔をして
聞いていた。
カズも遠くから
その話を聞いていた。

「いやいや、堪忍」
とあさはいった。

亀助は
「堪忍やなんて
堪忍やなんて何も」
「亀助さんにけったいな
こと聞かせてしもうたな・・」
「けったいなことってなんも・・」
「わすれとくなはれ
さあ、今は炭鉱炭鉱
抗夫さんのことだけ
考えな!」
そういってあさは
大八車を引こうとした

「若奥さんかて
ひとのこだすがな。
そないいっつも
抗夫さんのことばかり
考えんかて・・」

「うちは、抗夫さんのことも
いえのもんみたいに
大事に思っているから」

といった。
大八車を引いていくあさ。

治郎作は
カズの背中に手をおいて
あさをじっとみていた。


亀助は
大阪のふゆに手紙を書いた。

「おふゆちゃん、大阪は
どないだすか?
今頃は道頓堀で大歌舞伎の
船乗り込を
やっているころだすやろか。」
亀助は炭鉱の状況を書いた。
炭鉱は男たちが何百尺というほどの
計り知れない地の底で
働いている。
自分も気の引き締まる覚悟で
・・・・・と
かいたら
大きな音がした。

亀助は
びっくりした。

あさが
起きてきた。
もう朝だからと
いって、働きに行く。

半分寝ながら
歩いている

「おはようさん」とあさ。
「おはようさんだす。

若奥さんか
びっくりしたぁ~~~」

炭鉱の朝は早い。

すると納屋から
納屋頭の声がした。

「起きろ!!
さっさと起きて
仕事へ行け
ぶらぶらするな」
と怒鳴っている。
ある抗夫が
「腰が痛いので休ませてくれ」と
いう。
サトシは

「ああ?」と聞き返す。
「仮病など使うな」といった。
「俺をごまかす気か
この横着物が」
とその抗夫を、無理やり立たせて
仕事に行かせた。
あさは、「あ、あの
体がきつかったら今日は休んでも・・」

というとサトシは
「よそもんが
じゃまするな」と
怒鳴った。
「そんな甘やかすと
山の抗夫たちはあまえて
スカブラすっぞ
バカたれが!!」

あさは、スカブラがわからない。
治郎作はあさの腕を取って「余計なこと
しなんな」といって
遠くへ連れて行った。

「スカブラとは怠けるという事だ。
抗夫は怠ける。
だから、あれほど、サトシは厳しく
いうらしい。
たしかにサトシはピンハネをしているが
出来に悪い納屋頭ではない」という。
「山には山のやり方があるから
うかつに変えることはできない」
といった。

「親分さんも
改革はせんほうがいいと
おもうのですか?」

「いつかはせんといけない。
それが今なのかわからない。」

あさは、
「今やと思います」といった。

そして
どんどんと
アナの中に入っていった。

すると
伊作たちが
「姉御
怪我されたら困るから」と
いう。
あさは、「みんながこうして
働いているのに
うちだけ何もしないという
道理があるわけない」と
いった。
「それに怪我して困るのは
うちもみんなも一緒だす」という。

伊作たちは

「さすが姐御。
岡出しすがたも板について
きた」
といって笑った。

サトシは素知らぬ顔をした。

そしてあさは
抗夫たちをまえに
自分の考えを話した。

「より多くの石炭を取った
抗夫さんには
加野屋から直接ご褒美を
さしあげます。
これは皆さんのための
新しい制度だす。
これはこのさき
みなさんに夢を持ってもらいたい
と思ってのことです。」

「おおおっ・・・」と
声が上がる。
「納屋頭さんのお仕事がなくなる
わけではありません。
皆さんには現場を仕切ってもらって
そのお手当も
加野屋が十分にお支払しようと
思っています。
どうかわかっとくなはれ。」

抗夫たちは
じっと聞いていたが
どういうことなのか
よくわからないらしい。
「ピンハネがなくなるという意味かな」
という。
「それは偉い儲けが増えるな」と
ワイワイと話を始めた。
納屋頭の福太郎は
じっと怪訝そうに見ている。
亀助は
「異論がないみたいだから
さっそく」と
いいかけると

「皆騙されたら詰まらんぞ」
サトシだ

「皆が平等なんて
うそだ
掘っているのは俺たちだけど
立場が強いのは
銭をもっている加野屋さんだ。
この世は銭をもっているものが
強いんだ。
皆騙されたら詰まらんぞ。
こいつら
俺たち弱いものを
少ない銭で働かして
ぼろもうけをしようと
思っているはずだ

何が平等だ。
おまえたち金持ちの理屈を
勝手にこの山に持ち込まれたら
たまるか」

「そうだ」
「そうだ」

「勝手に変えられたらこまる

おまえたちの味方は
加野屋か
それとも俺たちか?」

「おまえたちがこいつらのゆうことを
聞くというならどうなることか。
覚悟をしとけよ!!!!」

サトシは叫んだ。

すると
「そげな金持ちの話をきくわけ
なかろう」と
一人の男が
声を上げる
「そうだ
納屋頭のいうとおりだ」

「やっぱり・・・」とカズ。
誰も言うことなど聞かない。

「何でだす!!
今のままでホンマにええんだすか
なんで勇気を出して
今を変えようとしないのですか
うちはみんなにその日暮らしではなくて
夢をもって働いてもらいたい」というと
サトシは「夢なんかいらん」という。
「そんなもの金持ちの見るものじゃ」
といった。
「おい、いくぞ。」

納屋頭に続いてみんな去って行った。

あさは
分かってもらえない
もどかしさを感じた。

カズも悲しそうだった。

ためいきをつくあさ。


亀助は手紙に書いた。
「若奥さんがみんなのためにといった
申しでは抗夫たちの耳には
届きませんでした。」

「苦労をかけているな・・・」
と正吉。

「まだ帰れそうもないと書いて
います」とふゆ。

うめは、「新次郎さまのお三味線の会を
おあさ様は楽しみにしていたのに」と
いう。

新次郎は
「わての道楽なんてどうでもいい」
といった。
「ふゆちゃんあてに手紙を書いてくる
なんて亀助もやりますな。」
と新次郎が言うので
ふゆは、うつむいた。

その様子をうめは見逃さない。

新次郎が店の外へ行くのを
よのとかのは
見ていた。
往来で夫婦らしき若い男女が
仲良く歩いているのを見て
うらやましそうにする新次郎
だった。

お座敷では美和が三味線を弾いて
歌を歌っていた。

座敷には
大久保利通と
五代友厚がいた。
「さすが大阪で一番と言われた
芸子だ。」

「おおきに」と美和が言う。

美和は五代を知っていた。
というか
話しに聞いていた。

「大阪の恩人で
大阪の人間で五代を知らない
ものはいない」という。
大久保は
「この男は
大阪の恩人であるばかりでは
なく
日本の恩人だ」という。
「五代友厚がいなかったら
日本の金銀は
外国にかすめ取られて
しまっていたはずだ。」

「戻ってきてくれ、五代君。
東京に来て
我が国の
大蔵卿に
なって欲しい。」

そのころ、九州では
あさはあの福沢諭吉の本を
よんでいた。
そして本を閉じてため息をついた。

あさは、学問だけではどうにもならない
現実の壁に突き当たって
いました。
****************
天はひとの上に人を作らず
人の下に人を作らず

という。

が、実際は、階級は出来上がって
いる。
弱いものはいつまでも弱い。
金持ちはいつまでも金持ちだと
サトシは言う。

果たしてそうなのだろうか。

山王寺屋はなぜ潰れたのか。

努力と才覚があれば、事業を
起こすことはできる。
それをしないのは、努力もしない
才能もない人に使われるだけの
人間である。
だが、その人間が夢を希望をもって
生きていく社会を
作らないと
日本の資本主義は育たないと
あさは思っているようだ。
全くその通りだが。このへんに
資本主義と共産主義の
闘争の小さな芽が
できていると
思った。
明治になって
日本富国強兵を旗頭に
経済力をつけて欧米においつけ
おいこせと頑張っていた。
女工もそのうちのひとつで
安い女性の賃金が
日本の経済発展を支えていた
わけだ。
あさの炭鉱もやすい賃金で働かされて
納屋頭がそれをピンハネする。
納屋頭は特権意識を持っている。
そして、雇用主と労働者である
抗夫たちの間にはいって
どっちからも、おいしい汁を吸って
いたのだった。
この特権意識が社会を腐らせるもとと
なっていく。
働くことに夢も希望も見いだせない
若者を使い捨てにするような炭鉱が
はたして日本の発展の礎に
なるのか???と
疑問がある。
今の日本も労働者の扱い方が
使い捨てである。
なぜ、契約社員という制度が
できたのかと思うが
以前の日本は
修身効用性と年功序列で
しっかりと、組織を固めていた
はずだが、
あさは本当は人並みに
旦那様のそばにいて
いい嫁をしたかったという
話し・・・
亀助の心を打ったようである。

これ以後
学問と現実の
大きな差を埋める発想は
どこからどうやってでて
来るのだろうか?