旦那様の秘密6
新次郎が炭鉱に来たことは
抗夫たちにも伝えられた。
治郎作は考えた。

あさがもっていたピストルは
あの旦那が持たせたものに
違いない。
あんな気性の激しい妻を
牛耳ることができる男とは
どんな恐ろしい顔をしているのだ
ろうか、一度見て見たい・・
と治郎作はいった。
一同は合意した。

あさの部屋の様子を見ると
そうでもない。

あさは新次郎に、
「どうして籠なんかにのって
やってきたのか」と聞く。
お金がもったいないというのだ。
新次郎は「せっかくきてやったのに
もったいないなんて
あんな籠わてのお三味線のひとさお
分にもかからへんから。」
という。

あさは、「三味線はそんなに高いのだすか」と
あきれた。
「しるかいな・・・」
治郎作や伊作たちは
そのやりとりを窓から見て
あっけにとらえた。
「あれが大阪一の大店の
若旦那???」
「どげんにも
読めん男じゃのう~~」
治郎作は、首をかしげた。
そして去って行った。
新次郎は、どうやって抗夫さんたちを
説き伏せたのかと聞く。
あさは「ピストルをもって
あんたらには負けしまへんで
というたら
皆おとなしくなったので・・」
といった。

すると新次郎は
「うーーーん・・・」と
考え込んだ。

大阪の加野屋では新次郎が
炭鉱へ行ったことを雁助が
驚いていた。
うめはその話を廊下で聞いていた。

新次郎は、着物の裾が汚れる
ようなところへは行く人ではないと
雁助は言う。
正吉は仕事にかかわり合いのあるところへは
絶対に近づかない男だという。
正吉は、あさがきてから新次郎が
変わっていくという。

「あれから20年ですね」と
雁助も正吉も、「20年か・・」と
つぶやく。

うめは一計を案じて
雁助が部屋から出てくるところで
雑巾がけの桶をもって
わざとあるき、雁助とぶつかった。

「すんまへん、」とうめはいった。
そして、水びたしになった廊下を
ふき出した。
雁助は「こっちこそ堪忍やで。
ちかごろこの辺を掃除してくれた
のはあんただったのか、おおきに。」
という。
「その代わりと言ったらなんですが
20年前に新次郎さんに何があった
のですか?」

うめは聞いた。

九州では新次郎はご飯を食べながら
ピストルのおかげであさが
助かった話を聞いた。

亀助は「五代さまに足を向けて
ねれまへんな。
これがなかったら若奥さんは
あいつらに何されたかわからない」と
いった。
新次郎は、「そうか、」といって「わてからも
いつか、お礼言わなあかんな」。
そういって、亀助に大福を買ってきて
欲しいという。

亀助はこんなところに大福やなんか
ありますかいなというと
「飴ちゃんでも、木の実でも
なんでもええから」という。
つまり亀助に、夫婦水入らずに
してほしいと
言いたいわけだ。

亀助は「そうだすか・・・」といって
さっていった。
新次郎は「やっと二人きりになれたな」
といってあさのそばに座った。

あさは、「おおきに」といって
「今回はもうだめだ」と思った
という。
「新しい商いを始めたいと
いうたが、商いを自分で仕切る
という覚悟がなかった」といった。
「大勢の人を動かすためには
もっと強くならないといけない」と
あさはいうが
新次郎は、あさのほっぺたを
つついた。
「大福みたいに柔らかいな・・」と
いう。
「商いのする人は気の強い人ではないと
できないと思うけど
それもそうだが、あんたにはピストルが
似合わない。
あんたの武器は柔らかい大福もちだ」
といった。
「かつて
相撲で投げられた時
驚いたが、あんたの柔らかいところにふれる
たんびにかなわへんなと思う。

武器を持つと
それよりももっと強い武器を
必要とする。
それをもつと
もっと強い武器を必要になる。
これは男のあほな歴史だ」という。

「あさの武器はその柔らかさだ」と
いった。
「旦那様・・・・
なんというか・・・

おおきに」

とあさは言った。

そして翌日
石炭を掘る音が山に響いた。

あさは、よろこんだ。

宮部は治郎作に
「奥さんと旦那さんが見えている」と
いった。
「旦那さんから気の利いた
話をしてほしい」と宮部が言う。

新次郎は、「自分のようなふらふらした
男が力自慢の方々に
話などできない」といった。

新次郎は亀助に厠はどこだと
きいた。
「こっちだす」と亀助が案内する。

新次郎は、石がごろごろしている
その辺を歩きながら
足が痛いがなと
もんくをいい
お気に入りのきものやのに
裾にスミが・・・と
ちまちまいいながら
さっていった。

「はぁ~~~なんちゅう
この景色が似合わんお人やろう
か・・・」と
宮部が呆れた。

あさは、「昨日は脅かすようなまねをして
すみませんでした」という。

そしてピストルをだして
「これは一生使いまへん」と
いった。

そして加野屋の窮状をはなし
「このままやったらあかんと思って
この山を買いました。

炭鉱はこの国を支える大事な
飽きないという事に嘘はない。」
石炭の使い方を
あさは説明した。

「石炭でたくさんのお湯をわかして
その蒸気でおおきな鉄の車が
走ります。」

一同は、「へぇ~~~~」と驚いた。

そうしておか蒸気や蒸気船で
人や物を運んで日本中や世界中
を結ぶという話をする。
「そういう力をこの筑前の炭鉱が
もっているってすごいことだと
おもいまへんか?」

「ほぉ・・・」

「一番偉いのは
山の持ち主ではなく
支配人でもない

現に山に入って
石炭を掘っている
あなた方だす。

あなた方一人一人が
新しい日本を作っているという
誇りを持って働いてください。」

皆はワイワイと言い出した。
「本に口に立つおなごじゃのう。」
「それでもピストルがなければ
うちの話を聞けれないというなら
しょうがあらしまへん。
勝負いたしましょう。
その代りうちが勝ったら
いままで遊んでいた分もきばって
働くと約束してもらいまっせ。」

福太郎は
「ほう、どげんして勝負するというのか」
という。
伊作は
「お手玉か
おはじきか?」
と、ばかにしたようにいう。

あさは、「いいや、相撲だす」といった。

「うちはこないみえて
女大関と呼ばれていたのだす。

かかってきなさい。」

あさは、着物の裾をまくしあげて
いった。

「俺がする」
「いや、俺だ!!
投げ飛ばしてやる!!」

みんながわいわいと
自分が自分がという。

治郎作はあっけにとられて
みていた。

新次郎は、止めなくてはという。

大騒動になった。


あさは、しこを踏んだ。

「おおおおっ」と
声が上がった。
****************
やわらかいことが武器
という新次郎の話が
よくわからないが、
あさは、男になる必要はない
ということである。
ピストルをだして脅して
みたところで本当にひとを
動かすことにならないと
新次郎は思っていただろうし
あさも、それは感じていたに
ちがいない。
では、いったいどうすればいいのか?

石炭の重要性を知ってもらうこと
が大切と思って
石炭はどう使われるのかと
いう説明をした。
それは、誇りをもっていい仕事だ
という意味で働く人が生き生きして
くる。

そして、つぎはリーダーとして
自分はどうなのかということだ。

ピストルではなく
あさは、相撲で勝負することに
した。

しかし・・・
あいては力自慢の男たちで
ある。

どうなるのだろうか????